透明な島の給食当番

透明な島の給食当番 第11話「第9章:三層の伏線回収(前編)」

その日の夜、僕は美央の家を訪ねた。美央は自分の部屋で膝を抱えて座っていた。黒板に書いたあの勇ましい文字とは裏腹に、彼女の背中はひどく小さく見えた。

その日の夜、僕は美央の家を訪ねた。美央は自分の部屋で膝を抱えて座っていた。黒板に書いたあの勇ましい文字とは裏腹に、彼女の背中はひどく小さく見えた。

「美央」

「……凪。私、最低だよね。ハル君を助けたいって言いながら、彼が一番嫌がることをしちゃった」

美央の声は枯れていた。彼女もまた、自分の「正義」が引き起こした結果に傷ついていたのだ。

「美央の気持ちは、ハルに伝わってるよ。ただ、伝え方が少しだけ急ぎすぎたんだ。ハルには、自分で自分の心を整理する時間が必要だったんだよ」

僕は美央の隣に座り、トミさんから聞いた話と、夕日ヶ丘でハルと話したことを全て伝えた。美央は静かに涙を流しながら聞いてくれた。

「私たちにできることは、ハルにお金を渡すことじゃない。彼が自分の言葉で『さよなら』を言える場所を作ることなんだ」

「……私に、何ができる?」

「明日の給食、美央に司会を頼みたい。でも、今度はハルを追い詰めるための司会じゃない。彼が話しやすいように、クラスの空気を整えてほしいんだ」

美央は力強く頷いた。

「わかった。任せて。私、もう間違えない」

次に僕は、給食室へと向かった。夜の給食室は不気味なほど静かだったが、トミさんは明日の準備のためにまだ残っていた。

「トミさん、お願いがあります。明日の献立、少しだけ変えてもらえませんか?」

「おや、凪君。給食当番が献立に口を出すなんて、珍しいね」

僕はトミさんに、自分の計画を話した。島が透明になる最後の日、文字を浮かび上がらせるのではなく、別の「魔法」をかけてほしいのだと。

トミさんは僕の話を最後まで聞くと、深く刻まれた目尻の皺をさらに深くして笑った。

「面白いね。給食当番としての初仕事だね、凪君。わかったよ、やってみようじゃないか」

僕は給食室を出て、夜の透明な島を歩いた。足元を透かして見える地下の光は、昨日よりも強まっているように見えた。島の図書館で読んだ「言葉を食べる魚」の伝説。それは、他人の秘密を暴く力ではなく、他人の痛みを飲み込んで、それを慈しみに変える「覚悟」のことだったのだ。

僕は自分の影を見つめた。透明な世界で、僕の影はどこまでも濃く、確かだった。