雨を集める宇宙港

雨を集める宇宙港 第9話「第8章:崩壊の序曲」

爆発的な圧力の放出により、デッキの一部が吹き飛んだ。 エドワードは噴き出した霧に視界を奪われ、よろめきながら後退した。 「……バカな! これでは宇宙港のシステムが……!」 「システムなんて、また作り直せばいい! でも、失われた命は戻らないんだ!」 カナタは肩の痛みに耐えながら立ち上がった。 外を見ると、驚くべき光景が広がっていた。 青白く発光していた捕雨膜が、今度は虹色の光を放っていた。放出された微細な霧が、稲妻の光を乱反射させ、空全体を巨大なプリズムに変えている。 そして、その霧は重力に従い、ゆっくりと、だが確実に地上へと降り注いでいった。 『カナタ! 聞こえるか!』 リアからの通信が入った

爆発的な圧力の放出により、デッキの一部が吹き飛んだ。
 エドワードは噴き出した霧に視界を奪われ、よろめきながら後退した。
「……バカな! これでは宇宙港のシステムが……!」
「システムなんて、また作り直せばいい! でも、失われた命は戻らないんだ!」
 カナタは肩の痛みに耐えながら立ち上がった。
 外を見ると、驚くべき光景が広がっていた。
 青白く発光していた捕雨膜が、今度は虹色の光を放っていた。放出された微細な霧が、稲妻の光を乱反射させ、空全体を巨大なプリズムに変えている。
 そして、その霧は重力に従い、ゆっくりと、だが確実に地上へと降り注いでいった。
『カナタ! 聞こえるか!』
 リアからの通信が入った。背景には、激しい雨の音が混じっている。
『雨よ! 雨が降ってきたわ! 霧みたいな、すごく細かい、でも温かい雨……! みんな、外に出て踊ってる!』
 カナタは微笑んだ。だが、安心している暇はなかった。
 宇宙港の各所で、爆発音が響き始めた。公社が設置した爆破ボルトが、予定通り作動し始めたのだ。
 捕雨膜を支える巨大なアームが、一本、また一本と切り離されていく。
「カナタ、逃げろ! そこが崩れる!」
 父の叫び声と同時に、カナタが立っていたデッキが大きく傾いた。
 エドワードはすでにジェットパックを起動し、脱出を図っていた。彼は捨て台詞のように叫んだ。
「これで満足か! 宇宙港は沈む。君たちの理想も、この瓦礫の下だ!」
 デッキが支柱から完全に離れ、虚空へと滑り出す。
 カナタは親綱を必死に手繰り寄せ、まだ支柱に残っているラダーへ飛び移ろうとした。
 だが、肩の傷が深く、力が入らない。
「……ここまで、か」
 指がラダーの端をかすめ、カナタの体は高度五千メートルから投げ出された。
 落下していく視界の中で、虹色の空が遠ざかっていく。
 その時、カナタの体を強い力が受け止めた。
「……え?」
 見上げると、そこには整備用の小型フライング・プラットフォームに乗ったゴンドウの姿があった。
「まったく、世話の焼ける弟子だぜ。レンの息子じゃなきゃ、見捨ててるところだ」
「ゴンドウさん……!」
「喋るな、酸素濃度が低いぞ。しっかり捕まってろ!」
 ゴンドウは巧みな操縦で、崩落する宇宙港の破片を避けながら、下層の安定した区画へと急降下していった。
 背後では、役目を終えた巨大な捕雨膜が、まるで光り輝く羽衣のように空に広がり、ゆっくりと分解されながら消えていった。
 空には、数年ぶりに見る、本物の「雨雲」が戻りつつあった。