雨を集める宇宙港 第7話「第6章:再会の雷鳴」
高度五千メートル、捕雨膜の基部デッキ。 視界を覆うのは、激しく発光するナノ繊維の海と、執拗に迫る保安ドローンの群れだった。 ドローンは四機。それぞれが電磁パルス銃を装備し、カナタの退路を断つように旋回している。 「……やるしかない」 カナタは、デッキの隅にある緊急用工具箱から、高強度のカーボンワイヤーを取り出した。整備士としての経験が、ドローンの動きを予測させる。彼らは効率的な軌道を好む。ならば、その軌道に「罠」を置けばいい。 カナタはワイヤーの一端をデッキの手すりに固定し、もう一端を自分自身のハーネスに繋いだ。そして、あえてドローンの射線に身を晒す。 一機のドローンが急降下してきた。電磁パル
高度五千メートル、捕雨膜の基部デッキ。
視界を覆うのは、激しく発光するナノ繊維の海と、執拗に迫る保安ドローンの群れだった。
ドローンは四機。それぞれが電磁パルス銃を装備し、カナタの退路を断つように旋回している。
「……やるしかない」
カナタは、デッキの隅にある緊急用工具箱から、高強度のカーボンワイヤーを取り出した。整備士としての経験が、ドローンの動きを予測させる。彼らは効率的な軌道を好む。ならば、その軌道に「罠」を置けばいい。
カナタはワイヤーの一端をデッキの手すりに固定し、もう一端を自分自身のハーネスに繋いだ。そして、あえてドローンの射線に身を晒す。
一機のドローンが急降下してきた。電磁パルスがカナタのすぐ脇を通り抜け、デッキの床を焦がす。
「今だ!」
カナタはデッキの縁から飛び降りた。自由落下。胃がせり上がるような感覚の中、自分とデッキを繋ぐワイヤーが、急降下してきたドローンのプロペラガードに絡みつく。
「墜ちろ!」
カナタがワイヤーを強く引くと、バランスを崩したドローンが別のドローンに激突した。火花が散り、二機が黒煙を上げて雲の底へと消えていく。
残る二機も、カナタが投げつけた重量のあるレンチによってセンサーを破壊され、制御を失って迷走を始めた。
ようやく静寂が戻った――いや、静寂ではない。捕雨膜が発する、地鳴りのような唸り声がますます大きくなっている。
カナタはデッキの中央にある、厳重にロックされた制御ハッチに辿り着いた。
「父さん、着いたよ」
カナタはヘルメットの通信を最大出力にした。
『……カナタ、よくやった。だが、公社が最終手段に出た。膜の固定ボルトに設置された爆破ボルトが起動準備に入った。あと十分で、膜は切り離される』
父の声が、ノイズの向こうで叫んでいる。
「十分……! ハッチを開けるよ」
カナタはペンダントの端子をハッチの鍵穴に叩き込んだ。認証シークエンスが走り、重厚な金属の扉がゆっくりと開く。
内部には、複雑に絡み合う光ファイバーと、高圧の集水パイプが密集していた。その中心に、父が「楔」と呼んだバイパス回路があるはずだ。
カナタが奥へ進むと、壁一面のモニターに宇宙港の現在の貯水状況が表示された。
タンク容量はすでに限界を超え、溢れた水が居住区の地下を浸食している。それでもなお、システムは「回収」を止めようとしない。
「……どうしてだ。どうしてここまでして、水を溜めようとするんだ?」
『それが「フェーズ4」の正体だ、カナタ』
父の声が悲しげに響いた。
『公社は、集めた水を単なる燃料にするつもりはない。彼らは、水を「核融合発電の重水素源」として、宇宙ステーションで独占的に精製する計画を立てている。地球の水を宇宙へ吸い上げ、エネルギーとして地上へ売りつける。完全な依存関係を作るのが彼らの狙いだ』
カナタは息を呑んだ。それは、地球という惑星から血液を抜き取り、それを輸血として高値で売りつけるような行為だ。
「そんなこと、許されるはずがない!」
『ああ。だから、私はこの膜を「肺」に変えるプログラムを作った。吸い込むのではなく、吐き出す肺だ。カナタ、右側の青いレバーを見ろ。それが手動の切り替え弁だ』
カナタは指示されたレバーに手をかけた。だが、それは強力な電磁ロックで固定されており、びくともしない。
「ダメだ、動かない!」
『公社のメインサーバーがロックを維持している。私が外からハッキングして一瞬だけ解除する。その瞬間に、全体重をかけて引くんだ』