雨を集める宇宙港

雨を集める宇宙港 第5話「第4章:青い暴走」

カナタは、宇宙港の外縁部にある、錆びついた観測塔に辿り着いた。 ここは数十年前、軌道エレベーターの建設初期に使われていた施設で、今は公社の監視網からも外れている。カナタは塔の内部にある古い端子に、再び父のペンダントを接続した。 「頼む、動いてくれ……!」 祈るような気持ちでコマンドを打ち込む。画面に映し出されたのは、捕雨膜の全体構造図だった。 現在、膜の稼働率は150%を超えている。青白く発光しているのは、ナノ繊維が空気中の静電気を過剰に吸収し、プラズマ化しているためだ。このままでは、膜自体が焼き切れるか、あるいは巨大な落雷を引き起こして周囲を焼き払うことになる。 『……カナタ、私だ』 突然、

カナタは、宇宙港の外縁部にある、錆びついた観測塔に辿り着いた。
 ここは数十年前、軌道エレベーターの建設初期に使われていた施設で、今は公社の監視網からも外れている。カナタは塔の内部にある古い端子に、再び父のペンダントを接続した。
「頼む、動いてくれ……!」
 祈るような気持ちでコマンドを打ち込む。画面に映し出されたのは、捕雨膜の全体構造図だった。
 現在、膜の稼働率は150%を超えている。青白く発光しているのは、ナノ繊維が空気中の静電気を過剰に吸収し、プラズマ化しているためだ。このままでは、膜自体が焼き切れるか、あるいは巨大な落雷を引き起こして周囲を焼き払うことになる。
『……カナタ、私だ』
 突然、通信ウィンドウが開いた。ノイズまみれの画面に映ったのは、父・レンの顔だった。
「父さん! 無事だったんだね」
『ああ。リアが連れてきてくれた。彼女から状況は聞いた。カナタ、時間が無い。公社は今、膜の「緊急切り離し」を検討している』
「切り離し? そんなことをしたら、あの巨大な膜が地上に落ちるんじゃ……」
『それだけじゃない。膜に蓄えられた数百万トンの水が、一気に重力に従って落下する。それは雨じゃない。巨大な質量弾となって、下流域の町を飲み込む洪水になるんだ』
 カナタは戦慄した。公社は、自分たちの施設を守るためなら、地上の数万人を見捨てて「掃除」することを選ぼうとしている。
「どうすればいい? 僕にできることを言って」
『膜の先端にある「大気拡散バルブ」を手動で開放するんだ。あそこには、私が隠しておいたバイパス回路がある。それを起動すれば、膜は水を吸い込むのをやめ、逆に微細な霧として全方位に放出し始める。そうすれば、膜の負荷は下がり、地上には恵みの雨が降る』
「先端って……高度五千メートルの、あの場所まで行けってこと?」
『そうだ。だが、公社の警備隊がエレベーターの昇降機を封鎖しているはずだ。お前なら、整備用の外壁ラダーを使えるだろう』
 父の言葉は重かった。高度五千メートル。暴風と雷が吹き荒れる中、命綱一本で登り切れる保証はない。
「……わかった。やってみるよ」
『カナタ、すまない。お前にこんな役割を……』
「いいんだ。僕だって、整備士だ。壊れたものを直すのが、僕の仕事だから」
 カナタは通信を切ると、観測塔の備品室から高所作業用のフルハーネスと、携帯用の酸素ボトルを持ち出した。
 塔を出ると、風はいっそう強まっていた。宇宙港の直上に渦巻く黒雲は、まるで巨大な怪物の口のように見えた。