泣かないロボットの遺言状

泣かないロボットの遺言状 第9話「第八章:優しい嘘の設計図と法的解決」

高坂所長は、健二の強硬な態度に折れ、渋々と引き上げていった。しかし、彼は去り際に律に冷たく告げた。「君は司法書士としてのキャリアを捨てたも同然だぞ。依頼人の経済的利益を損なわせ、不確かな情緒を優先したのだからな。君の資格は泣いているぞ」 「いいえ、所長」 律は晴れやかな顔で答えた。「私は、依頼人の『幸福』という名の無形資産を守りました。それは、どんな貸借対照表にも載らない、最も価値のある資産です。私の資格は、今、初めて誇りを感じています」 巽邸に、本当の静寂と平穏が戻ってきた。 健二は慎一郎の書斎の机に座り、父が遺した膨大な法的資料と技術資料を整理し始めた。 「律くん、親父が言っていた『特許』

高坂所長は、健二の強硬な態度に折れ、渋々と引き上げていった。しかし、彼は去り際に律に冷たく告げた。「君は司法書士としてのキャリアを捨てたも同然だぞ。依頼人の経済的利益を損なわせ、不確かな情緒を優先したのだからな。君の資格は泣いているぞ」
「いいえ、所長」
 律は晴れやかな顔で答えた。「私は、依頼人の『幸福』という名の無形資産を守りました。それは、どんな貸借対照表にも載らない、最も価値のある資産です。私の資格は、今、初めて誇りを感じています」
 巽邸に、本当の静寂と平穏が戻ってきた。
 健二は慎一郎の書斎の机に座り、父が遺した膨大な法的資料と技術資料を整理し始めた。
「律くん、親父が言っていた『特許』の話、本当なのか?」
「はい。モモの感情制御プログラムの中には、慎一郎先生が独自に開発し、登録していた技術がいくつかあります。特に『倫理的矛盾解決アルゴリズム』は、現在のAI開発において非常に価値が高いものです。これのライセンス収入があれば、借金の返済計画は十分に立てられます。私が信託スキームを組みましょう」
「親父は……俺を助けるための『法』を、ちゃんと準備してくれてたんだな。言葉ではなく、仕組みで俺を守ろうとしていたんだ」
 健二は父の古い万年筆を手に取り、愛おしそうに眺めた。
 その時、モモが健二の隣に歩み寄った。
「健二様、コーヒーを淹れましょうか。慎一郎様が好まれた、少し苦めのブレンドです。温度は八十二度に設定します」
「ああ……頼むよ、モモ。これから忙しくなりそうだ」
 モモの動作は、以前よりもどこか軽やかで、人間味を帯びているように見えた。
 律は窓の外を見た。午後二時十三分はとうに過ぎ、空は美しい夕焼けに染まっていた。
「律さん、本当にありがとう」
 花が律の手を握った。その手は温かく、未来への確かな希望に満ちていた。