夜の交差点にだけ咲く花

夜の交差点にだけ咲く花 第6話「第5章:アスファルトの下の記憶」

逃げ込んだのは、昼間の再開発地区だった。工事の騒音と埃が舞う中、柚葉は朔に指定された地下通路の入り口へと向かった。 「遅かったな」 古びた換気口の影から、朔が姿を現した。彼は柚葉の怯えた表情を見て、すべてを察したように頷いた。 「企業が動き出したか。彼らにとって、あの交差点は単なる開発用地じゃない。巨大な『記憶の鉱山』なんだ」 朔は重い鉄の扉を開け、地下へと続く階段を指差した。 「案内しよう。葵さんが見つけようとしていた、この街の心臓部へ」 懐中電灯の光だけを頼りに、二人は湿った地下道を降りていった。そこはかつての下水道の跡地か、あるいは戦前の防空壕の残骸か。壁面には奇妙な文様が刻まれていた。

逃げ込んだのは、昼間の再開発地区だった。工事の騒音と埃が舞う中、柚葉は朔に指定された地下通路の入り口へと向かった。
「遅かったな」
 古びた換気口の影から、朔が姿を現した。彼は柚葉の怯えた表情を見て、すべてを察したように頷いた。
「企業が動き出したか。彼らにとって、あの交差点は単なる開発用地じゃない。巨大な『記憶の鉱山』なんだ」
 朔は重い鉄の扉を開け、地下へと続く階段を指差した。
「案内しよう。葵さんが見つけようとしていた、この街の心臓部へ」
 懐中電灯の光だけを頼りに、二人は湿った地下道を降りていった。そこはかつての下水道の跡地か、あるいは戦前の防空壕の残骸か。壁面には奇妙な文様が刻まれていた。
「見て、これ……」
 柚葉が指差した先には、壁一面を覆う巨大な「根」があった。それは植物の根というよりは、血管のように脈打ち、淡い青色の光を放っている。
「これがメモリア・リリーの本体だ」
 朔が静かに言った。
「地上の花は、この巨大な根から分かれた端末に過ぎない。この街で生きた人々の感情や記憶は、すべてこの根を通じて循環している。リライト社は、この根を直接ハッキングして、人々の記憶をデータとして抽出・売買しようとしているんだ」
 さらに奥へ進むと、開けた空間に出た。そこには祭壇のような石積みがあり、その中央に葵が身につけていたはずの銀のペンダントが落ちていた。
 柚葉はそれを拾い上げ、胸に抱いた。ペンダントからは、葵の微かな体温が伝わってくるようだった。
「お姉ちゃんは、ここで何かを守ろうとしていたのね」
「ああ。この根の最深部にある『核』を、彼らの欲望から守るために」
 その時、背後で重厚な足音が響いた。