夜の交差点にだけ咲く花 第7話「第6章:摘み取られた声」
「そこまでだ、蓮見君」 通路の奥から、数人の警備員を引き連れた男が現れた。白衣のようなコートを羽織った、眼鏡の男。リライト・ホールディングスの開発部長、成瀬だった。 「成瀬……やはり貴方の仕業か」 朔が低く唸る。 「君が逃げ出したせいで、プロジェクトが大幅に遅れたよ。だが、幸いにも九条葵が残した『種』の場所は特定できた。あとは彼女の妹である君が、その鍵を開けてくれればいい」 成瀬は冷酷な笑みを浮かべ、手に持っていた装置を操作した。 突如、地下空間全体が激しい振動に見舞われた。壁面の根が苦しげにのたうち回り、地上の六角交差点の方向から、無数の悲鳴のような音が響いてくる。 「何をしたの!?」 「強
「そこまでだ、蓮見君」
通路の奥から、数人の警備員を引き連れた男が現れた。白衣のようなコートを羽織った、眼鏡の男。リライト・ホールディングスの開発部長、成瀬だった。
「成瀬……やはり貴方の仕業か」
朔が低く唸る。
「君が逃げ出したせいで、プロジェクトが大幅に遅れたよ。だが、幸いにも九条葵が残した『種』の場所は特定できた。あとは彼女の妹である君が、その鍵を開けてくれればいい」
成瀬は冷酷な笑みを浮かべ、手に持っていた装置を操作した。
突如、地下空間全体が激しい振動に見舞われた。壁面の根が苦しげにのたうち回り、地上の六角交差点の方向から、無数の悲鳴のような音が響いてくる。
「何をしたの!?」
「強制開花だよ。特殊な励起信号を送って、地中の未練を一気に引きずり出す。質より量だ。この街の記憶をすべて搾り取り、サーバーにアップロードする」
柚葉は崩れ落ちる瓦礫を避けながら、朔と共に地上へと駆け上がった。
六角交差点は、地獄のような光景に変わっていた。
まだ深夜二時ではないというのに、アスファルトのあちこちから無理やり引き裂かれたような花が咲き乱れている。その色は白ではなく、血のような赤や、泥のような黒に濁っていた。
「ああ……助けて……痛い……」
「どうして……忘れたくないのに……」
重なり合う無数の声が、物理的な衝撃となって柚葉を襲う。それは「言えなかった一言」などという穏やかなものではなく、引き剥がされた魂の絶叫だった。
成瀬の部下たちが、大型の吸引機のような機械でそれらの花を次々と吸い込んでいく。
「やめて! そんなことしちゃダメ!」
柚葉は叫んだが、その声は機械音にかき消された。
「柚葉、葵さんの場所へ行け!」
朔が警備員を食い止めながら叫んだ。
「あの蕾だけは、まだ彼らの手に落ちていない。君の想いだけが、あの花を正しく咲かせられるんだ!」
柚葉は必死に走った。泥にまみれ、膝を擦りむきながら、交差点の中央にある葵の蕾へと手を伸ばした。
しかし、その指が触れる直前、成瀬の放ったドローンが蕾を掴み、空へと舞い上がった。
「お姉ちゃん!」
柚葉の叫びは、再開発地区の冷たい夜空に虚しく響き渡った。