夜の交差点にだけ咲く花 第4話「第3章:拾われた未練」
翌晩、柚葉は再び交差点へと向かった。朔から教わった「育てる」という意味を反芻しながら。 しかし、交差点に辿り着いた彼女の目に飛び込んできたのは、無残な光景だった。 深夜二時。信号が赤に変わると同時に咲き乱れたはずの花々が、次々とむしり取られている。 「あはは、最高だ! 今日のやつは『愛してる』だってよ。泣けるねえ!」 下卑た笑い声を上げながら、派手なスカジャンを着た男が花を摘み取っていた。彼が花を手に取るたび、白い光は泥のように濁り、男の体内に吸い込まれていく。 「やめて!」 柚葉は思わず叫び、男に駆け寄った。 「何すんだよ、お嬢ちゃん」 男は不快そうに目を細めた。その瞳は充血し、異常な興奮で
翌晩、柚葉は再び交差点へと向かった。朔から教わった「育てる」という意味を反芻しながら。
しかし、交差点に辿り着いた彼女の目に飛び込んできたのは、無残な光景だった。
深夜二時。信号が赤に変わると同時に咲き乱れたはずの花々が、次々とむしり取られている。
「あはは、最高だ! 今日のやつは『愛してる』だってよ。泣けるねえ!」
下卑た笑い声を上げながら、派手なスカジャンを着た男が花を摘み取っていた。彼が花を手に取るたび、白い光は泥のように濁り、男の体内に吸い込まれていく。
「やめて!」
柚葉は思わず叫び、男に駆け寄った。
「何すんだよ、お嬢ちゃん」
男は不快そうに目を細めた。その瞳は充血し、異常な興奮で瞳孔が開いている。
「それは誰かの大切な記憶なのよ。勝手に摘まないで!」
「大切な記憶? 笑わせんな。死んじまった奴の言葉なんて、残しておいたってゴミになるだけだろ。俺たちが食って成仏させてやってんだよ」
男は足元に咲いていた小さな花を、無造作に踏み潰した。
「ひっ……」
踏みにじられた花から、悲鳴のようなノイズが響いた気がした。男は柚葉を突き飛ばすと、闇の中へと消えていった。
地面に残されたのは、枯れ果てた植物の残骸と、異常に乾燥しきった土だけだった。
「あいつらは『摘み人』の中でも質の悪い連中だ」
いつの間にか現れた朔が、柚葉に手を貸した。
「未練を消費することで、自分の空虚さを埋めようとしている。だが、彼らが花を摘むたび、この土地の記憶の土壌は死んでいく。いずれ、ここには何も咲かなくなるだろう」
柚葉は泥のついた手を握りしめた。葵の蕾がある場所を見る。そこは幸いにも摘み人に気づかれなかったようだが、周囲の土は確実に痩せ細っていた。
「お姉ちゃんの花が咲く前に、ここが死んじゃう……」
「阻止する方法は一つ。摘み取られる前に、記憶を『咲かせ直す』ことだ」
朔の瞳に、強い意志の光が宿った。
「だが、それには君が姉さんの死の真実と向き合う必要がある。九条柚葉、君は準備ができているか?」
柚葉は震える肩を抑え、深く頷いた。姉が最期に握っていた「種」の記憶が、心の奥底で微かに疼いた。