鳥籠列車は冬を運ぶ

鳥籠列車は冬を運ぶ 第9話「第8章:別れの記憶の貯蔵庫」

ユノは鳥籠の格子の中に、自らの手を差し入れた。 瞬間、凄まじい衝撃が彼女の脳内を駆け巡った。 それは数千、数万という人々の「さよなら」の奔流だった。 『ごめんね、先にいくよ』 『いつかまた、どこかで会えるかな』 『忘れたくない、この冷たさを』 それは悲鳴ではなく、静かな諦念と、その先にある小さな希望の言葉たちだった。冬の鳥籠とは、管理局が作った気象兵器などではなかった。それは、大陸中の人々が捨て去ろうとした、あるいは抱えきれなくなった「別れの記憶」を受け止めるための、巨大な器だったのだ。 管理局はその器を「季節」という名で包装し、効率的に処理するために利用していた。冬が来ると人々が感傷的になる

ユノは鳥籠の格子の中に、自らの手を差し入れた。
 瞬間、凄まじい衝撃が彼女の脳内を駆け巡った。
 それは数千、数万という人々の「さよなら」の奔流だった。
『ごめんね、先にいくよ』
『いつかまた、どこかで会えるかな』
『忘れたくない、この冷たさを』
 それは悲鳴ではなく、静かな諦念と、その先にある小さな希望の言葉たちだった。冬の鳥籠とは、管理局が作った気象兵器などではなかった。それは、大陸中の人々が捨て去ろうとした、あるいは抱えきれなくなった「別れの記憶」を受け止めるための、巨大な器だったのだ。
 管理局はその器を「季節」という名で包装し、効率的に処理するために利用していた。冬が来ると人々が感傷的になるのは、空から降る雪の一粒一粒が、誰かの記憶の欠片だからだ。
「そうか……だから冬は、こんなに重くて、温かいんだ……」
 ユノの目から涙が溢れ出した。その涙は地面に落ちる前に、一粒の純白の結晶へと変わった。
 彼女の背後で、客車から降りてきたエララが、手紙を握りしめたまま呆然と立っていた。
「車掌さん、私……思い出しました。彼が死ぬ間際に言ったこと。『冬になったら、僕のことを雪だと思って、一度だけ泣いてくれ』って。でも私は、泣くのが怖くて、ずっと春の街に逃げていた……」
 エララが手紙を鳥籠にかざすと、封筒が淡い光を放ち、鳥籠の中へと吸い込まれていった。
 すると、どうだろう。空っぽだった鳥籠の中に、再び銀色の渦が生まれ始めたではないか。
「記憶を……別れを『手放す』ことが、冬を作る燃料になる?」
 サイラスが驚愕の声を上げた。
 冬とは、独占するものでも、押し付けるものでもない。人々が過去を正しく手放し、新しい季節へ向かうための「儀式」そのものだったのだ。