鳥籠列車は冬を運ぶ

鳥籠列車は冬を運ぶ 第13話「第12章:季節の夜明け」

爆音と光が収まった時、氷翼号は天頂の配分所の廃墟に、静かに停車していた。 周囲には、見たこともないほど美しい、純白の雪が降り積もっていた。それは音を吸い込み、すべてを優しく包み込む、本物の雪だった。 ユノは運転席から降り、雪の上に足を下ろした。キュッ、という心地よい音が足元から響く。 「……終わったんだね」 隣に立つサイラスが、深く息を吐いた。彼の顔からは険しさが消え、ただの優しい老人の表情に戻っていた。 「ああ。これからは、管理局の指図じゃなく、空が決めることだ。明日が春になるか、まだ冬が続くか……それは、誰にも分からない」 管理局の組織は事実上崩壊した。季節を独占していたシステムは壊れ、こ

爆音と光が収まった時、氷翼号は天頂の配分所の廃墟に、静かに停車していた。
 周囲には、見たこともないほど美しい、純白の雪が降り積もっていた。それは音を吸い込み、すべてを優しく包み込む、本物の雪だった。
 ユノは運転席から降り、雪の上に足を下ろした。キュッ、という心地よい音が足元から響く。
「……終わったんだね」
 隣に立つサイラスが、深く息を吐いた。彼の顔からは険しさが消え、ただの優しい老人の表情に戻っていた。
「ああ。これからは、管理局の指図じゃなく、空が決めることだ。明日が春になるか、まだ冬が続くか……それは、誰にも分からない」
 管理局の組織は事実上崩壊した。季節を独占していたシステムは壊れ、これからは各地の自治体が、自然と対話しながら生きていくことになるだろう。
 ヴォルグは管理局の残党をまとめるために去り、エララは雪の中に立ち尽くして、空を見上げていた。彼女の頬を伝う涙は、もはや凍ることはなかった。
 ユノは、手元に残った空の鳥籠を見つめた。
 真鍮の枠だけになったそれは、もはや何も閉じ込めていない。ただ、冬の日の名残のような、心地よい冷たさを保っているだけだ。
「ユノ、これからどうする?」
 サイラスの問いに、ユノは迷わず答えた。
「私は、これからも列車に乗ります。季節を運ぶためじゃなく……誰かの大切な時間を運ぶために」
 彼女は列車の側面を優しく叩いた。ボロボロになった氷翼号だが、そのエンジンはまだ力強く鼓動している。
「世界中が、新しい季節に戸惑うはずです。さよならを言えた人、まだ言えずにいる人……そういう人たちを乗せて、私は次の駅へ行きます」
 ユノは車掌の帽子を深くかぶり直し、プラットホームの端にある鐘を鳴らした。
 澄んだ音が、雪の降る大陸に響き渡る。
 それは、管理された平穏の終わりと、不自由で美しい、新しい世界の始まりを告げる音だった。