鳥籠列車は冬を運ぶ

鳥籠列車は冬を運ぶ 第12話「第11章:北の果ての決戦」

列車はついに、大陸の頂点、標高八〇〇〇メートルの《天頂配分所》へと至る螺旋線路に差し掛かった。ここは管理局の心臓部であり、すべての季節が管理・発送される場所だ。雲を突き抜けたその場所には、巨大な真鍮とガラスの塔がそびえ立ち、周囲には無数の浮遊ドローンが巡回していた。 上空では、管理局の長官ソランが座乗する旗艦《エターナル・スプリング》が、巨大な日傘のような防壁を展開し、冬の到来を阻んでいた。旗艦の側面には無数の魔導砲が並び、その銃口はすべて氷翼号に向けられている。 『愚かな。冬などという停滞の季節に、何の価値がある。人間は永遠の春の中で、ただ消費し、楽しんでいればいいのだ! 悲しみも、別れも、

列車はついに、大陸の頂点、標高八〇〇〇メートルの《天頂配分所》へと至る螺旋線路に差し掛かった。ここは管理局の心臓部であり、すべての季節が管理・発送される場所だ。雲を突き抜けたその場所には、巨大な真鍮とガラスの塔がそびえ立ち、周囲には無数の浮遊ドローンが巡回していた。
 上空では、管理局の長官ソランが座乗する旗艦《エターナル・スプリング》が、巨大な日傘のような防壁を展開し、冬の到来を阻んでいた。旗艦の側面には無数の魔導砲が並び、その銃口はすべて氷翼号に向けられている。
『愚かな。冬などという停滞の季節に、何の価値がある。人間は永遠の春の中で、ただ消費し、楽しんでいればいいのだ! 悲しみも、別れも、死への恐怖も、すべて我々が管理してやる。それが究極の福祉ではないか!』
 長官ソランの声が、天から降る神の宣告のように響く。それと同時に、旗艦の主砲が最大出力で充填され始めた。周囲の空気が熱を帯び、空間が歪むほどのエネルギーが集中していく。
「ユノ、準備はいいか!」
 機関室からサイラスの声が響いた。彼は遠隔操作で、列車の全エネルギーを鳥籠へと回した。ボイラーは限界を超えて真っ赤に焼け、蒸気が悲鳴を上げている。
「いいよ、サイラスさん! みんなの冬を、空に返そう!」
 ユノはヴォルグから受け取ったキーを鳥籠の台座に差し込み、一気に回した。
 その瞬間、氷翼号が眩い白光に包まれた。
 鳥籠の格子が弾け飛び、中から解き放たれたのは、大陸全土から集まった数億人分の「さよなら」の結晶だった。
 それは巨大な白銀の龍となって天へと昇り、管理局の防壁を紙細工のように食い破った。旗艦の主砲が放った熱線も、その圧倒的な「冬の重み」の前に霧散していく。龍は旗艦《エターナル・スプリング》の周囲を旋回し、その熱狂的な春の空気を、一瞬にして静謐な冬へと塗り替えていった。
 ユノは光の渦の中心で、自分の意識が世界と繋がるのを感じた。
 彼女は見た。長官ソランが、自分の旗艦のブリッジで、かつて自分が捨て去ったはずの「幼い頃に亡くした妹」の記憶を突きつけられ、膝をつく姿を。彼もまた、冬を恐れるあまり、自分の心を春の牢獄に閉じ込めていたに過ぎなかったのだ。
 冬が、世界に帰ってきた。
 それは厳しく、冷たく、けれど残酷なほどに平等な季節。
 光の龍が天頂の配分所を貫くと、そこにあった「季節の在庫」がすべて解放された。春、夏、秋、そして冬。四つの季節が本来の奔放さを取り戻し、大陸全土へと雪崩れ込んでいった。配分所の塔は崩壊し、そこから溢れ出した季節の奔流は、大陸を覆っていた灰色の霧を吹き飛ばし、鮮やかな色彩を取り戻させていった。
 ユノは最後に見えた。リインの村で、氷が溶け、人々がゆっくりと呼吸を始めるのを。サイラスの孫娘が、三十年前のあの日の続きを生きるために、一歩を踏み出すのを。
「さようなら、管理局。そして、おかえりなさい、私たちの冬」
 ユノは静かに目を閉じ、降り注ぐ雪の冷たさを全身で受け止めた。その冷たさは、何よりも温かく、彼女の心を癒していった。

列車はついに、大陸の頂点、標高八〇〇〇メートルの《天頂配分所》へと至る螺旋線路に差し掛かった。ここが管理局の心臓部であり、すべての季節が管理・発送される場所だ。
 上空では、管理局の長官が座乗する旗艦《エターナル・スプリング》が、巨大な日傘のような防壁を展開し、冬の到来を阻んでいた。
『愚かな。冬などという停滞の季節に、何の価値がある。人間は永遠の春の中で、ただ消費し、楽しんでいればいいのだ!』
 長官の傲慢な声が天から降る。それと同時に、旗艦の主砲が最大出力で充填され始めた。
「ユノ、準備はいいか!」
 機関室からサイラスの声が響いた。彼は遠隔操作で、列車の全エネルギーを鳥籠へと回した。
「いいよ、サイラスさん! みんなの冬を、空に返そう!」
 ユノはヴォルグから受け取ったキーを鳥籠の台座に差し込み、一気に回した。
 その瞬間、氷翼号が眩い白光に包まれた。
 鳥籠の格子が弾け飛び、中から解き放たれたのは、大陸全土から集まった数億人分の「さよなら」の結晶だった。
 それは巨大な白銀の龍となって天へと昇り、管理局の防壁を紙細工のように食い破った。旗艦の主砲が放った熱線も、その圧倒的な「冬の重み」の前に霧散していく。
 ユノは光の渦の中心で、自分の意識が世界と繋がるのを感じた。
 彼女は見た。凍りついていたリインの村で、サイラスの孫娘がゆっくりと目を開けるのを。
 彼女は見た。中央都市の贅沢なサロンで、貴婦人がふと窓の外を見て、遠い昔に亡くした恋人のことを思い出して涙するのを。
 冬が、世界に帰ってきた。
 それは厳しく、冷たく、けれど残酷なほどに平等な季節。
 光の龍が天頂の配分所を貫くと、そこにあった「季節の在庫」がすべて解放された。春、夏、秋、そして冬。四つの季節が本来の奔放さを取り戻し、大陸全土へと雪崩れ込んでいった。