鳥籠列車は冬を運ぶ 第1話「プロローグ:白銀の重み」
大陸横断鉄道《氷翼号》の最後尾、第十二号貨物車両は、一年を通じて凍てついている。鉄の扉を開けるたび、見習い車掌のユノは、肺の奥まで凍りつくような錯覚に襲われた。 「……よし、今日も異常なし」 吐き出す息が白く濁り、まつ毛に霜が降りる。彼女の目の前には、天井から吊るされた巨大な真鍮製の鳥籠があった。中には鳥などいない。ただ、狂おしいほどに激しい吹雪が、目に見えない中心を軸にして渦巻いている。 それが、この世界の「冬」そのものだった。 中央季節管理局《セレスティア》が魔導技術によって封じ込めた季節の概念。ユノの仕事は、この鳥籠を北の果てにある山地の配分所まで、無事に届けることだ。 ユノは厚手の革手
大陸横断鉄道《氷翼号》の最後尾、第十二号貨物車両は、一年を通じて凍てついている。鉄の扉を開けるたび、見習い車掌のユノは、肺の奥まで凍りつくような錯覚に襲われた。
「……よし、今日も異常なし」
吐き出す息が白く濁り、まつ毛に霜が降りる。彼女の目の前には、天井から吊るされた巨大な真鍮製の鳥籠があった。中には鳥などいない。ただ、狂おしいほどに激しい吹雪が、目に見えない中心を軸にして渦巻いている。
それが、この世界の「冬」そのものだった。
中央季節管理局《セレスティア》が魔導技術によって封じ込めた季節の概念。ユノの仕事は、この鳥籠を北の果てにある山地の配分所まで、無事に届けることだ。
ユノは厚手の革手袋越しに、鳥籠の格子に触れた。指先から伝わってくるのは、単なる低温ではない。誰かが遠くで泣いているような、あるいは大切な名前を呼び続けているような、かすかな振動。
「重い……」
冬は重い。それは雪の重みではなく、その季節が内包する「記憶」の重みだと、先輩車掌は教えてくれた。
だが、その日の点検で、ユノは奇妙な違和感を覚えた。鳥籠の底、精緻な彫刻が施された台座の端から、銀色の光が砂のようにこぼれ落ちていたのだ。それは床に触れる前に消えてしまうが、籠の中の吹雪は、昨日よりも確実に勢いを失っているように見えた。
出発の汽笛が鳴り響く。重厚な車輪が軋みながら回転を始め、列車はゆっくりと動き出した。ユノは胸騒ぎを覚えながらも、貨物室の重い扉を閉めた。