遺失物課の鑑識員

遺失物課の鑑識員 第23話「第21章」

葵が薄暗いデータ室のモニタをスクロールさせるたび、画面の粒が細かく鳴った。拡大と補正を何度も重ねた結果、ついに鳴海の古い写真の一部に浮かび上がった人物の輪郭がはっきりとした。光の加減で歪んだ顔が、今はもう開発顧問として駅の再開発計画の表舞台に立つ男のものであることを、誰の目にも認めさせるだけの解像度を持っていた。

葵が薄暗いデータ室のモニタをスクロールさせるたび、画面の粒が細かく鳴った。拡大と補正を何度も重ねた結果、ついに鳴海の古い写真の一部に浮かび上がった人物の輪郭がはっきりとした。光の加減で歪んだ顔が、今はもう開発顧問として駅の再開発計画の表舞台に立つ男のものであることを、誰の目にも認めさせるだけの解像度を持っていた。

「ここだ」葵が息を吸い、低く言った。指先が震えている。画面の中、男は手に小さな封筒のようなものを持っている。指先に付いた汚れ、袖の縫い目の擦り切れ方までが、かつて鳴海が写した写真の古い粒子から掘り起こされている。男の横顔は紬が前世で見知った誰かの記憶の断片と、どこか重なっているように見えた。

石神が椅子から立ち上がり、静かに前に出た。「名は——大槻正孝だ。再開発の顧問。表向きは公共事業の顔として信用を集めているが、私が以前接した人物だ。鳴海、君はどうしてこの写真を持っていた?」

鳴海はゆっくりと首を振った。埋め込まれた皺が深くなる。「私は当時、記憶修復師として彼と接点があった。だが写真を撮ったのはそれより後だ。詳細は言えなかった。ただ、私の過去の顧客名簿に彼の名前がある。何らかの形で、旧北口のことに関わっている」

凪の眉が跳ねる。「それで、なんでその男が紬さんの前世の事故に……?」

葵の指が別のウィンドウを開き、過去に押さえた証拠写真の一枚を画面に重ねた。焦げた切符の写真だ。そこに残る微かな刻印の断片が、鳴海の写真に写る名札の断片と一致する。切符の焦げ跡に残された物質の分析結果が葵の解析から提示される。古い防火処理剤の成分、研磨粒子の混入、そして金属片の微粒子。旧北口の保守用資材に特有の指紋だった。

「これが事故現場の証跡と一致している」葵は淡々と告げる。「そして写真の男は、その現場と何らかの関係を持っていた可能性が高い。契約書、出入り記録——それらを追えば、駅上層部の誰かと繋がる線が見えてくる」

空気が沈み、誰もがそれを聞き届けた。しかし沈黙を破ったのは、予想外の声だった。凪が立ち上がり、身を乗り出すと、手の甲をぎゅっと握りしめた。

「私だ。俺が、その男に関わった」その言葉は会室の床に重く落ちた。凪の顔色はさほど変わらなかったが、その目は乾いていた。「昔の話だ。拾得癖って言ってくれよ。だが、ただの拾い屋ってわけじゃなかった。あの時は、金に困ってた。あんたらは知らないだろうけど、駅の裏道は汚い仕事が集まる。俺は言われた物を回収してただけだ。封筒だとか、箱だとか。金さえくれれば。」

紬は固まった。凪の声に含まれた乾いた自責は、彼女の胸に小さな痛みを落とした。石神の目が凪に向いた。表情は怒りでもなく、苛立ちでもなく、ただ厳しかった。

「どの程度関わっていたんだ、凪」石神が尋ねた。

凪は咳き込み、言葉を選びながら答えた。「ある夜、若かった俺は封筒を渡すだけでいいって言われた。大槻って男の運転手だか、取り巻きだかに渡せばいいって。あの封筒の中身が何かなんて見ちゃいけないって。けど、その時見たのは、焦げた切符の端っこだった。汚れてて、焦げて――それがどうにも臭くて、胸糞悪かった。俺はそれを渡した。その次の日、駅で大きな事故があった。俺は、関係者に繋がる小さな役割を果たしただけだ。だが、あれからずっと、俺はあの夜のことを忘れられなかった。だから今、ここにいる。あんたらに迷惑をかけたくなかったけど、隠し通せるほど強くもなかった」

鳴海の瞳が濡れた。彼女は凪の肩に手を置き、短く絞るように言った。「何故今まで言わなかった?」

「怖かったんだよ」凪は肩を震わせた。「言ったら、皆の命に関わるって思った。俺を疑うかもしれない。だがもう隠しておけるほど小さくねえ。仲間を守りたかったんだ。だが、それで守れるもんでもなかった」

静寂の後、石神がゆっくり息を吐いた。「凪。君の過去の行為は違法だろう。だが、今は君がそれを明かしたことが重要だ。隠蔽に手を貸したかもしれないが、故意に誰かを傷つけようとしたのではない。反省と告白は重い。ただし、我々はそれを使って真実に迫る。君を吊るために誰もここにいるわけではない」

それは糸のように切れそうな信頼の回復だった。凪の肩が少しだけ軽くなった。紬はその様子を見ながら、自分の左手に目を落とす。痣が光るように感じられた。錯覚か、あるいは志しの熱が手のひらから広がっているのかもしれない。だが紬は自分に強く言い聞かせた——私情で判断しないこと。代償は一度で十分だ。

「さて、行動に移す」葵が再び口を開いた。「我々には新しいピースがある。大槻が旧北口の出入りをしていた記録と、凪の証言、そしてこの焦げ切符。これを結びつけるには物理的な証拠が必要だ。旧北口の保守サーバと、そこに残るログ、そして——可能なら切符そのものを手に入れる。だが切符は慎重に扱わねばならない」

紬の胸が跳ねた。机に置かれた小さな封筒の中には、現場から持ち帰った焦げ切符の一部が保存されている。封筒の封は石神が厳重に施したもので、鳴海の指紋は付いていなかった。紬はそれを見つめると、内部で鳥が羽ばたくような感覚を覚えた。もしあの切符を触れば、あの「一瞬」を見ることができるかもしれない——転生前の、あの日の最後の光景。だがそれを私事で行えば代償が降りかかる。自分の意志が混ざれば、記憶を失う。失った記憶は誰にも戻せない穴となる。

「紬」鳴海が、少しだけ声を低くした。「もし再生を行うなら、公的な手続きの下でやるべきよ。警察に立ち会わせて、我々の判断で、証拠保全のためにだ。決して個人的な好奇心で再生してはいけない。あなたが代償を負う理由は無意味になってしまう」

紬は頷いた。言葉にするのは簡単だ。だが心の奥の小さな火は消えない。今、ここで一歩踏み出せば、自分の前世のかすかな輪郭が少しだけ濃くなるかもしれない。だが代わりに、最近の誰かとの会話、ささやかな幸福の欠片を――失う。葵の解析図がテーブルの端で光り、石神の冷静な目が紬を捉えた。凪は腕組みをしているが、その視線は──期待と恐怖が混ざった何かだった。

「我々は公的な手段でやる」石神が宣言する。「警察の介入を要請するが、急を要する。葵、現場のログのコピーデータは送ったか?」

「送った。だが原本を押さえないと、改竄される危険がある」葵が答えた。「旧北口にはまだ稼働している保守用ラックがあるはずだ。そこを押さえ、現場で物理的証拠を確保する。紬、我々はあなたに頼る。あなたの能力で再生を行う。だが条件は明確だ。公的な手続きのもと、法執行機関の立ち会い、記録を取らせる。私情は禁ずる。君が私情で判定したと見なされれば、代償が発動する」

紬は深呼吸して、手の平の痣を見つめた。そこに、緊張が一層走る。痣はほんのわずかに脈打つように光った。胸の中に、誰かの呼吸音が重なる。紬はもう一度、静かに首を振った。「分かりました。私情は持ち込みません。公的に、真実のために使います」

凪が、ぎこちない笑みを浮かべた。「ああ、頼むぜ。俺らの汚い過去も洗い流すつもりだ」

翌朝、旧北口の保守区画は騒然としていた。外はまだ薄い霧が残り、錆びた鉄柵の隙間から朝日が差し込む。葵が持