異世界転生鉛筆工の王女
一本の鉛筆で、言葉の所有を取り戻す。
あらすじ
ハルは王女に仕える鉛筆工。前世の職人としての習慣と技術を引き継ぎ、自ら削った鉛筆で紙に記した言葉を一晩だけ現実に働かせる能力を持つ。ただしルールは厳格だ──自分で削ること、書くのはその人自身であること、効果は一晩だけ。人の手を取って書かせれば文字は刃となり、ハルの指は動かなくなる。王太后による文字の登録・管理制度が村々を覆う中、ハルは井戸や橋を救い、夜の読み書き場を開き、鉛筆と書く技術を村人に渡していく。一方で、写本に残る消えない誤字や折れた芯に混ざる得体の知れない欠片が、制度の背後にある供給網と監視の仕組みを示唆する。指先の痺れという代償を抱えつつ、ハルは「誰もが自分の言葉で書く」ことを守り、書く行為の所有権を分散させることで権力に抗おうとする。職人の細部描写、葛藤する選択、共同体を巻き込む静かな抵抗が読みどころの一冊。