異世界転生楽器職人の魔導師

異世界転生楽器職人の魔導師 第11話「第10章」

夜の王立音楽院は、昼間とは別の生物のように息を潜めていた。石造りの回廊は冷たく、窓の欄間に落ちた月光が音の欠如を際立たせる。歩く足音さえどうしていいのか迷うように、床に吸い込まれていく。フィオはその沈黙を嫌った。沈黙はいつも、奪われた言葉の欠片を蒐集する仕事を遅らせる。

夜の王立音楽院は、昼間とは別の生物のように息を潜めていた。石造りの回廊は冷たく、窓の欄間に落ちた月光が音の欠如を際立たせる。歩く足音さえどうしていいのか迷うように、床に吸い込まれていく。フィオはその沈黙を嫌った。沈黙はいつも、奪われた言葉の欠片を蒐集する仕事を遅らせる。

「ここで間違いないわね?」

隣を歩くのは学芸員のミーナ。若いが大胆で、図書室の鍵を回すほどには役所内で顔が利いた。彼女の声は小さかったが、必要ならば人前でも大声を出せる強さを持っている。フィオは彼女の背中を見た。守るべき共同体の一つである彼女たちの学問が、沈黙令の正当化書類によって汚されている可能性がある。だから、今夜ここへ来たのだ。

「文書保管庫はあの奥の扉の先。昔の祭典関係の記録があるはずよ。──沈黙令の発布理由がどんな言葉で綴られているか、確かめたいの。」

ミーナは囁いた。囁きでも空気が震えたのがわかるほど、静寂は繊細だった。フィオは小さくうなずいた。彼女が今したいことははっきりしていた:沈黙令の根拠を見つけ出し、制度の論理の中身を暴くこと。妨げは二つ。ひとつは警備の強化と夜間巡回、そしてもうひとつは、その内容を知ることで危険にさらされる人々の存在だ。文書に記名された者や証言者が、もしも政府の監視名簿に載れば、彼らは即座に連行されるだろう。

扉の前で、ミーナは鍵穴に小さな棒を差し込み、軽く慣れた指先で内側の一本の芯を操作した。金属がかすかな音を立てる—その一瞬でフィオは心を固くした。盗みは最低限にとどめる。情報は取り出して、誰も傷つけない形で公開する。彼女は守るべき者たちの顔を思い浮かべた。楽器を没収された街の楽師たち、昼は顎で言っても聞く耳を持たない役人の前で小さく身を縮める商店主、夜にそっと歌を口ずさむ老女──彼らは、フィオが最初に助けを求められた人々でもあった。

扉は機械式の錠で簡素に閉ざされていたが、長い間人の手を離れていたせいか、ほんの少しの力で開いた。開いた先は古い書棚と、積み上げられた楽譜の束。月明かりだけが薄く差し込んで、紙が時間に色を奪われていく様を映し出していた。

「ここに……」ミーナが息をつく。指先で埃を払い、古い箱を引き出す。表紙は黄ばんで、ところどころに赤い印が押されている。王都の印。そんなものがここにあるというだけで、フィオの心臓が早鐘を打った。

箱の底に紛れていたのは、布で包まれた一冊の薄い冊子と、数枚の折り畳まれた公文書だった。冊子の題字はほとんど判読できないが、公文書の方は年号とともに明快な書式で「静寂施行に関する報告」とあった。役所の冷たい文体が整然と並ぶ一文目を、フィオは指先で追った。

「……噪音は、民衆の感情を刺激し、秩序の崩壊を招いた。過去の合奏に起因する暴動は記録に残る。これを遺さないために、公共の音を制限することは不可欠であると判断される。」

ミーナは紙の端をつまみ、吐息を漏らした。「言葉は、表向きには『秩序』を理由にしている。昔の暴動を根拠に挙げて……でも、ここに付された署名は、内務省のそれとは別のものがあるわね」

フィオは冊子を覗き込んだ。ページの余白に鉛筆で添えられた走り書きがあった。細く、かすれた字だ。

「──これでは、歌は人の心を惑わせるのではなく、人の記憶を呼び覚ます。記憶されるものが多ければ、多きほど、隠すべき過去が目立つ。静寂は隠蔽の道具である。A」

署名はA。誰のイニシャルかはわからない。だが、その一行は文書の冷たい論理に違和感を投げ込んだ。フィオの睫毛が震えた。秩序を守るためという建前の裏に、何かを覆い隠す意図が隠れている。誰かがそれを見抜いて、外に留めておこうとしたのだろうか。

「でも、これだけでは足りない。内務大臣の署名もあるはずよ。法令の原案、彼らの会議録、採決の回覧……それがあるなら、説得力が違う」ミーナの声には憤りと恐怖が混じっていた。

フィオは拳を引き締めた。見つけた文書は出発点に過ぎない。だが、ここに何か重要な齟齬がある。文書の隅に押された赤い検閲印、重要な段落を切り取った痕。紙の折り目の中から、半ば破れた楽譜の切れ端が覗いた。楽譜には、音符の代わりに黒い線が引かれ、ところどころに赤いインクで「検閲」と書かれている。これは単なる演奏記録ではない。誰かが意図的に特定の旋律や歌詞を抹消していた。

「破れた楽譜だ」フィオは呟いた。指先がその紙に触れる。音のない紙片が、過去の音を拒むようにざらついていた。

「昔の歌祭りの楽譜ですよ。ここに記載された歌は、王室の祝典で歌われたはずの賛歌の一部です。でも、祭礼に続く記録に空白がある。あの日、何が起きたのかを隠すために、楽譜まで裂かれたのかもしれない」ミーナの目が揺れた。

沈黙令の根拠を探す仕事は、単なる書類さばきではない。思いがけない証拠が、誰かの人生を危険にさらす。もしここに記された証言者の名前を漏らせば、その人は連れ去られるかもしれない。フィオはその重みを感じた。彼女は能力を持っている。修理した楽器に、持ち主が言えなかった一言を音色として預けられるというものだ。だがそれは、預けた者の同意がなければ鳴らせない。無理に鳴らせば、自分の耳を失う。

紙の束に指を置きながら、フィオはふと、店のカウンターに置いてある古いオーボエを思い出した。昔、彼女はある歌い手のためにそれを調整し、その歌い手は最後に小さな言葉を預けた。まだ彼女の胸の内に秘められている。もし、その音色が今ここで誰かを守れるなら──そんな想像が震えたが、すぐに顔をしかめた。無理に鳴らす選択はできない。彼女はその代償を知っている。耳を失うということは、街の子どもたちの笑い声や、ミーナの小さな咳払い、楽師の弦を弾く音までを永久に閉ざすということだ。

「情報を持ち帰るだけでいい。名前を公開するのは最後の段階にして、まずは構造を示す。証拠を複製して、匿名で学術雑誌に差し込む方法をとりましょう。人々を直接危険に晒さないで済む形で。」ミーナが低く言う。理屈は正しい。しかしフィオは心の中で別の声を聞いた。書類が広まり、声が戻るほど、役人たちは反撃を強めるだろう。誰も守られないまま暴露だけが行われる可能性もある。

「それでも、何もしないよりいい」フィオは静かに答えた。「ただし、名前や特定の証言は切り離す。楽譜や施行の論理自体を暴くんだ。誰かの人生を犠牲にしないために、ね」

ミーナはうなずいた。二人は作業を始めた。古い紙は脆く、ページをめくるたびに細い埃が舞った。フィオは小さなランプの光が手元を照らすだけで、見つけた文書を慎重に写真に撮った。小さな機械を使えば、夜間でも証拠を複製できる。だが機械音は周囲に響く。フィオはそれを最小限に抑え、ミーナは廊下の巡回音を耳で探った。

「待て」ミーナが指を立てた。遠くの廊下で、チェーンがぶつかるような重い音がした。人の歩くリズムとは違う。巡回の足音だ。振り向けば、廊下の端から灯りが移動してくる。警備が増しているのは知っていたが、こんな時間に来るとは思わなかった。二人は息をひそめ、古書の山に身を伏せた。ランプは机の下に押し込まれ、光は指先の僅かな明かりだけになる。

足音は近づい