異世界転生硝子工の発明王

異世界転生硝子工の発明王 第22話「第20章」

朝の霧がいつもより低く垂れこめていた。ユイは作業台に肘をつき、手の甲をもう一度確かめるように目をやった。浅い傷跡が幾筋も、冬の朝の光を受けて薄く光る。痛みはときどき思い出すようにじわりと来るが、それより今、彼がしたいのは虹の破片を確実に守ることだった。作業場の片隅、布にくるまれた小箱の中で、破片はほんのりと色を漏らしている。その青と黄が触れ合うところは、まだ完全には理解できないほどに複雑で――だからこそ、壊されてはならない。

朝の霧がいつもより低く垂れこめていた。ユイは作業台に肘をつき、手の甲をもう一度確かめるように目をやった。浅い傷跡が幾筋も、冬の朝の光を受けて薄く光る。痛みはときどき思い出すようにじわりと来るが、それより今、彼がしたいのは虹の破片を確実に守ることだった。作業場の片隅、布にくるまれた小箱の中で、破片はほんのりと色を漏らしている。その青と黄が触れ合うところは、まだ完全には理解できないほどに複雑で――だからこそ、壊されてはならない。

「ユイ、向こうの通りで騒ぎが始まったよ」

窓の外で声がする。ミオが戸を押さえつつ顔を出した。彼女の手は硝子の粉を拭いたときの白い跡が残っている。下町の誰もが、硝子をいじる者としてのやけどと汚れを何らかの形で持っていた。ユイは立ち上がり、工房の出入口から外を見た。通りの先に、いつもの巡査とは違う一団が集まっている。黒と鉄色の縁取りのついた章が、日の光に冷たく反射していた。

「工務卿の配下だ」とリクが言った。若いが、最近は吹き竿を握る手がずっと確かになった。彼は作業台の上に積んであった半製品を慌てて覆った。作業場には小さな子どもや年寄りもいて、それぞれの顔が一斉にこわばる。

ユイは箱に手を伸ばした。破片の冷たさが掌に伝わる。ここで自分が前へ出て拳で柱を叩くことは簡単だ。かつてはそうして守ろうとした。だがそのたびに、硝子は割れ、手は痛みに焼かれた。選択は、繰り返すことに意味があるのかという問いになっていた。今日は違う方法で守るべきだと、自分の中で小さな声が繰り返した。守る対象は単なる物ではない。物を守るために立ち上がる彼ら自身の意志、その火種を守るのだ。

「ユイ、あの隊は窓を割るつもりで来ているみたいだ。さっき小さな砕片をもって行った監視者がいたって噂がある」ミオは息を詰めながら言った。

「分かった。俺は前に出ない。おまえたちで判断して動いてくれ。僕は指示を出す」

言葉を放つと、工房の空気は一変した。静かな緊張が、まるで熱に満ちたガラスのように波打つ。ユイは自分の意思を彼らに託した。これは自分一人の戦いではない。教え、示し、そして彼らが行うのだ。

「どうする?」リクが短く尋ねた。

ユイは外の隊列をよく見た。規律正しく、だが市民の集団が見せる即興の判断とは違う。管理のために訓練された目だ。壊すことが目的なら、正面突破より脇を突いた攪乱が早い。だが今は時間がある。暴力で応えるべき局面ではない。呼吸を整え、言葉を選んだ。

「窓は箱ごと動かす。外に出すなら人の列で。だけどまずはここに留めておく。入り口を二重に固めろ。表の扉は固い板で塞ぎ、裏口は人を並べて守る。外へ出るのは最後の手段だ。誰かが死ぬようなことはしないでくれ」

ミオとリクはうなずき、言葉に先んじて動いた。作業場の端に積んであった古い戸板や毛布がすばやく運ばれ、人の手で押し付けられていく。子どもたちは大人の間に入り、黙って手を繋いだ。見慣れた日常の雑音が、ここだけは戦う意思の低いリズムに変わる。

外の声が近づいてきた。大声で命令が下る音と、拍子木のような足音。工房の戸口で一人の役人が声を張り上げた。「工務卿の命により、この地区の危険物を一時回収する。協力を願う」声は丁寧だが、一語一語に空虚があった。

「危険物って言葉で全部片づけるつもりか」年老いたハナが吐き捨てるように言った。彼女は元々市場の管理をしていた。手の皺に力がこもると、戸の板に爪の跡が付く。

外から石が飛んできた。小さな音だが、工房の中の誰かの肩が跳ねる。向こう側の男が棒で戸を叩く。最初の衝撃で毛布の端がずれ、箱の陰から虹色が一瞬見えた。あの一瞬が、周囲の全てを奮い立たせた。

「今だ!」とリクが叫ぶ。人々は自然に動き、毛布を押さえ直し、箱を両肩で支えた。ユイは声を張った。「外見は見せるな。音と足取りで相手を騙すんだ。窓は目立たせない!」

しかし、向こうの男が一度押した戸は強く、板に入った楔がきしんだ。戸が開く寸前に、力のある一打が箱の木枠に届いた。響く金属音。破片の入った箱の木蓋が浮き、内部で小さなガラスがぶつかる音がした。

その音に、ユイの手が反応した。ふいに、既視の痛みが掌に走る。過去に自分が吹いた窓が割れたあの夜の刺すような痛みが、今ここへ呼び戻された。身体の奥から、条件反射のように手が拳になった。前に出て、暴力に抗うことが幾度もあった。だが痛みは教えた。硝子の割れる音は、ただ物理的に壊れるだけでは済まないと。

「ユイ!」ミオの顔が近づく。彼女の目は決意でいっぱいだった。「あなたが前に出ると、あなたが傷つく。私たちが守るって言ったでしょ。今その時よ」

その言葉で、ユイは拳をほどいた。心の中の曇りを一瞬でも許せば、能力は毒を濃くする。ここで心を曇らせることは、破片を守るどころか破滅を呼ぶ。彼は深呼吸をして、声を整理した。

「破片を下に、二人で持って。リク、あんたは左通路を固めて。ハナ、子どもたちの列を守って。ミオ、表に出て、声を上げて人を集めるんだ。私語はしない。怒鳴り合いもやめろ。聞いて、説明をして、相手の目を見て。相手の命も奪うな」

人々は動いた。彼らの動作はぎこちなさと即断の混ざったものだったが、決して無秩序ではなかった。彼らはユイの意図を察し、自分たちの身体で箱を抱えた。数人の若者が板の上で脇を固めた。小さな子どもが、箱の側で手を握っている。破片は落ち着いたように、しかし不安げに光を漏らした。

外から強い手が戸を押し、ついに板は動いた。押し開く男の顔が見えた。目は冷たく、歯がきしんでいる。彼らは武装しているわけではない。だが役人たちの数は多く、規模の威力は無視できなかった。男は箱に近づき、手を伸ばした。

「そこにあるものを出してもらう。命令だ」

リクが前へ出た。まだ十代だが、決意の形は年齢を超える。彼の手が箱の蓋に触れようとした瞬間、簾の向こうから大声が上がった。年配の商人が通りから駆け込み、身を挺して男の腕に噛みつくようにして押しのけた。小さな抵抗が連鎖する。隣の店主が石を投げ、床に置かれた桶が転がり、騒ぎは雑多な混乱へと変わった。

男の一人が苛立ちのあまり棒を振りかぶった。振り下ろされた棒は箱の角に当たり、木が裂け、内部で何かが一瞬光った。鋭い音がした。ユイの胸をえぐるような感覚が走る――あの、割れる音のもう一度である。しかし今回、ガラスは砕けきらなかった。ひび割れが、破片の表面をうねらせた。箱の布が破れ、そこから小さな線が伸びた。

一瞬空気が止まった。周りの人々の呼吸すら聞こえた。破片の表面を走るひびは、まるで血管のように色を変え、青がにじんでいく。ユイは体温が落ちるのを感じた。手の甲の痛みが、過去の痛みと共鳴して強くなった。だが、同時に何かが変わった。周りの面々の顔が硬く、しかし頼もしさを帯びていた。彼らは互いに目を合わせ、小さな合図で箱をさらに堅く抱え直す。

「壊させない!」

ハナの声が震えた。だがその声は怯えではなく、決意だった。続けて、店の主人、若い鍛冶、母親たちが声を合わせる。それは指導者の命令に従うものではなく、自発的な合唱のようだった。役人たちは一瞬戸惑った。秩序立てられた