最下層の迷宮主は、救援信号で仲間を集める

最下層の迷宮主は、救援信号で仲間を集める 第11話「第十章」

朝の空気は冷たく、足先に伝わる石畳のひんやりが身を引き締めた。エナは胸の内にある重さを確かめるように盾の帯を握り直す。昨夜、評議堂での議論がまだ脳裏に残っている。ルウが迷宮に残した小さな裂け目を、町の誰かが言葉で大きくし始めた。だが言葉だけでは、地下の崩落を止められない。動かなければ、ヴァルドの採掘機は古代の遺構を破壊してしまう。

朝の空気は冷たく、足先に伝わる石畳のひんやりが身を引き締めた。エナは胸の内にある重さを確かめるように盾の帯を握り直す。昨夜、評議堂での議論がまだ脳裏に残っている。ルウが迷宮に残した小さな裂け目を、町の誰かが言葉で大きくし始めた。だが言葉だけでは、地下の崩落を止められない。動かなければ、ヴァルドの採掘機は古代の遺構を破壊してしまう。

「戻る」とか「救う」など淡々とした言葉ではなく、エナの中で育ったのはもっと具体的な決断だった。今、自分に出来るのは、仲間をただ守るのではなく、各々に役割を割り当て、その責任を預けること――それがルウの示した道だと、胸のどこかで確信していた。前に立って振るうだけの護り手ではなく、道を示し、分岐を渡す者。いつのまにか、そういう存在になっていた自分を不思議に思いながらも、歯を食いしばる。

集まったのは十名弱。町の冒険者や傭兵、評議堂で名乗り出た青年カイル、そしてジグ。モルクは小さな蹄を鳴らして落ち着きなく振る舞っている。ジグは目つきがいつもより鋭く、両腕に包帯を巻いていた。彼の顔には眠れぬ夜が刻まれたが、足取りには迷いがない。皆、ルウに見守られた者たちだ。だが今夜はルウが共に行けない。彼は地上にいると核が弱る。仲間が核を守り、仲間が地上で戦う。エナはその事実を何度も繰り返して胸に刻んだ。

「僕は先導する。ジグ、地下の振動を頼む。カイルは爆破の跡を探してくれ。残りは三手に分かれる。穴を塞ぐのが目的ならば力は必要だけど、僕たちが今必要なのは撤去と確保だ。無駄な突撃は認めない。分岐を見つけたら、まず報告を」

エナの声は冷たく、しかし確かな命令だった。彼女がかつて一人で背負っていた重みは、今日、彼女の言葉を通して分散される。若い傭兵の一人が驚いた顔をしたが、すぐにうなずいて盾に寄せた。エナは隙間に入る余地を作るために息を吐いた。これが、彼女にとっての決断である。

町の入口を抜けると、通りは静かだった。組合の旗は半ば外され、だがその変わりに鉄の檻のような検問がいくつも設置されている。ヴァルド側の手勢は、文字通り道を掘り、通路を塞ぐ準備をしていた。既に彼らは、古代の石を砕くための簡易爆薬を仕掛けている。狭い坑道の入り口で、エナは手を上げると進路を止めた。

ジグが静かにしゃがみ込み、指先で地面を叩く。目を閉じて、地下の振動から音の層を読み取る。ジグは魔法を失っているが、感覚は磨かれていた。足音や機械音、地下を這う水の微かな脈動までを彼は聞き分ける。やがて顔を上げ、指差した先に青白い線がうっすらと浮かんで見えるような錯覚をエナは覚えた。ジグの言葉は短い。

「右を抜ければ、小さな洞がある。水脈が浅い。向こうを通せば検問を避けられるが、古い仕掛けが残っているかもしれない」

エナは一瞬、楽をする誘惑を感じた。だがその道は発破箇所の真上を通り、機械が作動すれば一帯が崩れる危険があった。彼女は顔を上げて隊を見回す。若い冒険者の一人の顔が蒼白になっている。肩を震わせながら、彼は言った。

「俺、盾は...重い。でも、突入は無理かもしれん」

エナはその言葉を受けて、かすかな笑みを浮かべた。力ずくで押し進むよりも、誰かに負担を押しつけるのではなく、負担を分けること。ルウが教えたことが、ここで生きている。

「なら、あなたは先に行け。俺たちは荷を分ける。カイル、あんたは背負って」「ジグ、振動を頼む。モルクは嗅ぎ分け役。俺が後ろから押す」

カイルは驚き、そして誇らしげにうなずいた。エナは自分でも驚くほど冷静だった。指示が一つ通るたびに、隊の輪郭がはっきりしていく。誰かが重荷を抱えるんじゃない。皆で肩にかける。そう決めた瞬間、彼女の胸の奥にぽっと灯がともるのを感じた。

洞に向かうと空気が変わった。地面の振動が増し、水の匂いが濃くなる。モルクが前に走り、蹄で地面を掻いては短く唸る。その唸りは指示ではなく合図だ。モルクの毛が立ち、目が白く発光する。薄い青い線が、壁の裂け目を伝って光るのが見えた。発光水脈だ。昔、ルウが言っていた「壁を走る光」だ。エナは驚きとともに、戦の鼓動のような高揚を感じる。

水脈の光に合わせて、隊の行動は滑らかに進む。ジグの合図に従えば罠は避けられる。だが洞の奥には、組合の人員が張り付いていた。鉄兜と採掘用の大斧を持った者たちが、古い扉を押さえ、爆薬のロープを確認している。指揮官らしい中年の男が煙管をふかしていた。

「ここで諦めてくれ、女」と男は嘲った。「ヴァルド様の命令だ。遺物は試掘の対象だ。町は豊かになる。そんな小さな正義ごっこで止められるか」

エナの手が自然と盾を前に出す。彼女の内側で沸き上がるものは、ただの怒りではない。仲間を、町を守るという責務が血のように熱い。だが、同時に彼女は思い出す。ルウが何度も言った「選ばせる」という言葉。守ることは、相手の選択肢を奪うことではなかった。ここで正面から突っ込むと、爆薬が引火し、洞全体が崩れるかもしれない。仲間を守るための盾が、彼らを閉じ込める檻になってはいけない。

「ここで戦う理由は何ですか?」エナはゆっくりと歩み寄り、相手の目を見た。「あなたたちには家族や生計があるかもしれない。でも、あの穴を壊せば戻れない人が出る。私たちは、それを—選べるようにしたいだけです。選ぶ道を与えるために、戻らせる道を作るために」

指揮官は笑った。「君たちに選択があるように見えるか? 我々には仕事がある。古代の核は資源だ」

言葉は交わされるが、時間はすでに押していた。エナは小さく合図を送り、三手に分かれた動きが始まる。カイルと数名が正面の注意を引き、二人の熟練が暗視袋を背負って側壁を探る。ジグは地面に耳を付け、爆薬のコードを探す。エナは爆薬のロープを見つけたとき、心臓がぎゅっとなった。ロープは古く、複雑に回り込んでいる。外から引きはがすには、火花一つでも危険だ。

「我々は爆薬を外さずに無効化する」エナは低く囁いた。「ジグ、振動を教えて。モルク、匂いで導く」

ジグは目を閉じ、小さな音を指で追った。彼の顔に浮かんだのは、かつての自分の失敗と復讐心ではなく、仲間を帰すことのための計算だ。彼は目を開け、そっと指を伸ばし、隠された古い溝を指し示す。そこにあるのは、爆薬の一部を隔離する古代の石製栓だった。誰かが過去に仕掛けたが、古代の設計はまだ働く。エナは呼吸を整え、指先で栓を押す。金属が微かに軋み、石が咬み合う音が洞に鳴った。

その瞬間、外の指揮官が叫んだ。「やつらが仕掛けを触ったぞ!」鉄の斧が振り下ろされ、荒々しい混戦が始まった。カイルが盾をかざし、エナの代わりに衝撃を受ける。若者は顔をしかめ、だが叫びもせずに堪える。エナは心の中でカイルの名を呼び、同時に別の計画を実行した。

古代の石板に刻まれた文様に、彼女は見覚えがあった。それは彼女の盾の端に彫られていた古い印章の一部――古代の守り手が残した救援塔の設計図の一部だったのだ。エナは素早くそれをなぞり、誰にでも見えるように指示する。

「設計図を押さえろ! ここに古代の索道がある。爆破に連動する部分を逆に働かせられる!」

その瞬間、洞の空気が変わった。ジグの声とモルクの短い唸