ちいさな牙で竜を噛む

ちいさな牙で竜を噛む 第11話「第十章 囮の討伐隊」

ヴァルドは暗闇を信じていなかった。光こそが英雄の証であり、光の先にいる獣こそが証明する力だと、彼は幼い頃から鍛えられた習性のように信じていた。だからこそ、手にしたのは鋭く磨かれた剣と、派手な金属の紋章と、一隊を導く大きな胸の張りだった。剣の柄には古びた竜の鱗が一片、見えないように埋め込まれている。それが彼にとっては縁起物であり、名声の礎であった。

ヴァルドは暗闇を信じていなかった。光こそが英雄の証であり、光の先にいる獣こそが証明する力だと、彼は幼い頃から鍛えられた習性のように信じていた。だからこそ、手にしたのは鋭く磨かれた剣と、派手な金属の紋章と、一隊を導く大きな胸の張りだった。剣の柄には古びた竜の鱗が一片、見えないように埋め込まれている。それが彼にとっては縁起物であり、名声の礎であった。

「檻を並べろ。囮を撒け。獣は数に踊る。竜の前に立つのは強者のみだ」

彼の声は静かだが、隊士たちはそれを盾に動いた。獣商会の檻が、薄暗い排水路の口に列をなして置かれていく。中には震える小さな個体、鋭い牙を隠したまま怯える中型の魔獣、大きな鳴声を抑えこむ幼獣が詰め込まれていた。檻の鉄網は鈍く光り、獣たちの目だけが黒くつぶやくように揺れている。灯りが濡れた石の壁に反射して、檻の影が長く伸びた。

ヴァルドは自分の計算を一つ一つ確かめる。強い魔獣を前に置くのは、役に立たない小物を引き出すための釣り餌だ。誰が見るか。誰が褒めるか。彼の誇りはもっぱら外側に向けられていた。だから、犠牲は合理化できる。討伐は業であり、業は名誉を生む。

一方で、排水路の別の入口から下っていったのは、ルカたち四人と三体の小さな影だった。廃灯台の隙間に潜り込んだ彼らは、檻に押し込められた魔獣たちを一頭ずつ解き放していた。セラは手早く錠をこじ開け、薬の細い匂いで怯えを抑え、ガンガは地面に耳を当てて安全な通路を探る。ミミは暗闇の目で見張りをし、ポロは小さな炎を灯して先を照らした。

「ここから出して、ここから——いい、早く、静かに」
セラの指示は低く、丁寧だった。彼女の祖母譲りの手つきは、檻の隙間に手を差し入れて小さな頭を撫でる。獣たちは最初、手を避ける。だが薬の香り、ゆっくりした呼吸、セラの声の調子があれば、耳を傾ける者もいる。ルカはその様子を見て、自分が前世にしていたことと変わらないと感じた。だが、今は違う。時間がなかった。

救い出すたびに遅れる。檻の数は思った以上に多い。運び出す間に、通路の奥から低い振動が伝わってきた。ガンガの甲羅がびくりと震え、彼の前足が石をたたく。三拍の規則的な振動だ。聞けば聞くほど、心臓の鼓動のように胸の奥を揺らす。

「竜の巣だ。ここは……巣の周縁だ」
ガンガの声は泥の匂いを含んでいた。彼は、かつて仲間を隠すために動かなかった理由を明かした後、今はもう黙っていられなかった。振動は深まり、檻に入った獣たちの怯えがまた伝染する。ミミは鼻先で金属の冷たさを確かめ、夜目で奥の闇を探る。ポロの小さな火花が、蒸気に溶けて細い光の筋になる。

「戻って、情報を持って戻るべきだ」
ルカは咄嗟に言った。だが言葉は吹き消される。胸に刺さるように感じたのは、「目の前の命を放っていけるか」という問いであり、前世の透が子犬を抱いたときの熱がそのまま再燃したのだ。彼にとって手を差し伸べることは、動かしようのない直感だ。救うのは正しい。だが、それがここで最善の選択なのかを判断する冷静さが、今は足りなかった。

遠くで何かが落ちる音がした。檻の一つが、獣の力で中から撥ね返され、鉄格子がぎしぎしと鳴る。商会の囮部隊の声が近づく。ヴァルドの号令が、入口の方からこだました。彼らの選んだルートと、ルカたちの選んだルートが、同じ点に向かって収束していくことを誰も止められなかった。

「もう一頭だけ。急げ」
ルカは手を震わせながらも檻を開け、最後の幼獣の耳を撫でる。幼獣は彼を見上げ、信じるように口を開けた。ルカは薬草を差し出し、幼獣が一口でも飲めるように促す。時間――それはいつも対価を要求する。彼の前世の二十九年は、待つことの術を与えたが、同時に、時間は有限であることも教えた。

地下の空気が一度、変わった。低温の風が、割れた石の隙間から吹き上がり、古い土の匂いとともに蒸気が顔を撫でる。振動が、やけに強くなった。三拍の周期は、どこかで重なり、空間を濡らすように広がる。ルカはその音を聞いて、身体に冷たい恐怖が這い上がるのを感じた。だが同時に、彼の指先には救われた幼獣の体温が残っていた。どちらを選べばいいのか、その両方が彼の周囲に並んでいた。

闇の向こうから、かすかな金属音と、重い足取り。ヴァルドの影が灯りとともに差し込む。彼は大獣を連れ、胸を張っていた。獣は戦闘用の盲目の咆哮を抑え、檻を次々と踏み越えながら進む。囮の檻に気づいた獣は、拘束されたいくつかの個体を荒々しく突き破って中へ飛び込む。しかしそれらは、計算通りの餌となり、奥を守る役目を果たすはずだった。

「ここで止める。君らのような小者を護る時間はない」
ヴァルドはルカを見下ろして言った。その口ぶりは優しさを装っているが、針のように刺さる。彼にとって世界は証明の場だ。ルカのような者は写真の余白に過ぎない。だがヴァルドの真の危険は、自分の行いの意味を深く考えないところにある。力は名誉を生み、名誉は力を呼ぶ。互いを餌にして、大きくなっていく理屈だ。

ルカは声を上げようとした。しかし、セラが首を振る。彼女の目は冷静だ。彼女は薬師としての計算をすでに終えていた。救える命を救い、退くのが現実的だと判断している。だが、ルカの胸はそれを拒んだ。救うという行為は、彼にとって誰かの選択を強いることではなく、自分ができる誠意の表現なのだ。

「一緒に行くよ!」ミミが叫んだ。彼女は檻の間をすり抜け、小さく鋭い牙を見せる。普段の彼女なら逃げるはずだが、今は違った。彼女は自分の足で、仲間を助ける決断をしていた。ガンガは甲羅を震わせ、地面に深く爪を立てる。ポロは小さな炎を高く掲げ、仲間たちを照らした。四体の小さな影が、ヴァルドの大きな影と対峙する。

ルカは選んだ。手を差し伸べ、三体の小さな獣と心音をつなぐ。彼は短く、断続的に接続を行い、仲間たちの恐怖と痛みを受け止めながら出口を示そうとした。だが、その間にも檻の向こうで大きな獣が叫び、石が砕ける。彼の耳に入るのは、仲間たちの心音の重なりと、底知れぬ何かの咆哮。制約は鋭く、三体までの同時接続は既に限界へ向かっていた。

「ここは、僕が——」ルカは言いかけて、言葉を飲み込んだ。力を振り絞ればできることもある。だが彼は、かつての自分が犯した過ちを思い出していた。見返りを求めずに救うことは美しい。しかし、相手の意思を無視して強引に救おうとすれば、信頼は断たれる。彼は命を救うために相手を支配したくはないのだ。

だが現実は無情だった。彼が短時間に接続を繰り返すうちに、痛みと恐怖が彼の体を蝕んでいく。ポロの熱が喉を焼き、ミミの恐れが視界をぼやけさせ、ガンガの振動が頭の中で鉤を打つ。三つの心音が重なり合い、ルカの胸に梁のような圧をかける。彼の視界が暗くなり、足元がふらついた。

「ルカ!」セラの声が遠くで響いた。だがその声も、暗い水中の泡音のようにしか届かない。彼は笑われるような感覚で、前世で何度も見た動物の苦しむ姿や、救えなかった記憶が一斉に押し寄せる。そこに、彼だけが背負うべき責任など存在しないことが分かった瞬間、彼の膝が折れ、世界は暗転した。

彼が倒れたとき、見開きのような光景ができた。たった一人の人間を三体の小