灯を継ぐ聖女は、痛みの名前を知っている

灯を継ぐ聖女は、痛みの名前を知っている 第9話「第八章」

朝の薄い霧が村を離れ始めた頃、遠方から馬の蹄が連続音を刻んで近づいた。音は、これまで聞いたどんな鳴動よりも、聖堂の威光を帯びていた。ユアンは井戸際の石に腰掛け、まだ眠る住民たちを見回しながら、息を詰めるようにして耳を澄ませた。彼の胸には、妹を奪われた日の重さがいまだに残っている。あのとき、剣で斬るべきものを誤って追い、守ることが「すべて」だと思い込んだ。だが今は違う。守るとは、相手の意志を剥ぎ取らずにその背中を支うことだと、リゼットが教えてくれた。彼女の小さな手のひらは、何度もユアンにそう言い聞かせた。

朝の薄い霧が村を離れ始めた頃、遠方から馬の蹄が連続音を刻んで近づいた。音は、これまで聞いたどんな鳴動よりも、聖堂の威光を帯びていた。ユアンは井戸際の石に腰掛け、まだ眠る住民たちを見回しながら、息を詰めるようにして耳を澄ませた。彼の胸には、妹を奪われた日の重さがいまだに残っている。あのとき、剣で斬るべきものを誤って追い、守ることが「すべて」だと思い込んだ。だが今は違う。守るとは、相手の意志を剥ぎ取らずにその背中を支うことだと、リゼットが教えてくれた。彼女の小さな手のひらは、何度もユアンにそう言い聞かせた。

馬上の一団は、聖堂の徽章を白くはためかせて村の中心へ赴いた。先導するのは白い装束に銀の刺繍を施した聖堂候補生と、彼らを護る甲冑兵。胸の中央に光を帯びた紋章があり、その光は人々の顔を瞬時に引き締めた。隊列の最後尾には、大柄な候補者が立ち、肩から伸びるマントを翻して観衆へ向き直る。彼の手からは、澄んだ白光が漏れていた。

「聖堂だ」と、誰かが囁く。村長が馬車の縁に立ち、胸を張って居並ぶ救援隊を迎え入れた。村の空気は救いの到来を期待して膨らんだが、ユアンはその期待に冷たい影を落とす何かを感じ取った。彼の瞳は、白光の振る舞いを見逃さなかった。

候補者が前に進み、地面に膝をつくと、空気が音を失った。静寂は祈りの一歩前の刃のように鋭く、村人の息遣いさえ遠のく。候補者は掌を掲げ、無言で詠唱を始めた。白光はゆっくりと広がり、最初の影を柔らかく浄化した。光は一人の老女の体を包み、膨らんで、そして一瞬にして消えた。老女はまるで羽織ものを脱ぐように、ゆっくりと目を開けた。周囲から歓声が上がる。人々の顔が、ほっとした笑みに崩れた。

そのとき、ユアンの視線は別のところへ向いた。白光の残滓が、老女の体から離れると同時に、黒い粒子が空中に現れた。それは水滴のように小さく、しかし集団で動いていた。粒子は光の消えた方向と逆に引かれ、近くの居間の床に横たわるもう一人の昏睡者へと向かっていった。ユアンはそれを見て、肝が冷えた。光の「贈与」は、分配ではなく移送だった。ひとつが軽くなると、別の何かが重くなる――彼は瞬時に状況を理解した。

「それを戻せ!」リゼットの声がユアンの後ろから寸でのところで飛んだ。彼は咄嗟に振り向き、彼女が一歩前へ出ると、掌から細い金色の糸が溢れた。それはいつもの柔らかな光で、近づくと人の胸にすっと寄り添う。リゼットは候補者の詠唱には逆らわず、しかし光の流れを見定めると、金糸を老女へ向けた。彼女の眼差しは落ち着いているが、どこかひどく疲れていた。ユアンはその横顔に、深い信頼と恐れが入り混じっているのを見た。彼の心は、刃先に触れるように走った。

だが、候補者の祈りは止まらない。白光はさらに大きくなり、今度は複数の人々を順に包んでいった。歓声は高まり、村人の目は救いに吸い寄せられる。だがユアンには救いの合間に訪れる間隔が、命の天秤の揺れを露わにすることがわかった。白の脈動が消えるたび、どこかで黒が濃くなっていく。最初は小さな沈殿として現れた黒い塊が、ついには候補者の側近の一人の顔色を曇らせ、彼は片膝をついて膝元へ崩れ落ちた。呼吸が浅くなり、手の震えが止まらない。詠唱を続ける者たちの額には汗が浮き、光の放射に振り回されている。

「やめろ!」ユアンは声を上げ、甲冑兵の列へと駆け出した。彼は剣の柄に手をかけるが、今は刀を振るうべき相手はここにはいない。彼の意図は、患者を祭壇前まで押し集めようとする聖堂の指示を断ち切ることだった。だが、村長が先導される形で整然と群れを動かす。白い希望の列に戻される患者たちの表情は空虚で、誰かの強制した善意に怯えているように見えた。

「私たちに命を返してくれ!」ユアンは村長に詰め寄ると、声を張り上げた。「その場で治すのではなく、家に連れて帰れ! 医療は一箇所で完結するものじゃない、連絡を取り戻せ!」

村長は顔を強張らせた。聖堂の副官がにやりと笑い、命令を上書きするように口を開いた。「試験のためにも、公の前での治癒は必要です。聖堂の威信が問われております。皆さまには短時間の不便をお願いするだけです」

「威信だと?」ユアンの返答は荒々しかった。胸の奥が熱くなる。守ると誓ったはずなのに、彼がついに理解したのは、守り方が間違えば人を燃料にすることになるということだ。妹を喪ったあの日の彼は、刃で世界を正そうとした。だが今は、盾で相手を押し返すのではなく、声を上げて取り戻すべき時だった。

その瞬間、候補者の一人が詠唱を終え、薄い光の粒を手のひらに集める仕草をした。彼は義務感に満ちた顔で瓶の蓋を開け、そこへ光を注ぎ込む。金属の小瓶の底には、既に黒い沈殿が幾つか見えた。ユアンはかすかな、しかし確かな嫌悪感を覚えた。聖堂の紋章が刻まれた小瓶は、その中で光を蓄えるかのように震えた。ミレアが事前に見せた瓶底の汚れを、彼は思い出した。聖堂が治癒の「数」を計測し、保存しているという証拠だ。

「これを誰に渡すつもりだ」ユアンはその動きを掴み、兵士に詰め寄った。「その光をどこへ持っていく? 瓶の行き先は?」

副官の目が一瞬冷たくなる。彼の声はやけに穏やかで、凍るようなところがある。「結果を記録する。それが王都の命運を左右する。君たち辺境の者どもにそんなことは理解できないだろうが、将来的なために必要な手順だ」

ユアンの怒りは掻き立てられたが、一方で理性が冷たく囁いた。彼は力づくで最前列に飛び込めば、さらに多くの者に危害が及ぶ可能性がある。リゼットがよく言っていた。「大きな奇跡は、小さな暮らしを踏みにじることがある」。彼女の言葉が、突発的な暴力を止めるブレーキになった。ユアンは深く息を吸い、口を鳴らした。

「皆、落ち着いて。家に戻せば助けは続けられる。ここで一挙に全部を奪われるより、家族の側で見守る方が、ずっと確実だ」ユアンは自らの声を震わせないよう抑えながら言った。言葉には、守る者の責任が込められていた。彼は小さく振るえる手を、リゼットの方へ伸ばす。リゼットはその手を見てから、ゆっくりと頷いた。金色の糸がぴんと張られ、彼女の意思がユアンに伝わる。

ユアンは兵士たちの列へ割り込み、強引に患者たちの肩を掴んで引き戻し始めた。力づくの様相は、無礼と非礼の境目を漂う。古い習慣に従って指示を出す人々の視線が痛い。だが、家を戻る途中、彼は小さな奇跡に遭遇する。リゼットが戻した老女が、眠っている隣人の額に掌を押し当て、ただ黙ってそっと呼吸の間隔を数えている。聖堂の白光では得られない、呼吸のリズムの安定。ユアンはその場面を見て、胸の奥がほっと緩むのを感じた。守るとは剣先で決めることではなく、テーブルを拭き、湯を沸かし、手を握ることだということを、彼はまたしても学ぶ。

だが、聖堂の計画は止まらなかった。詠唱を続けた候補者の数人が、まるでスイッチでも切られたかのように軒並み顔色を悪くし、歩行がふらついた。ある者は倒れ、他の者は必死に詠唱を支えようとしたが、光を瓶に詰める行為の代償は明らかだった。ユアンの目は血走るほどに鋭くなり、彼はついに一人の候補者の前に立ちはだかった。

「もうやめろ」と、彼はただ一言