こども王

こども王 第24話「第22章」

リクは窓辺に立ち、城下を見下ろしていた。朝の光は灰色の雲を薄く押し上げ、広場には軍旗が横切る。彼の手には、薄茶に変色した子どもたちのメモが握られている──小さな手でまっすぐに書かれた、無数の「ぼくたちは戦いたくない」「わたしたちをとらないで」という文字。ミナがそのひとつを差し出し、低く息をついた。

リクは窓辺に立ち、城下を見下ろしていた。朝の光は灰色の雲を薄く押し上げ、広場には軍旗が横切る。彼の手には、薄茶に変色した子どもたちのメモが握られている──小さな手でまっすぐに書かれた、無数の「ぼくたちは戦いたくない」「わたしたちをとらないで」という文字。ミナがそのひとつを差し出し、低く息をついた。

「リク様、今動かなければ、あの軍が城下を押しつぶしてしまいます。子どもたちを避難させる時間は限られている」

サジュが門を睨んでいた。衛兵長はいつもより硬い表情で、肩にかけた鎧の金属がわずかにきしんでいる。彼は自分の判断で隊を分け、学校へ向かう一隊と、広場の群衆を押さえる一隊を動かそうとしていた。守るべきは子どもたちの列、教師、そしてこの町の選べる未来だ。リクにはそれ以外の選択肢がない。

「僕がやる」とリクは言った。言葉は小さいが、意思はいつもより硬かった。「でも、能力は使わない。使えば──」彼は言葉を切った。ミナの目が悲しげに動き、サジュは荒い息を吐いた。

「年を取るんだな」

「一日じゃ済まないこともある。誘導すれば暴走して、取り返しのつかないことになる。僕が人の願いをねじ曲げてまで──守れない」リクは自分の手のひらを見つめた。手には小さな傷と、王子として持つべきではない皺が増えている。肖像画の向こう側で、わずかな線がその変化を拾っていた。額に飾られた王の肖像は、毎度彼が能力を使うたびにほんの一日ずつ年を進めるように変わっていく。今日はその日ではないはずだ。

城門が音を立てて開き、グレイの黒い軍服が視界を横切った。宰相はそのまま広場に進み、満面の笑みを浮かべる。彼の目は冷たく、そこにいる者全員を計算している。

「王子殿下、祝賀の場にて国家の意志を示す時が来ました。戴冠は国の統一の表れです。子どもという存在を守るのも悪くない。しかし秩序もまた尊ぶべきもの。あなたがほんの一言、国を鼓舞すれば──」グレイは言葉の終わりで、わざとらしく大きな王冠に触れた。王冠は大きすぎて、ぶかぶかの絵のように見えた。だがそれが今日、武器になる。

「子どもの願いを国の命令に変えられる、と」「その力を利用できれば、民の心を一日で変えられる、と」

広場の端に積まれた箱から、若い兵士が紙を取り出した。そこには子どもの字の紙が並んでいるように見えた。あるいは、見せかけられたように見える。グレイはニヤリと笑う。

「今なら、公の前で子どもたちの意志が示せる。戴冠で命令を下し、敵の前で我らが強さを見せるのだ。君が望めば、十歳の王の命令が一日だけ国法となる」グレイの声は低く、だが広場に十分に届いた。兵たちの列が一瞬、息を呑む。

リクの胸がひりついた。グレイの目は子どもたちを向けている。彼は策略を練っている──子どもを脅し、自発的に見せかけた「願い」を引き出し、その願いを王令に変えさせるつもりだ。誘導である。ルールは明確だ。自分より年下の者が、自分の意志で選んだ願いだけが王令になる。だが、もし意志が誘導されたり強制されたりすれば、王令は暴走する。過去の事例がリクの頭にちらついた。暴走のとき、命令は歪み、なぜか年齢の操作に波及し、取り返しのつかない被害を生むことがあった。リクはその代償をまだ忘れていない。

広場の一角で、ひとりの少女が震えているのが見えた。ハル──学校の子ども代表で、小さな体に不釣り合いなほど大きな瞳をしている。彼は昨夜、仲間たちと願いの言葉を練習していた。だが今、兵の前で立たされ、首を折られそうにしている。

「ハル!」ミナが声をかけ、リクの計画と違って行動を起こそうとする。だがサジュが制し、リクが手を上げる。動けばグレイの思う壺だ。子どもを守るために、リクは徹底してルールを守らねばならない。

リクはそっと、肖像画の方に視線を向けた。絵の中の自分は、また一日だけ老けている。額縁の表面が朝日の中でわずかに艶を放ち、そこに刻まれた日々が数えられるようだった。もし今、力を使えば、この線は一歩進む。だがそれ以上に恐ろしいのは──誘導の罠に落ちることだ。暴走が始まれば、誰かの意思が塗り替えられる。子どもたちの声が、別の形で利用される。リクはそれを許すわけにはいかない。

「リク様、どうするつもりだ」サジュの声が静かに震えた。「命令は君の口次第だ。動かなければ、僕らが押し返すしかない」

ミナが前に出て、ハルの手を取った。ハルは紙をぎゅっと握っている。紙には、昼に話し合った言葉が書かれている。自分たちで決めた、子どもたちの声を記録するためのものだ。彼らは一つのルールを作った──誰かに言わされて書いたものは無効にする。願いは、自分が選んでなければならない。今それを使えば、誘導の疑いは晴れない。

「ミナ先生、合図を」リクは言った。声は平静を装っていたが、内心は針のように張りつめている。「子どもたちに、今ここで自分の言葉で話してもらう。僕は一切口を出さない」

ミナの顔が厳しくなる。彼女は教師として、そしてこの街の守り手の一人として決断を下した。彼女は深呼吸し、マイク代わりに使っていた金属の板を叩いた。音は広場に鳴り響き、群衆と兵たちの注意を引いた。

「この広場のすべての人に聞かせます。子どもたちが、自分の言葉で話します。誰からも強制されずに。王子殿下はその言葉を聞くだけです」彼女の目はリクに向き、問いはなしに了承を求めた。リクは小さく頷いた。

ハルが前に出る。足は震えているが、彼の目には真剣さが宿っていた。紙を開き、声は小さく震えたが、広場にしっかりと届いた。

「ぼくたちは……ぼくたちは戦いたくない。大人の人たちに、戦いはしないでほしいって言ってほしい。自分でそう決めました。だれにも言わされていません」

その声は、想像より強かった。周囲のざわめきがその声を飲み込もうとしたが、他の子どもたちが続く。ひとり、またひとり──小さな紙を胸の前に掲げ、どの文字も稚拙ながら真摯だった。

「わたしは、学校で勉強したい。兵隊になりたくない」
「お母さんと一緒にいて、畑を手伝いたい。戦争はいやだ」
「僕らの未来を、大人たちにあずけたくない。自分たちで選ぶ気持ちを守ってほしい」

その輪が広がるにつれ、広場にいた多くの者が息をのんだ。兵士の顔も、少しずつ変化していく。若い兵の一人が頬を押さえ、目をそらした。グレイは苦い表情で指を鳴らす。彼が企んだ「自発的な願い」はそこにあった。だがその願いは誘導されていない。本当に自分たちの声で選んでいる。

軍の列の端で、ある役人が紙をめくった。そこには昨日作られた写しと異なる、真っ直ぐな字が並んでいる。それは、グレイが用意した捏造の「子どもの字」に似せたものではなかった。役人の唇が震え、彼は小さな声で呟く。

「偽造だ……これは本物の子どもの声だ」

グレイの顔が赤くなる。彼はすかさず前に出、声を荒げた。

「これは混乱だ! 秩序を乱す者は処罰される!」彼の手が王冠へと伸びた。大きすぎる王冠が太陽を受けて光り、まるで発射機のように見えた。グレイの狙いは変わらない。彼は王令の力を、強制に転用しようとする。

しかしその瞬間、リクの体の内で、なにかがうずいた。遠くで聞いたときと