陶工 第21話「第19章」
朝焼けが火山の稜線を朱に染める頃、アカリはまだ眠気の残る手を窯の縁に載せていた。やりたいことは単純だ。できるだけ多くの器に、村人たちが言えない悲しみを焼き付け、溶岩堤防へ並べる。できるだけ早く、壊れるリスクを下げて、溶岩の進路を変える——それだけだった。
朝焼けが火山の稜線を朱に染める頃、アカリはまだ眠気の残る手を窯の縁に載せていた。やりたいことは単純だ。できるだけ多くの器に、村人たちが言えない悲しみを焼き付け、溶岩堤防へ並べる。できるだけ早く、壊れるリスクを下げて、溶岩の進路を変える——それだけだった。
「時間がない」と、ケントが息を切らして飛び込んできた。陶土が付いた手を振るたびに、朝の冷気に土の匂いが混ざる。ケントは腕を組んだまま、窯場の列を眺めた。そこには昨夜から村人が作り上げてきた器が並び、顔の表情や縁の擦れ方がまちまちに光っている。
「命令書が来た。火山伯イング直々の——回収命令だ」ケントの声は低く、だがはっきりしていた。言葉の端に付随する紙の角を見せる。封には、黒い杯を象った印が押されている。――黒い杯。アカリはその印を見ただけで胃が冷えた。イングの象徴は、かつての強制の匂いを放っていた。
「全部、回収、だって?」ミラがそばに寄り、紙面を覗き込む。痩せた指で封を指し示す。「『安全管理のため』って。持ち主の承諾も無しに、とはっきり書いてある。」
「持ち主の器を集めて、精霊の暴走の要因を調査・保管するんだそうよ。期限は四十八時間以内」ケントは紙を裏返しながら続けた。「守衛隊が明日の朝には上がってくるらしい。拘束も辞さないって。」
アカリは手元の土の塊をぎゅっと抱えた。自分がやらなければならないのは、器を作り続けることではない。どの器に、誰の土を渡すか。その秩序の決断だ。彼女の能力は厳しい。土を渡すのは自分でなければならない。渡した土だけに、持ち主の言えない感情が模様として焼き付く。その器を壊せば感情は暴れ、以前に失ったように、彼女はまた手から温度を奪われるかもしれない。感情を消す術はない——それは彼女自身が繰り返し、村の人々に説明してきた。
「全部回収されたら、あの人たちはただのデータになってしまう」ミラの声が震えた。「隠される。そして、誰かの都合で使われるのよ。あの…イングはそれを何に使うか、わかってるでしょう?」
「使うって、兵器にするかもしれないってことか」ケントの顔が硬い。彼の言葉には怒りと恐れが混ざっていた。アカリは首を振った。言葉よりも早く、彼女は選んだ。
「全部を渡すわけにはいかない。だけど、回収は時間の問題だ。だから計画を変える。器を並べる優先順位を変える。溶岩堤防に当てる分をまず最優先で配置する。明日、守衛が来る前に、堤防側へ向かう全ての器を集めて並べるの。」
「でもアカリ、そのためにはあなたが土を直接渡さないと意味が無い。あなた、一人でそんなに準備できる?」タエが問いかけた。タエは若いが機敏で、村の作業を段取りするのが上手い。口は悪いが正確だ。
「私が渡す。皆が形を作る手伝いをする。だけど土自体は私の手からしか出ない。だから優先順位を決めるの。堤防に並べる器、避難路に置く器、そして重要な証言を持つ者の器。優先度が低いものは後回し。もし守衛が来たら、残りは隠す。壊される恐れのある器は、地中深くに埋めるか、密封する。」アカリの声は真剣だった。静かながらも断固たる口調に、仲間たちは黙った。
「ハナはどこに並べたい?」小さな子、ハナが顔を出した。昨日、彼女は器の縁に小さな手形を刻んでいた。灰の中に残る小さな手形を思い出す。村の記憶のひとつだ。ハナは黙ってアカリに近づき、目を伏せながら言った。「お母さんの場所に置きたい。火のそばで、お母さんが笑ってくれた場所……」
アカリの胸が熱くなる。ハナの土を手に取るとき、かつて自分が講師だった頃の感触が戻る。だが同時に痛みも鮮烈だ。あの日、壊れた器によってアカリは一部の温度感覚を失った。熱いものに触れても、指先が正しく警告しなかった瞬間を、彼女は忘れない。だから壊れるリスクを下げる必要がある。だが守らねばならないのは、いま手の届く人々だ。
午前中、アカリは選別の作業に没頭した。村中の居住地を回り、順序を決める。手渡す土は小さな塊にして、持参の袋に入れる。手渡す際、彼女は目を見て簡潔に告げる。「これでいい?」相手はうなずき、手を差し出す。渡す手に彼女は自分の土の冷たさを残すような感覚を込めたつもりでいた——だがそれは彼女の温度感覚が曖昧になっているから、正確ではない。目測と経験だけが頼りだ。
「もっと早くならない?」ケントが付いて回り、器の搬送を指揮する。運搬は人海戦術で行う。壊れぬよう低く抱え、クッションの代わりに藁や布を詰める。並べる場所は予め決めた。溶岩の出流路に沿って、斜めに一列。隙間なく並べれば、溶岩の流れは少しでも分散されるはずだ。だが並べる距離は長い。彼らの力だけで全ての器を運び切るには時間が足りない。
正午を過ぎた頃、馬車の蹄の音が山道を伝って近づいてきた。遠目に見えた隊列の先頭は白いマントを羽織った役人の一団だ。黒い杯を配した印が胸元で光る。アカリの手が一瞬止まる。役人たちが到着すると、村長のモトが出迎えた。村長は年老いているが眼光は鋭く、すぐに役人の差し出す命令書に目を走らせた。
「二十四時間以内に、全ての器を役所へ提出せよ。提出命令に従わぬ者は法の手で排除される」役人の声は冷たい。周りの兵は無表情で、村人たちの動揺を確かめるように見回す。前に立った役人の手には、黒い杯の彫られた黒檀の杖が握られていた。その杖を地面に突き立てると、棍の影が如実に深く伸びる。
「我々は安全を優先するだけだ」と役人は続けた。「精霊の暴走を防ぐための措置だ。協力すれば円滑に事は運ぶ」だが村人の表情は恐れているだけではない。ある者は怒り、ある者は諦観していた。子どもは親の足元にしがみつき、老人は目を伏せた。
アカリはゆっくりと前に出た。心臓が勢いよく脈打つ。役人の目が彼女を捉えると、軽く笑みを返す。
「全部渡してください、というのは強権です」とアカリは言った。声は震えていたが、皆に聞こえるようにした。「私たちは、皆の悲しみを器にしている。勝手に集められた器は、そこにある人々のことを誰も考えず、遠隔の都合で扱われるでしょう。私はそれを許せません。」
役人は微笑を崩さずに、小さな紙を指差した。「その決定は上のものです。我々は命令に従っているだけ。あなたが反抗するなら、こちらも法に従わざるを得ない。」
「ではここで私たちは選ぶ」アカリは声を強める。「誰がどの器を堤防に置くか。提出なさるのはその後だ。行使と提出の順序を変えることを交渉させてください。あなたが安全を本気で思うなら、まず被害を減らす方法へ協力するはずです。」
短い沈黙の後、役人はため息をついた。「上に報告する——」彼はそう言って文書をテントに運び、大臣への伝達を試みるという態度を取った。けれど時間は有限だ。ケントが小声でアカリに告げる。「交渉が長引けば、その間に収容の準備が進む。時間を稼ぐ間にも並べよう。力任せで来るなら、我々は隠すだけだ。だがそれでは負けだ。」
その昼以降、村の空気が変わった。命令書は配布され、黒い杯の印はいたるところで見られるようになった。商人の小屋の扉、教会の鐘楼の布、兵の鞍の鞭にまで。だが同時に、誰もが自分の器を手に取り、どこに置くかを選んでいる。アカリは自分が渡