陶工

陶工 第10話「第9章」

ユキは、ただじっと土を見下ろしていた。小さな手の甲に、まだ乾ききらない灰が白く張り付いている。口元は固く閉ざされ、目だけが時折、庭の端に積まれた黒い杯の破片へと滑る。窯場の薄い蒸気が、朝の冷気と混ざって指先をぬらす。アカリはその背に触れずに、まず何をすべきかを決めようとした。ユキが今したいことは、声を取り戻すことだと、アカリはわかっている。妨げは声そのものだけではない。ユキの中に詰まった言葉を、どう外へ出させるか――それを阻むのは、彼女がまだ言えない痛みと、村の人々の恐れだった。

ユキは、ただじっと土を見下ろしていた。小さな手の甲に、まだ乾ききらない灰が白く張り付いている。口元は固く閉ざされ、目だけが時折、庭の端に積まれた黒い杯の破片へと滑る。窯場の薄い蒸気が、朝の冷気と混ざって指先をぬらす。アカリはその背に触れずに、まず何をすべきかを決めようとした。ユキが今したいことは、声を取り戻すことだと、アカリはわかっている。妨げは声そのものだけではない。ユキの中に詰まった言葉を、どう外へ出させるか――それを阻むのは、彼女がまだ言えない痛みと、村の人々の恐れだった。

「アカリさん、本当に――」窯の脇で、トウヤが言葉をつまらせた。若い陶工見習いで、腕はいいが物事を急ぐ癖がある。彼はユキを気にするあまり、先刻から手伝いの段取りを口にしては、マリにたしなめられていた。マリは村の助産婦で、冷静だ。彼女は今、疫病のように広がる「見えない炎」に怯える村人たちをなだめに来ていた。

「無理やり触らせたりしたら、器が割れる。分かってるでしょう?」マリは低く言った。窯からは、微かに子守歌のような音がひびいている。窯の中の火が吐くリズムと、古い木の枠が熱で鳴る音が、知らず人の胸を落ち着ける不思議な調べだ。だが今日はその子守歌が、ユキの無音と鮮烈なコントラストを成し、すぐ近くで鳴っているのに言葉は届かない、ということをあらわにしていた。

アカリは息を整え、ユキの前に腰を下ろした。彼女の掌には、きれいに丸められた土の塊が一つある。触れるとまだ冷たい。土は乾き始めているが、手に取れば柔らかさが戻る。アカリの手の動きは村の者には慣れたものだが、彼女はいつもと違って慎重さを増していた。能力のことを口に出すつもりはなかった。しかし今は、誰にでも分かるように説明しなければならない。

「ユキ、これを――あなたの土を、ちょうだい」アカリは穏やかに言った。声は小さく、でも確かに届くように。ユキは顔を上げた。瞳の奥に、そこはかとない恐れがある。それでも、ユキは震える手で、ポケットに押し込んでいた小さな紙包みを差し出す。包みの中には、ユキが昨日、家の裏で拾ってきた土が入っていた。誰に言われたわけでもない。自分で拾った土を、誰かに渡す。アカリはその行為の意味を知っていた。能力は、本人が手渡した土だけに働くのだ。

「手渡すってことが、必要なんだ」トウヤが囁くように言った。聞いていた誰か――村の年寄りが、そっとうなずく。土を渡す行為は同意のしるしであり、同時に危険を伴う。アカリはその危険を頭の中で繰り返した。感情は消せない。器を壊せば、その感情は暴れ出し、私の手から温度感覚が失われる――それは彼女自身の言葉でも口にしてきたことだった。だが今、ユキが自ら土を差し出した。それは、彼女自身が自分の言葉を外に映すことを、ほんの少しだけ許したということだ。

アカリは包みを受け取る。掌に伝わる土の温度は、微かに火の余熱を含んでいるような錯覚を起こさせた。手の中で土を置き、指先で静かに練る。ユキの目が、器となるその土の塊に吸い寄せられる。アカリは窯の子守歌を意識に留めながら、形を作っていった。器は薄手の小皿だ。手の動きは素早いが、必要以上に力は入れない。彼女の能力が働き始めるのは、土が「本人の手渡したもの」であると確認された瞬間からだ。それ以外の土では、模様は現れない。そうして器の表面に、ユキの言葉にならない感情が模様として浮かび上がる。

模様は、黒い線と薄い紋様が混ざり合うようなもので、まるで誰かの手が炎に触れた跡を描いたかのようだった。細い亀裂のようにも見えるし、爪痕にも見えた。ユキの瞳が細くなり、彼女の唇が震える。声は出ない。だが顔の色が変わると同時に、ユキは手を伸ばして器の縁に触れた。指先から伝わる冷たさに彼女が驚く――それは器の温度ではない。彼女がこれまで感じてきた熱さ、恐怖、そして失ったものの記憶が、触れることで揺さぶられたのだ。

「見せて、ユキ。触っていいよ」アカリは囁いた。強制ではない。ユキは首を小さく振ったが、やがて自分の指で模様の一部を辿った。指の跡が、模様に触れると、模様はわずかにきらめいた。誰かが窯のそばで息をのむ音がする。マリがそっとユキの後ろに手を添える。トウヤは膝に飛びつくように座り、固唾を飲む。そのとき、窯の子守歌が低く震えた。木枠と炉の金属音が、まるで過去の夜の記憶を呼び覚ますように、場の空気を震わせた。

ユキが口を開くまでに、一瞬の長さがあった。言葉は出ないが、喉の辺りが動き、唇だけが音を作ろうとする。アカリはユキの肩に触れた。力を込めたりはしない。ただここにいるよ、という合図を送るだけだ。能力は誰かの痛みを直接消すことはできない。できるのは、それを形にして見せることだけ。見せられたユキは、自分の内側にあるものを「見られた」ことで、言葉を引き出す機会を得る。

「――お父ちゃん」やっと出たのは、掠れた子どもの声だった。言葉は小さく、砂が混じったようにざらついていた。それだけでも、庭にいた誰もが胸を撫で下ろす。ユキは顔を覆い、肩を震わせる。声は続かない。あの日の記憶の先にあるものが、まだ言えないのだ。

「その時の手形は、あの灰の中の……」年寄りのイズミが、うわごとのように口走った。誰もがその言葉を拾った。灰の中の手形――先月、火山灰の除去に行った男が見つけ、村のはずれの焼け跡に残っていた、白い手の跡のことだ。あの手形は、村で忘れたくないはずの出来事を象徴している。ユキの指先が器の模様をたどると、模様の一部が、あの手形の形を示すように見えた。だがここで重要なのは、誰かがそれを「知らせる」ことでユキの声が戻るのではない、ということだ。言葉はユキ自身が紡がなければ効力を持たない。

「ユキ、あなたの言葉を、誰かの言葉に替えたりはしない。私にも消すことはできない。でも、ここにあるのはあなたの形だから。あなたが、あなたとして言えるんだよ」アカリはそう言って、器をユキの前に差し出した。器は薄く、その縁が日の光を受けて銀色に光る。ユキは器を覗き込む。模様は彼女の胸の中の言葉を映す鏡になっていた。

「お父ちゃんが、最後に――」ユキがまたつぶやく。言葉は断片で、過去の夜が断続的に押し寄せる。アカリは聞き取ることに専念した。ただ聞くだけ。聞くことが、誰かを救う最初の行為だと彼女は知っていた。トウヤがそっと背中をさすり、マリがユキの頭を撫でる。周りは静かだった。窯の子守歌が、今度は低く、リズムを変えずに響いていた。

そのとき、子どもの手が器を握りしめた。細い指に力が入る。器が小さくきしむ音を立てて、皆が息をのみ、アカリは瞬間的に背筋を凍らせた。器を壊してはならない。あの代償を誰もが知っている。もし器が割れれば、ユキの中にある感情が外へ暴れ出し、アカリはそれを受け止めきれないかもしれない。温度感覚を失うこと――それは単に手が冷たく感じられなくなるということだけではない。火の前で自分の役目を果たせなくなる、という意味だ。火山の麓の村でそれは致命的だ。アカリは意識的に指の力を抜き、器を包むようにユキの手から支えた。

「ゆっくり、ユキ。今は壊れないように、ゆっくりね」マリの声は厳しくもあり、優しくもあった。ユ