靴屋

靴屋 第4話「第3章」

夜の迷宮は、昼間とは別の顔をしていた。路地の壁が少しずつずれ、石畳がくすんだ歯を見せるようにうねり、街灯の影がどこに掛かるかで道は別の表情を作る。カナタは店の戸口に片手を掛け、息を吐きながら前に立つ子どもたちを見た。

夜の迷宮は、昼間とは別の顔をしていた。路地の壁が少しずつずれ、石畳がくすんだ歯を見せるようにうねり、街灯の影がどこに掛かるかで道は別の表情を作る。カナタは店の戸口に片手を掛け、息を吐きながら前に立つ子どもたちを見た。

「ここを通って、外へ出したいんだ。国境の向こうの孤児院から来た君たちを、なるべく安全なところへ運びたい――でも、追手が来ている。迷宮が分かれ目を作るのは俺にはどうにもならない。だから、君たちの声が必要だ」

小柄な少女ミナが、震える声で訊ねた。「カナタさん、本当に靴で案内できるの?」

「できる。ただし君たち自身の言葉で、行きたい場所をはっきり言ってもらわないと駄目だ。嘘や他人の言葉では、靴は働かない。底が壊れることもある」カナタは言葉を選びながら、店の長椅子に置いてある幾つかの簡素な革靴と、赤い一方の靴を視線で確かめた。赤い靴は以前から店の棚にあったが、今は彼の指先に触れられない距離で静かに光を帯びているように見えた。

路地の奥から石の擦れる音が近づく。重々しい足取り──徴税人の追手だ。迷宮の壁の移り変わりを利用して、関所のように動く者たち。カナタは子どもたちの顔を一つずつ見て回した。臆病な目、固く閉じた唇、まだ何かを言えないような小さな影。守るべき対象はここにいる。自分が今したいことは明白だった。子どもたちを夜の迷宮のどこかへ置き去りにはしないこと。それを妨げるのは、追手の群れと、迷宮の予測不能さだ。

「三人ずつに分かれる。第一班はミナ、サト、ユウ。君たちは俺の靴で行く。言葉は自分の言葉で。誰かに促されて言うんじゃない。行きたい場所を、心底で思ってから口にしてほしい」カナタは一足を手に取り、静かに説明した。靴の縫い目に手を滑らせると、革が微かに温かかった。魔術の痕ではなく、工人としての手触りだ。だが彼はいつものように慎重だった。使いさえすれば便利な道具に見えるが、その裏には必ず代償が来る。足が重くなる。最後には歩けなくなる。――だからこそ、無駄に使えない。

「俺は囮にはならない」とミナがげんに立ち上がった。背中に背負った小さな袋の重みが見えた。彼女はまだ十にも満たない顔だが、その瞳に覚悟があった。「あの人たち、子どもを連れていくときは脅すんです。言わせようとする。私、そんなの嫌です。私が走るから、他の子を行かせてください」

カナタは瞬間、言葉を失った。囮を自ら買って出る子どもには、自分が制止しなければならない理由がある。だがミナは続けた。「私、ここに留まると怒られるんです。だから……私がいる方が、追手は安心するかもしれない。カナタさん、私を止めないで。私の選択です」

仲間たちが微かにざわめいた。誰もミナを止めようとはしない。彼女の意思は鋭かった。カナタは胸が締めつけられるのを感じながら、深く息を吸った。「分かった。だが約束してくれ。嘘だけは言わない。目的地は自分の言葉で言うこと。もし誰かに脅かされて、嘘を言いそうになったら、すぐに手を挙げて俺を呼べ。靴は一度きりだ。一度の足跡で全員を導けるほど甘くはない」

路地の影がさらに濃くなった。追手の声が、壁に反射して近づく。灯りの下で革がきしむ音がする。カナタは仲間の小さな革細工道具箱から、用途を限定した一対の靴を取り出した。軽く磨いた革の表面に、職人的な刻印を入れる。彼の指先が震える。使うたびに生じる自分の足への負担を思えば、作業は片手間では済まなかった。

第一班のミナが靴を履く。その前に、カナタは注意深く耳元で囁いた。「行き先は?」

ミナは小さく目を閉じ、自分の胸の中を探るようにしてから言った。「お母さんの厨房。火の匂いがする場所。いつも笑っていたから、そこに戻りたい」

その言葉は具体的な地名ではない。だがそれがよかった。靴の魔法は、行きたい場所を「自分の言葉」で語られた時に道筋を記憶する。抽象であっても、持ち主の心に確かな像があれば、靴はその足取りをたどる。ただし──嘘は駄目だ。誰かに強要された言葉、他人の口から移された地名は、靴底を裂く。

ミナの言葉を聞いた瞬間、革の縫い目が薄く光を帯びた。靴底に触れた砂がささやくように動く。カナタはそれを確かめて、うなずいた。「行け。俺は後ろで見ている。道が狭くなるところで合図を出す」

三人はカナタの合図でゆっくりと歩き出した。ミナの靴底は柔らかく、だが確かに道を指しているように感じられた。子どもたちの歩幅が少しずつ揃い、壁の曲がり角でも方向を失わない。カナタは息を殺して後に続いたが、自分の内側に重さが広がるのをすぐに知った。足首のあたりから石の塊が沈むように圧がかかる。彼はそれを振りほどこうとして、ぎゅっと噛みしめた。

追手の一行が見えた。黒いマントの裾が石に擦れる。彼らは子どもたちを見つけ、ゆっくりと囲いにかかる。声が低く、命令調だった。「そこの子ら、足を止めろ。履物を見せろ。いいか、言うんだ、お前たちの行き先を。嘘は許さんぞ」

その言葉に、カナタは冷たい汗をかいた。追手が魔術的な仕組みを知っているのか、あるいは単に子どもを通行人として扱うだけなのか。だが一つだけ明白だった。追手は言葉で人の行き先を把握しようとする。強制することで、靴を役に立たなくする手段を取り得る。もし追手が子どもたちを脅して間違った行先を言わせれば、靴は裂け、道は消えてしまう。

「待て、あんたたち」──追手の一人が一歩踏み出し、ミナに向けて手を伸ばした。「どこへ行くのだ、はっきり言うんだ。ここで隠れてもらっては困る。正直に告げよ」

ミナは小さな背で懸命に抵抗した。だが一人の徴税人が足を取って無理矢理彼女の顎を向けさせようとした。その瞬間、サトが飛び出した。彼は自分が囮になろうとしたミナの申し出を聞いて、代わりに前へ出たのだ。「やめろ!こいつらを放せ!」

押し合いの直前、別働隊が別の方向から石の軋む音を立てて現れ、道は一瞬で混乱した。追手たちは二手に分かれようとし、その取り決めの隙に子どもたちの隊列は分断されかけた。カナタは咄嗟に判断した。単純に靴で一列に導くだけでは、この混乱を抜けられない。追手が複数方向から来るなら、視線と注意を分散させる必要がある。だが誰かを犠牲にするような計画は採れない。そこで、ミナの勇気が生きた。

「ミナ、君に頼みがある。君はここで声を上げて走ってくれ。追手の視線を引きつけるんだ。でも靴は履かないでくれ。もし追手が君に行き先を言わせようとするなら、絶対に答えないでくれ。君の声だけで彼らを引きつけろ。残りの子は、俺がつけた靴で、別の通りへ向かう。サトとユウはミナの後を見て、ミナが安全な場所まで誘導する。いいか?」

ミナは一瞬ためらった。自分が見せるべきは逃走ではなく、囮だと理解している。だがその顔にはもう恐れはなかった。「私が選んだんです。私がやります」

その意思表明に、カナタは胸が熱くなった。彼の役割は囮を利用する作戦を思いつかせることではない。仲間の決断を尊重し、その選択ができるだけの情報と手段を与えることだった。カナタは目を閉じ、短く祈るように息を吐いた。足の重みはますます増していく。だがそれを感じる余裕は彼にはない。

ミナが走り出した。薄暗