枯天樹の庭師は、魔王城から世界を芽吹かせる

枯天樹の庭師は、魔王城から世界を芽吹かせる 第2話「第一章」

朝の空気は、城の外に広がる乾いた大地のそれとは違っていた。根城の庭園は地下に張られた根系をあえて露出させ、石造りの通路と苔とが入り混じる奇妙な緑地帯を成している。軒下の水盤は薄く白い膜を張り、遠くの大地はひび割れて灰色がかった平原へと開いている。そこから上へ、城はそびえ、さらに視線を引き上げると、空の群雲を割って伸びるかのように、地表を縫う大樹の太い根があちこちに走っていた。根は皮膜のように大地を縫い、裂け目を塞いだり、古い溝へと縮れ込んだりしている。俯瞰すれば、城とその根はあたかも大きな手のように大陸の傷口を押さえているのが見えた――その景色は、どの書物にも載らない「根で織られた国」の地図だ

朝の空気は、城の外に広がる乾いた大地のそれとは違っていた。根城の庭園は地下に張られた根系をあえて露出させ、石造りの通路と苔とが入り混じる奇妙な緑地帯を成している。軒下の水盤は薄く白い膜を張り、遠くの大地はひび割れて灰色がかった平原へと開いている。そこから上へ、城はそびえ、さらに視線を引き上げると、空の群雲を割って伸びるかのように、地表を縫う大樹の太い根があちこちに走っていた。根は皮膜のように大地を縫い、裂け目を塞いだり、古い溝へと縮れ込んだりしている。俯瞰すれば、城とその根はあたかも大きな手のように大陸の傷口を押さえているのが見えた――その景色は、どの書物にも載らない「根で織られた国」の地図だった。

リュートは端に立って、その光景をいつまでも眺めていた。十六歳の少年らしい細身の肩に、まだ前世の習慣であるポケットの重みがあった。そこには、指先に馴染んだ黒い種が包まれている。彼はそれを見下ろし、そしてすっと引き上げてまたポケットに戻す。誰も見ていないときだけ、掌の中で指の腹が種の輪郭を確かめる。

「早いじゃないか、リュート。寝坊するんじゃないぞ」

声の主は庭師長のベールだった。年輪のように刻まれた顔と、いつも土の香りをまとった長い手。彼は少年を一瞥してから、庭の中央にある粗末な台座へと歩いた。台座には、古い模型のように削られた木の枝が一枝、無造作に置かれている。その先に、城の枯れた幹の端が見える。すべてが「見せるため」ではなく「塞ぐため」に整えられているような、静かな厳しさがある。

「ここは、観賞用の庭じゃない。忘れるな。根城とは名前の通り、根で築いた城だ。外の者はそれを知らずに来る。だから君たちの仕事は、見た目を良くするだけでなく——植えられたものが死なない限り、死人を増やさないことだ」

ベールの口ぶりは淡々としていたが、その言葉は重かった。リュートは頷く。前世の記憶の一つ――彼が何度も夜通しで体温を分け合い、蛍光灯の下で枯れかけの苗を見守ったこと――が胸の内でほんのり温かく疼いた。彼はここにいる理由が、単に生き延びるための都合ではないことを理解していた。

庭師長はゆっくりと台座のほうへ歩み寄り、指先で石の縁を辿った。そこから地下へと続く細い溝が露出していて、その口元を覗き込むと、地中の黒が微かに震えた。リュートも身を乗り出し、指を差し入れるようにして地面に触れた。触れた瞬間、いつもと違う像が眼前に浮かんだ――土の中を白く光る線が走り、そこに記憶のような小さな像が織り込まれる。

根が見えた。あざやかな、光を帯びた根脈。だがそれはただの植物の器官ではない。青白い糸は恐怖の震えとして、赤い束は執着として、薄い灰色の繊維は忘却として、色の語りを持っていた。リュートは息を止める。知識としての説明は受けていた。だが、目の前でそれが動くと、胸の奥が引き攣るように痛んだ。

「見えたか」

ベールの手が重く彼の肩に触れた。「いいか、リュート。ここは世界樹の根を治すための区画だ。天環樹は上の冠を失って久しい。そこで流れていたはずの季節や雨や魔力は、根の傷のせいで滞っている。われわれはその傷口に詰まった記憶や痛みを、庭として扱う。剪定して流れを整えるのが、庭師の仕事だ」

リュートは黙った。その言葉の意味は骨の芯まで届く。記憶は根に溜まり、根は傷つき、根を切れば記憶は流れ出す。ベールはさらに続けた。

「ただし、剪定には代償がある。切った根が吐き出すものは、君の身体へと流れ込む。喜びも、悲しみも、怒りも。全部が君のものに見える。だから、無計画に裁断してはいけない。範囲も重要だ。扱える庭は、君が歩いて測った面積までだ。歩かなきゃ、手も足も出ない」

リュートの指が、掌の中の黒い種を確かめる。歩く。測る。庭一枚分の原理は、彼にとって現実味のある制約だった。歩けば見える。足跡が境界だ。歩かなければ、見えない。そういうシンプルな決まりは、ある意味で救いでもあった。広く手を伸ばせば、前世の記憶がそぎ落とされる。彼はそれを恐れ、無闇に使うことを拒んだ。

「なにが恐いんだ、リュート?」ベールの声は、尋ねるというより問い直しを促した。

「忘れることです」彼は小さな声で答えた。「前の……夜間管理の仕事で、大事にしていたこと。名前は完全には消えないだろうが、母の笑い声や、誰かの小さな名前を忘れるのが怖い。失くしたくない記憶がある」

ベールはうなずいた。「それでいい。覚悟は必要だ。だが覚悟だけでは治せぬ。誰かが手放すものが要る。灰、水、そして——文字通り『誰かが大切だと認めていた物』がないと芽は出ない。‘奇跡’を期待するな。ここは治療だ」

そのとき、遠くの石橋の方から甲高い声が響いた。城門の方へ駆ける足音と、武具の金属が擦れる音。リュートは振り返ると、黒と銀の鎧の若い兵士が遠慮がちに寄ってきた。彼は息を切らし、巻かれた羊皮紙を差し出す。

「王女閣下。王都より——聖務卿ヴァルドの名で、庭園の軍事利用に関する命令が出ました。城の貯水と地形を軍事基地に転用すること。根城を王国の防衛拠点に組み込む許可を──」

報告する兵士の顔は赤い。言葉は事務的でも、空気は重かった。ベールの目が微かに細まり、石造りの床に投げられた羊皮紙の端が震えた。

そのとき、通路の陰から人が現れた。長い黒髪を後に束ね、鎧の切り返しに王族の織物を纏う。それがネネアだった。彼女は王女というより庭の一部に溶け込んだ鳥のような佇まいをしている。だがその目は冷たく、命令を見下ろす者のそれだった。

「何を言わせるの、聞けばわかるでしょう?」ネネアは声を低くした。「根城は王都の物だと? 誰が決めた? それに、どうして根を兵站に変えるの? 根が塞いできた傷が再び開くのを見たいの?」

兵士はしどろもどろになり、別の報告を差し出そうとした。ベールが前に出て、そっとその腕を押さえた。ネネアの瞳がリュートに向いた。彼女の視線は予想外に柔らかかった。

「あの子か」と庭師長が言った。「見習いだが、変わった。あの者は——」

ネネアは一歩近づき、リュートの肩に視線を落とした。「君は新しく来たのね。名は?」

「リュートです。……元は水城透という名前で――」言いかけて、彼は黙った。ここで自己顕示することは無意味だ。重要なのは彼がポケットに隠した種でもなく、今ここで庭の傷をどう扱うかだった。

ネネアは短く笑い、兵士の差し出した羊皮紙を両手で受け取る。彼女はそれを指先でしわくちゃにするでもなく、ただじっと読み続けた。読了すると、紙を床の上に置き、そこに一つの印を押したかのように爪で小さな跡を付けた。

「聖務卿の言うことは聞いた」と彼女は静かに言った。「だがここは私が管理する区画だ。命令は上から来る。しかし私は、誰がここに住むか、誰が手をつけるかを決める。軍事利用だからといって、むやみに根を裂かれてよいものか。根を裂くということは、ここに生きていた者の記憶をむしり取ることだ。私はそれを命令に従って良しとはしない」

そこまで言って彼女はリュートへ視線を戻した。「君を、当面の観察役にするわ。外部の者に使われる前に、庭の状態を知る人間が必要だ。歩いて測って、見えるものを