枯天樹の庭師は、魔王城から世界を芽吹かせる 第10話「第九章」
乾いた土の底から、恐怖は水のように流れ出してきた。
乾いた土の底から、恐怖は水のように流れ出してきた。
青白く光る根脈が、まるで数千の喉から同時に吐き出された声のように震える。城外から押し寄せてきた人間兵たちの足跡が、土に残した重さと怒りと疑念が混ざり合い、根の一本へと収斂していたのだ。リュートはそれを見て、息を詰めた。庭の輪郭にした五人の足跡が描く内径の中で、根はさらに光を増し、彼らの周りを薄い風のように撫で回した。
「恐怖だ」モルは小さな声で言った。その声は、普段は植物を眠らせるための節のように静かだが、今の瞳には鋭い緊張が宿っている。「歌で押し流すには……あまりにも濃い。歌えば、私の一部分が消えるだけだ」
根は色を変えた。青白からさらに冷たい藍へ深まり、そこに彼らの過去の痛みが混ざるにつれて、細い刺のような感触が腕の皮膚に生じた。リュートは掌を土へ下ろし、根脈剪定の感覚を探る。歩測で囲った範囲の中で、彼が触れることのできる根は確かに限られている。だが、今は限界の縁がぐらついていた。恐怖の流れが庭の輪郭を越えようとし、それを止められなければ、周囲の区画にまで伝播してしまう。
「自分だけで切り捨てるつもりはない」ネネアが低く言った。王女の声は、軍の命令に立ち向かったときに見せた硬さとは違う、静かな決意を孕んでいた。「ここにいる誰の痛みでも、私たちで受け止められるなら、切らずに済ませる道を探したい」
グレンは盾の縁を手のひらでたたき、短く唸るように笑った。「盾で殴るぐらいなら、盾で抱きしめる方が今は得策だ。だが、抱えきれなければ……俺が痛みを受ける。いいか?」
カイは眉間に皺を寄せ、地図に落ちる影のように視線を落とした。「情報で切り分けることはできる。だが、これは情報を超えたものだ。踏み込める範囲は、歩いた分だけだ。君に任せたい、リュート」
リュートは皆の顔を見た。歩測の輪郭にした足跡は、ただの物理的な境ではない。彼が扱える庭の「器」として、互いの身体が一時的に畝になり、根の記憶を分配するための接ぎ木台になるのだ。だがその例外は、根側の自発性がなければ成立しない。根が誰を欲するか、自ら手を伸ばす必要がある。さらに、分担する者同士の信頼が揺らげば、根は腐る。結果は最悪、全員が取り返しのつかない痛みを共有することになる。
「信じられるか?」リュートは静かに尋ねた。声は震えていたわけではないが、土の中から来るざわめきに彼の身体は共鳴している。彼の掌の奥で、幼い頃の母の匂いのような、前世の忘れかけた記憶が爪の先から泡立つ。もし広く扱いすぎれば、その記憶は一つずつ剥がされていく。名前、声、台所の明かり。彼はもう一度その温度を確かめた。黒い種を握った手の感触だけは、どうにか残したいと必死で思った。
ネネアは薄く笑みを見せた。「私たちは庭のために、ここにいる。もし私が怖くなったら――その時は私を止めてくれ。だが今は、この庭を守りたい。恐怖を、ただ切り捨てることはしない」
モルは小さく唇を噛み、苔の小さな一筋を指先で撫でた。「歌は今は使わない。私の歌が必要なら、皆で分け合う。寿命を減らさずにできるなら、それがいい」
グレンが頷いた。カイは地図鞄から小さな紙片を取り出して、足元の土に置いた。紙には五つの点と輪が描かれている。彼は地図の代わりに、今は彼らの合図を置いたのだ。
根は、彼らの意思を見ていたかのように応えた。一本の太い根が、庭の底からぐっと浮き上がり、光を帯びて空中へ引き上げられた。青白い脈は細く震え、足跡の外へ伸びる先端を探る。やがてその先端は、意志を持った蔓のように分岐して五つの細い束となり、それぞれが五人の前腕へと穏やかに絡みついた。
無数の光る根が、五人の腕を絡める。青白、ところどころに混じる灰色、そして最後に微かに白が差す。接触点で、根は柔らかく暖かく脈打ち、剪定鋏が置かれたテーブルでさえ、空気が震えるのを感じた。リュートの胸に何かが跳ね上がる。根は自ら接ぎ木を求めたのだ。五人の身体はそれを拒めば、根は引っ込む。だが拒む理由はもはやなかった。
「いくよ」リュートは小声で言った。言葉は祈りにも似て、彼自身の鼓動を落ち着けた。彼は剪定鋏を両手で握り、刃先を恐怖の核に向けた。根の断面から流れる記憶は、普段なら彼一人に流れ込む。だが今は、その流れは五人に分け与えられている。だからこそ、痛みは薄れるわけではなく、分散する。分けられた分だけ、彼らの心に新しい傷と新しい理解が刻まれる。
刃が土と根の先へ滑り込む瞬間、リュートの内側に視界が崩れ落ちた。ある一つの顔が彼を掴んだ。白熱のように鮮やかな母の笑み。透として生きていた時、夜間の温室で苗木を包み込み、閉園後の闇を越えて子どもを守ろうとしたときの、温かい手の感触。光るガラス、雨。そこから、もう一つの声が混ざった。兵の叫び、銃の叩く音、泥に沈んだ甲冑。記憶は一度に重なり、彼の意識はどこにあるべきかを見失いかけた。
だが、刃は止まらなかった。鋏先が根を切り裂き、断面から葉形の光が散る。青白の光がいくつにも裂け、五つの流れとなって、彼らの腕へと分配された。痛みは鋭く、甘く、そして誰もが自分の痛みとして抱えた。リュートの視界は再び朧になり、母の顔は斑点のように崩れていったが、その崩れ方は、以前よりもやわらかだった。
「やめるな、今は信じろ」ネネアの声がどこか遠くから聞こえた。彼女の指先が、リュートの肩に触れ、確かな圧力をかける。握られた瞬間、リュートは海のような記憶のうねりを、さざ波に変えて感じた。カイの瞳に映るのは、地図にない路地で足を止めた小さな子供の手。モルの小さな体には、古い苔が土を刺す冷たさとともに、歌う理由の断片が流れた。グレンの心には、盾の裏で震えた一兵士の祈りが滑り込む。
彼らは一瞬、共に吐き出し、床に膝をついた。肌に浮かぶ根紋は、青と白の細い線となって手首から肘へと連なり、すぐに冷たく光った。共鳴はまだ終わっていない。記憶は五つに分かれても、完全に均等ではない。重い塊がどこかに残ると、それはまだ処理を必要とする。
「どうだ?」リュートは薄く笑ったように見えたが、その瞳には滲むものがある。母の名前を呼びかける喉の奥の音が、どこか遠くへ行ってしまった。消えかけた幼稚園の匂い、夜間管理員として聞いた最後の列車の音。彼は確かに何かを失っている。しかし、同時に得たものもある。兵士たちの恐怖の実体、彼らがつま先で踏んだ理由、命令に縛られた人間の素顔。
ネネアは目を閉じ、短く息を吐いた。「彼らは……殺させられそうだったんだ。命令で、ここを焚くようにと言われた。水を奪えと。恐怖はそれを正当化するための鎧になっていた」
カイは地図の紙片を拾い上げ、そこに新しい線を引いた。「我々がただ斬り捨てることもできる。だが、もし彼らが戻される先に、同じ命令を出す者がいるなら、また同じことが起きる。記憶を分けることで、我々は相手を見る目を変えられる」
モルは小さく喉を鳴らし、掌の中の苔を撫でた。「私の寿命を歌で削らなくても、彼らを眠らせる方法がある。歌は最後の手段だ」
グレンは立ち上がり、盾を土に叩きつけた。「あいつらを殺すよりも、盾で道を切り開いてやる。殴り殺すのは簡単だが、