玩具職人

玩具職人 第14話「第一部幕間」

朝の鈍い光が工房の硝子を曇らせていた。トトは作業台に丸めた毛布を敷き、そこに座ったまま目を閉じている。腕の先で木屑がこそげ落ちる音、遠くで鍛冶屋が金槌を落とす音が、眠りを誘うどころか耳鳴りを大きくする。彼の胸の中では、昼の出来事が何度も再生されていた。子どもが泣きじゃくりながら手放した小さな木馬。軍の徽章を付けていた兵士が冷たく指差したとき、木馬が一瞬だけ睨んだように見えたこと。ミオの片翼の木鳥はいつだってどこかで鳴いているような気がして、鳴き声が耳に残るたびにトトは体を震わせた。

朝の鈍い光が工房の硝子を曇らせていた。トトは作業台に丸めた毛布を敷き、そこに座ったまま目を閉じている。腕の先で木屑がこそげ落ちる音、遠くで鍛冶屋が金槌を落とす音が、眠りを誘うどころか耳鳴りを大きくする。彼の胸の中では、昼の出来事が何度も再生されていた。子どもが泣きじゃくりながら手放した小さな木馬。軍の徽章を付けていた兵士が冷たく指差したとき、木馬が一瞬だけ睨んだように見えたこと。ミオの片翼の木鳥はいつだってどこかで鳴いているような気がして、鳴き声が耳に残るたびにトトは体を震わせた。

「眠れないのか」

ユナの声が近づいた。紙人形を抱え、彼女は工房の中央に座る。細い指先で人形の裾を撫でながら、彼女の瞳がトトをまっすぐ捉えた。「私にも夜に眠れない日がある。でも、トトは休まないと。目の下が紫になってる」

「休めばいいんだろうけど――」トトは紙人形に視線を落とす。「休めない。休むべきだって分かってる。でも休めない。もう一つ知らせが来たんだ。町の噂より確かなやつだ」

彼が差し出したのは、折り目のある小さな紙片。そこには、王都の印章に似た押し印があった。ユナがそれを受け取り、眉を寄せる。ドンは針先で歯車を整えながら、その紙片を覗き込んだ。

「軍の購買目録だな」ドンが低く言った。片目の瞳がいやに静かだ。「大量発注の指示だ。玩具、模造兵器、そして試作用の標本まで。発注書の宛先に我らのような小工房のリストが混じってる」

アベルが戸口に現れ、肩の上にまだ乾かぬ泥を付けていた。彼は軍服を脱ぎ捨てた男だが、軍内部の情報を時折運んでくる。今朝の表情はいつもより硬い。アベルはトトに近づくと、声を落とした。

「ハルト伯爵が、子どもの想像力を戦術資源にしろって直々に命を下した。貴族の噂じゃない。王都からの正式路線だ。君らが嫌でも関わることになる」

ユナは紙人形を抱き直し、小さな声で言った。「子どもたちの玩具が、武器になるってこと?」

「武器、監視機、誘惑の装置――呼び名はどうであれ、子どもの遊びを軍が組織的に回収する。選ぶ権利は無い、ってやり方らしい」アベルが拳を握る。その手の震えを、彼自身は認めない。

トトはゆっくりと立ち上がり、作業台に散らばる試作群を見渡した。ユナの紙人形、ドンの改造してまだ鳴らない小さなからくり人形、子どもたちが作って置いていった色あせた木馬。彼の能力はこれらのうち「子ども自身が選んだ玩具」にだけ働く。大人の命令は通じないし、恐怖を嘲る者が近づけば玩具は壊れる──それは彼らの守りでもあり弱点だった。

「移動するべきだという声もある」ドンが言葉を続ける。「場所を変えれば一時は逃げ延びられる。だがその先も追われる。奴らは名簿を持ってる。リストを消される前に、工房を標的にするだろう」

ユナは目を伏せ、指で紙人形の目元をなぞる。「でも、ここには子どもがいる。工房を離れれば、彼らの遊びと選ぶ場所を奪うことになる」

アベルが苦い笑みを落とす。「いや、それ以上に危ない。子どもが材料扱いにされる前に、僕らが動かないと」

トトはその二つの声の間で言葉を吐かずにいた。眠らない夜が身体を蝕み、判断を鈍らせているのを感じる。もし本当に一週間眠れなくなったら、彼は能力の代償の渦中で何ができるか分からない。一方で、休めば目の前の準備に遅れ、子どもたちを守れなくなるかもしれない。選択はいつだって、両方の苦しみを差し出すことだった。

「僕が――」トトの声が震える。「僕が全部背負う。それで時間を稼ぐ。僕が眠れなくなる代わりに、皆で設計を分け合って、遊びの合図を作る。俺一人でやる必要はない。子どもたちが自分で選ぶ場を残すんだ」

アベルが手を上げて制した。「待て。それは甘いだろう。君の代償は一週間の不眠だけど、すでにそれを受けている。重ねればどうなる? それに君だけが恐怖を引き受けるべきじゃない。君は工房の中心だけど、盾ではない」

ドンがコツンと木槌をテーブルに置いた。「その通りだ。だが、トトの考えに核がある。眠りを犠牲にするのは個人の選択だが、その代わりに集団でその代償を資源化する。たとえばトトが恐怖を受け取る間、我々は夜に動いて設計を分散し、子どもたちを集める。彼の弱さを一時的に強みに変えるんだ」

ユナは顔を上げ、まっすぐにトトを見る。「私は紙人形でワークショップを続ける。子どもが自分の遊び方を見つけられるようにする。アベル、あなたは軍にいる友人を使って情報を引き出して。ドン、あなたは玩具の外形を変えて目に付きにくくして。私たち、全部一人で背負わない」

沈黙が沈んだのは一瞬だった。トトの胸の中で何かが軋み、そして少しだけ緩んだ。仲間たちは彼を助ける意思を示し、彼もまた最終的には助けを受け入れた。彼は小さく頷いた。

「分かった。でも約束してくれ。僕が眠って回復することを。代償は消えない。僕が一度にたくさんの恐怖を引き受けると、次が続かなくなる。皆で分けるなら、僕はまだ動ける」

「そのときは僕らの番だ」アベルが言った。「君が眠るために僕が見張りをする。君が代償を抱えるときは俺が出る。だが眠らせるつもりはない。代わりに一緒に戦うだけだ」

小さな合意が成立する。ユナが箱から綿の詰まった紙人形を取り出し、トトの手のひらに載せた。その人形は以前、ある子が「勇者」として選んだものだった。トトは人形を見た瞬間、能力の条件を思い返した。子どもが自ら選んだ玩具だけが彼の術の通り道になる。大人の命令では動かない。だからこそ、工房を守るには子ども自身に選ばせる空間を残すことが何より重要だった。

「今日からだ」トトは言った。「ユナ、ワークショップを二つに増やして。来る子を記録して、どの玩具を選ぶかを書き留めて。ドン、作業台の分散を始めてくれ。壊れやすい部分は見えないようにして、ある程度の外傷を受けても中身を守る工夫を。アベル、情報を集めつつ、軍の現地調達がどのくらいで動くか見てくれ」

彼らは小さく笑い合った。笑いの中に焦りが混じるが、その混じり方が彼らの決意を固めた。共同設計──言葉にすれば簡単だが、現実は夜の見張り、資材の調達、子どもたちへの説明、そして何よりトト自身の身体管理が必要になる。睡眠は、単なる休息ではなく、術を使う者の回復手段でもあった。トトはすでに不眠の渦中にある。彼の能力の発動は不安定になっていた。

午前も中頃にさしかかる頃、工房の外で物音がした。メールのように駆けつけた配達人が、はあはあと息を切らして紙の包みを差し出す。封蝋には見覚えのある紋が押されていた。ユナが封を割ると、中には写真と、あからさまな命令書が一枚入っていた。写真は――木彫りの小さな鳥の破片だった。片方の翼が欠け、表面には工具でつけられた浅い切り傷がある。ミオの木鳥と同じ傷。

工房の空気が一瞬で凍る。トトの指先が包みの縁を押し、手の中の紙が震えた。眠気の代わりに怒りが湧いてきたが、それはすぐに別の感情と混ざった。片翼の木鳥がどこかで試作機の一部として扱われている。ミオの意思表示が何かに繋がっている可能性。ミオが自分の羽を折ってまで拒んだのは、命令に屈することを拒む意味だったのか。

「これは……ただの欠片じゃない」ドンの