玩具職人

玩具職人 第15話「第13章」

朝の光が工房の大窓を斜めに差し込むころ、トトは鋭い木の削り粉の匂いの中で帳面を睨んでいた。机の上にはアベルが夜更けに手に入れたという紙束が広げられている。見開かれたページの一つに、淡々とした数字と規格の並びがあり、最下段には官印と共に「試作費用 王庫計上」の朱印が押されていた。

朝の光が工房の大窓を斜めに差し込むころ、トトは鋭い木の削り粉の匂いの中で帳面を睨んでいた。机の上にはアベルが夜更けに手に入れたという紙束が広げられている。見開かれたページの一つに、淡々とした数字と規格の並びがあり、最下段には官印と共に「試作費用 王庫計上」の朱印が押されていた。

「眠れたか」とドンが穏やかに訊ねる。片目から覗く歯車のような光が、トトの顔に触れる。

「眠れないよ。そこまでは。」トトは答えながら、ページの端に刻まれた小さな図形に指を止めた。鳥の翼を模したような、あの欠けた刻み。ミオが昔、ぎこちなく削って見せた片翼の木鳥と同じ刻みだ。指先にからむ痛みは、まだ軽く震えている。

ユナが机の向こうで紙を折りながら、声を落とした。「それ、本当に軍の書類?」

アベルは短くうなずいた。彼の表情は静かで、しかし木箱の中に忍ばせたものを思い出すかのように固まる。「ただの小遣い稟議じゃない。ここにあるのは、玩具——という名の収集計画の中身だ。『対象:孤児・被災児童』って、はっきり書いてある。機構の名前が——ハルト伯爵の民需課へ直結している」

紙の上の文字は冷たかった。トトはゆっくりと机に手をつき、息を吸ってはき出した。自分ができることと、できないこと。能力の限界が、ここで足枷のように重くのしかかる。子どもが自ら選んだ玩具——それだけが動き、ましてやそれを弄して国家が制御できるなら、守る道は暴力でも単独の奇跡でもない。だが、暴露は危険だ。軍が情報拡散の前に工房を潰せば、子どもたちはさらに脆くなる。

「だから、どうするつもりだ?」ドンが訊く。彼はいつも簡潔だ。腕にはいつもの小箱、目の代わりの金属の輪がちょっと光った。

トトは目を閉じた。寝不足で思考はざらついている。代償の影は消えない。前に恐怖を引き受けたときのあの一週間の夜——まぶたの裏にまだ残る影。もし今、誰かの恐怖を取ってしまえば、もう一週間眠れなくなる。能力が不安定になることは、仲間を守るどころか危険に晒すかもしれない。

「直接、壊すようなことはしない」トトは言った。「攻撃はしない。まずは……知らせる。市民に、町に、証拠を出して、支持を作る。軍の計画が国策だと示せれば、外堀を埋められる」

ユナは折りかけの紙人形を見つめ、少し息を吐いた。「でも公にしたら、子どもが標的にされるかもしれない」

「だから段階を踏む。アベル、君が持ってきたものをどう扱うかが鍵だ」トトは紙束に手を伸ばしたが、触れるのを一瞬躊躇した。「俺が前に出る必要はない。俺は、子どもを直接盾にする術はもう使わない。代わりに、説明するための図と証拠を出す。ユナ、あんたの紙人形で、どう玩具が変えられるのか、実物を見せてくれないか? 大人の視察がいる前でやるのは危険だ。まずは商人や教師、助産師のところから小さく広げるんだ」

ユナの顔に小さな決意が灯る。「いいよ。子どもたちの遊びを見せるだけで、きっと違う。大人に押しつけられた命令と、子どもが自分で選んだ遊びは違うって、見せたい」

アベルは一枚の紙をたたんで、机の上で静かに押しつけるようにして言った。「これを一度に全部出すのは自殺行為だ。だが、誰かに少しずつ見せて疑問を播く。市の会計士、助産師、孤児院を運営する修道の人々——彼らが噂を拾えば、伯爵だって圧力にさらされるはずだ。国庫の使い道が問われるようになれば、予算執行に支障が出る。上手くやれば、公開の場で説明を求められる。公安のピストルより、市の疑問のほうが厄介だ」

ドンは小さく笑って、両手で眼鏡を押し上げるようにした。「それはつまり、戦争の火薬庫に小さな線香を投げ込むようなものだ。大きな爆発は起きないかもしれないが、煙が出れば人は気づく。俺は玩具の構造上の相違点を示せる。木の繊維、釘の打ち方、動力の結線。軍が大量生産を始める前に、専門家の目で違法性を指摘してやる」

子どもたちの遊ぶ声が外から聞こえてきた。その声に、トトはぎゅっと胸を掴まれる感覚を覚えた。ここでの勝ち方は、子どもたちが自分で選ぶ遊びの余地を守ることだ。それは、彼の力で恐怖を消すよりもずっと根っこの部分に関わる。

「やろう」トトは言った。「ただし、証拠は慎重に扱う。俺が持っている記憶——木鳥の欠けた翼のことは、外に出さない。ミオのことは、二次被害を防ぐために秘密にする。だが、書類の一部を公開して、市の会議で専門家の前で検証してもらう。ユナ、ドン、君たちはそれぞれの役割を——ユナは玩具の演示、ドンは技術鑑定、アベルは内部情報の小出しを頼む」

誰もがそれぞれの考えを持っていた。ユナは自分の作業台に戻り、紙人形の目元に小さな墨の点を打つ。ドンは引き出しから小さなカンナを取り出して、木屑を器用に削った。アベルはまた何かを考え込むように地面を見つめたまま、やがて軽く首を振った。

「ただし一つだけ。もし俺に頼らないといけない場面が来たら、その時は俺が行動する」トトは付け加えた。「でも……直接的な暴力じゃない。子どもの選択を支える行動だ。俺が恐怖を取るのは最後にする。もう一度あの夜のように、不眠で周りを危険に晒すことはしない」

その言葉を自分に言い聞かせるように、トトは窓の外の空を見た。空は薄く蒸気をはらみ、遠くの旗がひらめいている。官印の押された紙束は、現実の重さとして胸の内に沈む。だが、行動の輪郭もまた固まりつつあった。

午前中、三人は町の中へ出て行った。アベルは市役所近くの噂好きな酒場へ、ドンは木工職人仲間が集まる露地へ、ユナは孤児院の前庭で子どもたちを集める。トトは、印刷屋と会って証拠の写しを少部数で刷る手配をし、そして助産師の家へと足を運んだ。助産師の女は灰色の手を差し出し、静かに書類を受け取ってから目を見開いた。

「これは……」彼女は低い声で呟き、顔から血の気が引いた。「孤児を選別して、何に使うつもりなのかしら。罰当たりな——」

「罰当たりだ」トトは返した。「でも今は一つずつ、証拠を積み上げる。助産師さん、ここで噂を広げてほしい。母親たちは子どもを守るためなら動く」

夜に近づくと、反応は静かだが確実に広がり始めた。市井の人々が小さな疑問を抱き、教師が目を細め、八百屋の女が朝の買い物で隣にいる客に囁く。小さな火種が、湿った草を乾かすように広がっていく。

だが、すべてが予定通りに運ぶわけではなかった。夕暮れの市場で、ユナが「玩具の変化」を見せるために小さな演示を行おうとしたとき、軍の徴募係らしき男が通りかかったのだ。制服ではないが、威圧的な立ち居振る舞いで周囲の空気を変える。ユナが紙人形をそっと差し出し、子どもが自分の選んだ木馬を抱えて笑い出す瞬間、男は鼻で笑った。

「子どもが選んだだと? お前らの遊びが国家の命令に勝てるのかね」彼は声を張り、その場にいた大人たちの注意を一斉に引いた。大人の存在。命令の声が市場の板張りを震わせる。

その瞬間、トトの首筋が冷たくなる。大人の命令は、玩具を動かさない。見せ物としての演示は、軍のような大人が振るときには脆い規則の前に潰れる。子どもの木馬は、子の選択で動けるはずだった。だが徴募係の一言が空気を支配し、周囲の大人たちの視線が眉を寄せる中、木馬は