玩具職人

玩具職人 第13話「第12章」

雨上がりの朝、工房の庭にはまだ水たまりが残っていた。トトはその水面に映る自分の顔を見下ろし、やるべきことと、やりたくないことが頭の中でぶつかるのを感じていた。やるべきこと――子どもたちを守ること。やりたくないこと――戦うこと、そして眠れない身体で長引く緊張を抱え続けること。

雨上がりの朝、工房の庭にはまだ水たまりが残っていた。トトはその水面に映る自分の顔を見下ろし、やるべきことと、やりたくないことが頭の中でぶつかるのを感じていた。やるべきこと――子どもたちを守ること。やりたくないこと――戦うこと、そして眠れない身体で長引く緊張を抱え続けること。

「まだ眠れたか?」ユナが声をかける。紙の匂いと、乾いた手先の感触が混ざった匂いが鼻に入る。ユナは今日も小さな紙人形のセットを抱えていた。紙人形は、子どもたちが自分で遊ぶことを促すための道具だ。子どもが自ら遊び方を選んだ玩具だけが、トトの力に寄り添って動く。トトはそのルールを何度も確認するように胸に刻んでいた。

「眠れない」とだけ、トトは答えた。言葉は短く、しかし重かった。アベルが角を回って入ってくる。革の袖には朝露が残り、彼の表情は硬い。片目のドンはいつもの鎧を脱ぎ、机に腰掛けて古い歯車を弄っていた。三人が揃うと、工房は一瞬だけ家族のように見えたが、その瞬間の裏側に迫る足音があった。

「外に軍の小隊だ。偵察だってさ。昨日あつらえた玩具の点検ってことで通るらしい。規模は五十にも満たないけど、さっき通報があった」アベルの声に、空気が締まる。五十は小隊としては小さく見えても、武装して命令を下す側が来るということは別の怖さを意味していた。軍の命令は玩具を動かす。だがそれは、大人が取り付けた命令だった。

トトは自分の中で決まりを確かめた。自分で遊び方を選んだ子どもの玩具だけが、こちらに味方してくれる。大人が持ち込んだ命令――軍の命令――には反応しない。恐怖を嘲る者が近づけば、動くはずの玩具も容易に壊れてしまう。もし自分がその「怖いもの」を代わりに引き受けるとしたら、代償は一週間、眠りが来なくなる。今はその代償の入口に立っている。

「子どもたち、どこに隠す?」ユナが尋ねる。彼女の声は震えていなかったが、手がわずかに震えて紙人形を握る。子どもたちは工房の奥にいる。木の棚と布のテントが小さな隠れ場になっていた。ミオの片翼の木鳥は、布の影にぽつんと置かれている。トトはその木片に目を引かれ、胸の奥に小さな重みを感じた。あれがどうしてこんなところに、という問いは押しとどめるほかなかった。

「外に出て、『選ぶ』時間を作る」とドンが言った。「軍は検査を口実に玩具を触るかもしれん。命令された玩具は動かないが、子どもが自分で選んだ遊びの合図を待つものなら——」彼は歯車を指で回しながら言葉を切る。「動く。だが証明はいるな」

「ユナ、紙人形で合図を作って。アベル、監視と報せ役だ。ドン、入口に時計の音を仕掛けてくれ。合図が聞こえたら一斉に動けるように」トトは指示を出す。眠れない目で深呼吸をする。心拍は早いが、頭は冴えていた。眠れないことは逆に警戒を鋭くする。仲間の動きがそれに応じて動き出した。

軍の小隊は昼前に到着した。兵士たちの足並みは整い、制服の金具が日差しを反射している。小隊の先頭に立つのは中年の曹長で、冷たい目をして工房を見下ろした。兵士の一人が箱を下ろし、精巧な木製の玩具を並べる。兵器めいた歯車と銅線が組み合わさったそれらは、遠目には無害なおもちゃだが、成人が命令を与えて操作する装置だった。

「これらは王国の支援品だ。子ども向けの慰問」と曹長は言った。言葉にぶれはなく、だがその目は玩具を試験するようにスキャンしている。兵士の一人が軍の命令でその玩具に動作を指示すると、玩具は正確に動いた。独立して命令に従う玩具の列は、軍の目論見を端的に示している。

「彼らは命令に逆らわない」アベルが低く呟いた。「こっちのは違う。子どもが――自分で遊び方を選んでいないと反応しない」

曹長はにやりと笑う。笑い声は子どもを嘲る音に近く、トトの背筋に冷たいものが走る。笑う者が近づけば玩具は壊れる――そのルールが、彼の胸の奥で警鐘のように鳴った。曹長の笑い声が紙人形の列を乱すかもしれない。トトはその笑いを押し返すように、自分の心を静める。

「ここで検査をする」曹長の声は命令だった。「玩具の取り締まりは大事だ。子どもたちに変な物を渡してはならぬ」彼は言いながら箱の蓋を開け、玩具を拾い上げる。兵士たちが子どもたちの隠れ場所へ向けて視線を向ける。小さな手が縮こまるのをトトは見た。

ユナが突然明るく声を上げる。「さあ!紙の人形劇の時間だよ!」彼女は手を広げ、紙人形を一つ、高く掲げる。子どもたちの方へ向けたその行動は、子どもが「自分で選ぶ」瞬間を作るためのトリックだった。子どもの一人が興味を持って自分で人形を取れば、その人形は選ばれた玩具になり、トトの力に触れられる可能性が出る。

ある小さな女の子が紙人形に手を伸ばした。彼女の目はまっすぐで、でも手は震えていた。トトは目の前で、ルールを確認する。自分で選んだ玩具。その子が選んだ。だが曹長が近くで嘲笑すると、その玩具は壊れるかもしれない。トトは笑う者の存在を押し切れないわけにはいかなかった。

兵士の一人が紙人形に手を伸ばし、指先を軽く叩くように触れた。瞬間、紙人形の目が揺れ、紙の縁からひびが入った。ユナが叫んだ。「触らないで!彼女が遊ぶの!」

曹長は肩をすくめ、低く笑った。「そんなものか、子どもの遊びなど」彼は言って紙人形を掴もうとしたが、兵士の手に触れた瞬間、紙は音を立てて破れた。破れる音は銃の装填とは別の残酷さを持って響いた。子どもの顔に一瞬の落胆が落ちる。トトは何もしなかったわけではない。彼は集中した。だが大人の手が介在した玩具は、彼の力の対象になれない。

絶望は一瞬にして彼の胸を締めつけた。だが次の瞬間、別の子どもが立ち上がった。小さな男の子、名前はリク。彼の手には自分で選んだ小さな木の車がある。埃まみれのそれを彼は大事そうに擦っていた。トトはその車に目を留める。リクは自分で遊び方を選んだ。選んだ瞬間だけ、その玩具は動く。

だが軍の玩具は命令で動く。軍の兵器玩具が、リクの持つ「怖いもの」を代わりに焼き付けて焼き払うことはできるのか。トトは心の中で自分の能力の前提を確かめる。彼は子どもの「怖いもの」を小さな形にして動かすことができる。けれどその恐怖は、元の子どもがその怖さを認め受け入れる必要がある。リクは震えていたが、自分の車にしがみついて震えを受け入れているように見えた。だが隣に曹長の嘲る影がある。

「リク、行け」トトは言った。自分の声がやけに遠く感じられる。息が浅く、頭は重い。眠っていない日々が彼を蝕んでいた。目の端で木鳥の片翼が微かに揺れ、幻のように羽音が聴こえた気がした。だが戻るべきリアルはここにある。

リクが小さな声で「おばけがいる」と言った。彼の言葉は純粋で、しかし全てを変える。リクが自分の恐怖を認めたことで、トトはその恐怖を掴むことができる。子どもが自ら選んだ玩具。それが条件だった。

トトはゆっくりと手を伸ばした。心の中で恐怖を掴み、形にする。見えない糸を引くように、リクの怖れが小さな形へと凝縮し始める。薄暗い気配が指の先にまとわりつき、木の車の周りで小さな影が膨らむ。影は小さな怪物のようになり、しかしそれは脅かすためのものではなく、触れれば分かる柔らかさを持っていた。子