人形王子

人形王子 第10話「第9章」

倉庫の窓から差す月光は冷たく、薄い板の隙間を通って床に細い線を引いた。レオンはその光線に沿って古いドライバーを拭き、指先にじんわりと残る油の匂いを嗅いだ。今、彼がしたいことは決まっている。王宮の装置設計図を何とかして手に入れ、あの口覆いがどこに保管され、どうやって兵へ取り付けられているかを確かめることだ。だが、目の前には幾つもの障害がある。城壁の見張り、夜間の巡回、そして何より──ルキウスが築いた見えない網だ。

倉庫の窓から差す月光は冷たく、薄い板の隙間を通って床に細い線を引いた。レオンはその光線に沿って古いドライバーを拭き、指先にじんわりと残る油の匂いを嗅いだ。今、彼がしたいことは決まっている。王宮の装置設計図を何とかして手に入れ、あの口覆いがどこに保管され、どうやって兵へ取り付けられているかを確かめることだ。だが、目の前には幾つもの障害がある。城壁の見張り、夜間の巡回、そして何より──ルキウスが築いた見えない網だ。

「外に出るのか?」

低くて掠れた声。クレイが立ち上がり、傷の残る顎を撫でながら窓の外を覗いた。かつて王都の近衛兵だった男の動きは、今でも簡潔で無駄がない。彼の表情にかすかに宿る怒りが、言葉にならない恨みを示している。ニナは黙って木の削り屑を払った。腕の傷はまだ赤いが、手先は冷静だった。マリアはいつものように首のない人形を抱え、布の間に顔をうずめている。清掃用ゴーレムは、倉庫の片隅で灰色の手を組み直していた。彼らを守ること──それがレオンの最優先だった。

「クレイ、あんたの言うことを聞かせてくれ。どこに行ける、何が動く、誰が見張ってる?」

レオンは言葉を平らに並べて問いかけた。情報は彼らの唯一の武器だ。クレイは一度息を吐き、肩の力を抜いてから、膝をついて机の上の地図に指先を置いた。そこには王宮の周縁が簡潔に描かれている。レオンは地図の線よりもクレイの瞳を見た。そこにあるのは、捕らえた記憶の映像よりも痛いものだった。

「ルキウスの部隊は、単に兵を増やしただけじゃない。兵を同じにする装置を作った。口を覆うのはただの布じゃない。接触すると、声の『抜け殻』を——吸い取る。俺らにはそう見えた。初めに気づいたのは、兵の一人が出征の朝に突然黙り込み、そのままずっと笑わなくなったことだ。説明すれば長くなるが、結論だけ言う。装置は兵の言葉を、願いを、『取り出す』ように設計されている」

クレイの声は小さく、苦い。レオンはその言葉を噛み締めた。ここで重要なのは装置の仕組みよりも、クレイがそれを知っているという事実だ。城内の設計図と保管場所、補給ルートのいくつか、そして装置を取り扱う人員の名簿を彼は覚えている。追放される前、彼は内側で動く者だった。だが、彼の口から出る次の言葉に、誰もが息を呑んだ。

「中庭の東側、荷役区画の地下に修理と保管の小部屋がある。表向きは排水と機械の整備用だが、実際には『消耗品』の倉庫になっている。俺がいた時、そこに小さな自動機械がいくつか運び込まれた。動かないまま、箱に詰められて。表札には職人の名が付けられていた──誰かが作った証拠だ。作った者たちは強制され、ある者は二度と戻れなかった」

ニナが手を止め、目を上げる。普段は言葉少ない彼女の眉が、わずかに寄った。マリアが抱く首のない人形の布が震えた。言葉を奪われた者の像が、彼女の中で動くのかもしれない。

「どうやってそこまで辿り着ける?」レオンはすぐに核心を突く。「正面からは無理だろう。見張りが厳しい」

クレイは地図に指を滑らせた。そこに印がなぞられると、倉庫の床に引いた月光の線と同じように道が見えてくる。

「下水路だ。古いせいで蛇行してるが、荷車が通れる幅の排水口に繋がる通路がある。俺は何度かそこを通って器材運搬に便宜を図った。夜間は見張りが減る。だが、注意しろ。下水の一部は王宮の機械が管理している。歯車研磨工の名前を覚えておけ──エリアスだ。彼は口を開けないが、俺に同情していた。工房街から密かに道具を回してくれたやつだ。そいつが一つ鍵を握っている」

エリアスの名は聞き覚えがあった。小さな金属工房を経営していた職人の一人。彼の未発表の願いがなんであるか、レオンには予想がつく。だが、能力の制約を思い出し、口に出す。

「エリアスの機械なら動かせるかもしれない。しかし、俺のやり方を忘れるな。願いは所有者の『言えなかった』一つだけだ。命令で動かすことはできない。使う者が嘘を重ねれば、機械は止まる。嘘だらけの同意では働かない。俺が動かすとき、持ち主の痛みを見ることになる。耐えられるか、って話だ」

クレイは固く首を縦に振った。彼の顔には、かつて失ったものへの後悔と、それを挽回したいという切実さが混ざっている。「耐える。ここで何もしなければ、もっと多くが奪われる。俺はそれを見ているだけだった。もう黙ってはいられない」

それが決定打だった。ニナは小さな声で「いい」と言った。ゴーレムは無表情に頷いた。マリアはじっと床を見下ろしていたが、彼女の指先が人形の首に触れた。誰も強制されているわけではない。合意が集まった。レオンは深く息を吸い、準備を整えた。

「まず、証拠だ」レオンは言った。「設計図か、装置の一部が必要だ。それを公にせずに持ち出す。エリアスの工房に侵入して、彼が組んだ部品か、保管していた断片を探す。それがあれば口覆いの原理が分かる。分かれば対策も取れる」

クレイは一瞬躊躇ったが、やがて小さく笑った。笑顔は久々で、それが彼の顔を硬くする。声を低くして、彼は細かい話を始める。潜入の時間帯、荷役係の交代の一刻、下水口の位置、警備兵が巡回に使う合図──彼の説明は事実と記憶の断片を繋ぎ合わせていく。だが、そこに入ってくる一言は、ただの情報ではなかった。

「だが、気をつけろ。エリアスは元々は奴らに協力していたわけじゃない。圧力でね。彼らは職人たちの家族を人質にする。だが、工房の道具を取り戻したい気持ちは消えていないはずだ。エリアスに話をして、彼の言えなかった願いを触らせてもらえれば──彼はきっと、道具を取り戻すことで満たされるだろう」

レオンはその言葉の重さを感じた。能力を使うたびに、持ち主の秘めたる痛みが彼の中に流れ込む。貧しさ、恐怖、屈辱、失った人の記憶。それらを映像のように受け取るたびに彼は気分が悪くなり、手が震える。だが、今回は違った。今回はその痛みが単なる代償にとどまらない。仲間たちを守るための道筋を作る躯であり、声を取り戻すための鍵でもあった。

「やる。今夜だ」レオンは決めた。

計画は簡潔に分担された。クレイは下水口の前で待機し、外周の見張りを引き付ける。ニナは木製の作業台を使って偽の修理音を作り、荷役区画の注意を逸らす。ゴーレムは重い扉を抑える役目。マリアは倉庫に残って人形を見張り、必要なら証拠を隠す。レオンはエリアスの工房へ赴き、直接話をつけることになった。

エリアスの工房は、城下の薄暗い通りにあった。金属の匂いと火の匂いが混ざり、夜でも小さな光が窓から漏れている。鍵穴に石を当て、クレイが囁く。「表に見張りが一人いる。だが、いつもの張り込みだ。気にしないでくれ。エリアスが顔を出せば、俺が合図を出す」

工房の中は散らかっていた。鉄の塊、削り屑、そして幾つかの小さな自動機械の残骸が作業台の上に並んでいる。どれも動かない。だがそれらには、作り手の名や、小さな刻印、器用な手の癖が残っている。レオンは一つの小型運搬機の殻を手に取った。表面に重ねられたリベットの間に、かすかな刻印。エリアスの印だった。

「これだ」レオンは囁いた。「この機械の所有者はエリアスだ。言えなかった願いは、おそらく『この手でもう一