時間花の花屋

時間花の花屋 第9話「第8章」

扉は金属の唇をきしませ、四人を吐き出すように閉ざされた。そこは環庭の外縁、根と導管が天井を這い、空気が常に湿り気を帯びている場所だった。薄暗い半円形の空間に腰を下ろしたのは、暦守ヴァルネ。背後には巨大な透壁があって、それを通して環庭の中心部の光が、水面に広がる波紋のようにゆらゆらと揺れていた。光は花弁の形をしている。光は、まるで呼吸しているかのように、定期的に膨らみ、縮んだ。

扉は金属の唇をきしませ、四人を吐き出すように閉ざされた。そこは環庭の外縁、根と導管が天井を這い、空気が常に湿り気を帯びている場所だった。薄暗い半円形の空間に腰を下ろしたのは、暦守ヴァルネ。背後には巨大な透壁があって、それを通して環庭の中心部の光が、水面に広がる波紋のようにゆらゆらと揺れていた。光は花弁の形をしている。光は、まるで呼吸しているかのように、定期的に膨らみ、縮んだ。

ヴァルネは細く編んだ髪を後ろで締め、淡い灰色の革手袋をはめていた。指先が白い光をかすめるたび、花弁の輪郭がいっそう鋭くなる。彼女の足元には、小さな布のくつ――片方だけの、子供用のすり切れた靴が置かれていた。布底は乾いて小さく丸まり、そこにかすかな土の匂いが残っていた。トーマはその靴を一瞥して、胸の奥がきゅうと痛んだ。靴は彼女の言葉の先立ちに、過去の重さを示していた。

「よく来た」声は低く、抑制されていた。言葉は責めるようでもあり、慰めるようでもある。ヴァルネは顔を上げ、四人を順に見た。トーマは視線を受けると、自然と背筋を伸ばした。黙っていた時間は少しだけ短くなったのだと、自分で思った。

「ここが環庭の中心部だ。外から見えるものの何倍も、ずっと複雑だ。器官が多すぎる。誰かが説得に失敗すれば、ただの花畑に戻るだけで済む――だが時脈は違う。繋がっている。壊れたときの代償は、君たちがここで見たものよりずっと大きい」

彼女はかすかに笑った。それは乾いた笑いで、そこに含まれる温度は低い。だが瞳の奥には、たしかに人間の皺があり、摑めるだけの柔らかさが残っていた。ミオラが小さく息を呑むのが分かった。ガルドは地面にもたれたまま、手の甲で顔を隠した。セナは瓶をぎゅっと抱きしめ、目を伏せたままだった。

「昔、暴発があった」ヴァルネは言葉を選んで続ける。「時脈の不安定化で、ある地区の寿命が一斉に抜けた。家族がその夜、床に崩れ落ちた。私は――私は妹を失った。あの時は何も知らなかった。『安定』という言葉を口にする人間は、ただ安全を求めていた。ただ、それだけだった。誰も責任を取らなかった」

トーマは言葉にならない何かを感じた。ヴァルネの声は、責めでも弁明でもない。もっと複雑で、痛みの先端を自分自身に向けたようなものだった。彼女が妹の靴を撫でる指先を見ていると、声がとぎれて、ただ空気の音だけが残った。周囲の根が微かに震え、鼓動のような低い音が空間を満たす。時脈の鼓動だ。

「だから私は、徴収を強化した。選別を導入した。灰色の塊を作り出し、暴走の芽を削ぎ落とす。そうすれば、人々は死なない。だが、選別の先で失われるものがあることも、わかっている。人の時間を奪うことは――どこかで罪になる」

彼女の掌にある小箱が開かれる。中には報告書や納入票、それに小さな花弁が並んでいた。花弁は灰色を帯び、焙られたように見える。封印された匂いが、空気に浮かぶ。トーマは自然に鼻をしかめた。ミオラが咳払いをした。

「外注に出して、焼却しているだろう」ガルドが短く言った。声は震えていたが、責めではなく確認だった。「それで、誰が生き残るかを決めるんだ。僕もその帳簿に印を押した。許せ」

ヴァルネは帳簿に目を落とした。彼女がそこに書き込む文字は、整然として、しかし冷たい。目の前に広がる数字は、人の暮らしを量る単位に変わる。トーマの胸に重くのしかかる。ガルドは以前の自分を否定できないまま、震える手でテーブルの端を握りしめる。

「焼くつもりだ」ヴァルネは意図を隠さずに言った。「白花は不安定だ。逆流のきっかけを作る。逆流が規模を超えれば、時脈は破裂する。破裂した時に戻らない命がある。私はそれを防ぐために、白花を消す。そうすれば、都市は今の安定を維持できる」

言葉は鋭かった。だがそこに、ひとつだけ揺らぎがあった。ヴァルネは自分の決定を正当化しようとしているようで、どこかで自分自身を説得しなければならない人物のように見えた。ミオラの目が細くなる。セナはふるりと小さく震えた。

「焼いてしまえば、戻らない。奪ったものは、二度と市民の胸に戻らない。それが容認できる代償だと、君たちはどう思う?」ヴァルネはトーマに向けて、問いを放った。

トーマは答えを探す。答えは昔から胸の奥にあった。母に言えなかった言葉、あの日、温室で見た白花。「忘れないで」と言えなかったこと。言葉は今日まで重荷となって、自分を何度も動かせなかった。だが今は違う。彼は黙ってなどいられなくなっていた。

「安定と尊厳は同じじゃない」トーマは静かに言った。言葉は震えない。自分でも驚くほどに、はっきりしていた。「君が恐れているのは、時脈の暴発だ。でも人の尊厳を奪うことを前提にした安定は、守るべきものの本質を壊す。僕たちは、それを問い直す権利がある。もし本当に暴発を防ぐ方法があるなら、隠す理由はなにもないはずだ」

ヴァルネの顎がわずかに上がった。誰もが息を飲む中、彼女はゆっくりと椅子から立ち上がった。足元の靴に触れ、そしてそれを握る。瞬間、彼女の肩が震えた。表情は崩れないが、その小さな震えがすべてを語った。

「知っている」彼女は囁くように言った。「私たちは、暴発を完全に防ぐ方法を見つけている。だがそれを実行するには、環庭の構造を変えなければならない。分配と開花のルールを根底から変える。刻花が通貨として機能しなくなる可能性がある。都市の経済は、今の形を前提に組み立てられている。崩せば、何万人もの生活が一度に揺らぐ。私はそれに責任を持てるか。妹を失ったあの夜、私は生き残った者としての責務を考えた。誰かが、壊れた秩序を埋め戻す必要があると決めた。私はその役目を取った」

彼女の声が消えると、ひとつの機械音が空間を横切った。環庭の心臓部が深く、そして規則的に脈を打った。音は低く、鼓膜の奥で振動する。トーマはその音を聞くたびに、母の匂いが遠ざかることを思い出した。能力を使うたび、母の記憶が一つずつ薄れる代償。ここでその代償を思い出すのは、意図的だと彼は感じた。

「でも、知っているならなぜ隠す?」ガルドが荒い息で言った。「誰がその判断をしている? 誰が人の記憶を差し出すかを決める? おまえ一人の判断で、何千もの過去を焼き払うのか?」

ヴァルネの目がガルドを射抜いた。そこには長年の重責が刻まれているが、同時に人間らしい疲労が見て取れた。彼女が手に取り出したのは、薄い革の袋だった。袋の口を開くと、幾つかの小さな木札が現れた。札には鉛筆で小さな文字が刻まれている。そこには人の名前と、いくつかの数字――個々の寿命に関わる数が書かれていた。札の端には、灰色の花粉がついている。ミオラの顔が青ざめる。

「私は選択を迫られた」ヴァルネは言った。「誰かが失われるのを見て、同じことを二度と繰り返したくなかった。私が合理的に判断した。だが、その合理性が、君たちには冷酷に見えるだろう。だから君たちを処刑するつもりはない。だが、行動を止めるための時間を与えるつもりだ。夜明けまで――君たちに考える時間を与える。白花をどうするか、環庭にどう対峙するか。私が君たちをここで裁くのではない。市民が判断するべき事柄だ」

言葉には条件が含まれていた。夜明