騎士団の悪役令息は失踪した王女を探す

騎士団の悪役令息は失踪した王女を探す 第7話「第6章」

甲冑の列が朝光を受けて震えた。金属の肌に反射する白光は、見物の群衆の視線を結晶のように集める。蒼鋼騎士団の中庭は、今日も「劇」の舞台装置だった。旗は無言の拍手を送り、砂利は足音のリズムを増幅する。

甲冑の列が朝光を受けて震えた。金属の肌に反射する白光は、見物の群衆の視線を結晶のように集める。蒼鋼騎士団の中庭は、今日も「劇」の舞台装置だった。旗は無言の拍手を送り、砂利は足音のリズムを増幅する。

「断罪は演出だ。見苦しい真実を隠すための舞台なのだよ、ユリオ」
耳元でキセリーナが低くささやく。彼女の指先は冷たく、手袋の縫い目を噛む癖があった。ユリオはその指に触れる代わりに、ただ顔を上げた。胸の鼓動が、鎧の間に挟まれた一個の石のように重くなる。

壇上に据えられた台座の上には、淡い布で顔を覆われた人形──代わりにされる「象徴」が置かれていた。見物はどよめき、噂話が羽のように広がる。今日は刑罰の見せ物であり、悪役令息ユリオの「処刑式」が、予定されていた。

だが、その予定は二度と予定のままではいられなかった。

副長マルコが、壇の脇から引きずられるようにして出した古い帙(ちつ)が地面に落ちる。帙を開くと、黄ばんだ羊皮紙と鉄の匂いが混ざり、砂埃に嗅覚がささやかれた。帙の中から、蒼鋼騎士団の秘録──公印が押された一枚の文書が現れた。人々はそれを「偶然」と呼んだが、偶然の顔はいつも冷たい。

「これは……」マルコの声は震え、周囲の空気まで固くする。紙の端に、見覚えのある紋章が押されていた。王家の紋、淡い薔薇の紋章。だが押し付けられている印影の中央には、騎士団の刻印が重ねられていた。

キセリーナの目が細くなる。「婚姻律の付録だわ。ここに……蒼鋼が婚姻の執行役であること、そして『王家の巫女』の護送に関する特別条項が明記されている」

そのとき、群衆のほうから嗤い声が漏れた。噂は呼吸のように増え、台座で顔を覆う人形は、文字通りの「代わり」だということが、一挙に露わになる。騎士団が王家の婚姻律を物理的に守ることで、下の者の選択を剥奪してきた──それが、この羊皮紙の墨で示されていた。

壇上の司祭が慌てて前に出る。団長ヴァレッドの目は、砂のように冷たい。彼の周囲に立つ騎士たちの甲冑は、光を奪う黒い層になった。場の空気が「秩序」によって引き締まる。

「この場で再検討する余地はない。王儀に従え」団長の声は、塔の鐘のように重い。

ユリオは帙の文書を指でなぞる。羊皮の文字は、昔の規定の言葉遣いで書かれていた。ここに書かれた言葉を、当事者全員の合意で『読み替え』る──それが、彼の力だった。前世の知識などではなく、制度文書の隙間を当事者の合意で滑りこませること。だがその力は不完全で、条件があった。合意のない独断は、必ず自分の選択肢の一つを削ぐ。

彼は合意を求めるために立ち上がった。「ここに書かれていることは、形式と役割を指定するに過ぎません。人の意思を縛るためではない。蒼鋼――あなたたちも、当事者ではありませんか?」

ユリオの声は広場に投げられ、反響した。数人が頷き、数人がその頷きを疑った。騎士の一人が前へ出て、掌を剣の柄に置く。「我々は命令を果たすだけだ。王命があれば、人を動かすのは当然だ」

「では、王命とされるものを、ここで当事者の合意によって問い直しましょう」ユリオは帙を組み替えるように、言葉を紡いだ。彼の能力は、紙に滴るように作用する。条文の語を紡ぎ直すには、そこに記されるすべての当事者が同意する必要がある。今日は群衆が、団長が、王室の代理である近衛が、そして台上の「象徴」役がいる。合意の輪を作ることは不可能ではない。

だが、ヴァレッドの瞳の奥に、疑念でもなく誇りでもなく、制度という機械の歯車の光が宿る。「合意など幻想だ。もしここで出鱈目がまかり通るならば、秩序は崩れる。ならば秩序を守るための鉄槌を下す」

その言葉で、騎士たちが一斉に剣の鞘を引き抜いた。砂利が一瞬にして鋭い音を放ち、群衆は叫び声を上げる。甲冑の列は整列から散開した。整然と並んでいた金属の群が、蠅のようにバラバラに跳ねる。――あの大きなカットのように、整列した行列が散開する瞬間、ユリオは視界の端にあるものを見た。整列は「象徴」だった。散開は「手段」になった。

混乱が拡大しようとする刹那、台上から一人の少年が叫んだ。「止めろ!」その声はか細く、だが確かな合図だった。少年の周りにいた数名の少女たちが、手を取り合って台上へ上がる。顔には布がなく、涙と泥が混ざっていた。本来なら代わりにされるはずの人形が、人間としてそこにいた。

ユリオは選ぶ余地を感じた。合意を取りに行くこと、あるいは暴力を止めるために、一方的に命運を決めること。合意を求めればさらに犠牲者が出るかもしれない。即断すれば――自分の選択肢が一つ消える。

時間は冷たく、砂利は耳の中で鳴った。ユリオは息を吸い込み、意思を固めた。声を上げる前に、心の中で自分の未来の扉を数えた。団長になる扉、騎士としての道、家名を継ぐ道、そして──王女を救うために追う道。四つの扉が並んでいるのが見えた。どれも現実的で、どれもまだ未確定だった。

「ここでの強制を停止する。蒼鋼は一時的に職務を保留し、当事者の合意が確認されるまで一切の執行を行わない」

言葉はユリオの内から放たれた。彼の力は、本来ならば当事者全員の合意によって働く。だが今、蒼鋼の集団が刃を向けようとする。彼が合意を取りに行く前に、刃が振るわれると誰が保証する。流血を止めるため、ユリオは無理に条文を一つ「決めた」。それは合法的な読み替えではない。合意という形を借りずに文の効力を操作する、禁忌の一手だった。

行為は音もなく、だが確かに代償をもたらした。胸の奥が、冷たい水に沈むように沈んだ。ユリオは自分の右手を見た。何の外傷もない。だが内側の視界で、四つ並んでいた扉のうち一つが音を立てて閉まるのを感じた。閉ざされた扉の名は「団長になる未来」だった。彼はその扉に指を伸ばすことができなくなった。心の中の鍵が外れたように、振り返ることも、その可能性を追うこともできない。

「――ユリオ!」キセリーナの声が揺れる。「何をした」

「止めたんだ」ユリオは声を震わせながらも言い切った。「血を。今はそれが優先だ」

声を受けて、騎士たちの刃は鈍く揺れる。ヴァレッドは地面を見下ろし、やがて低く吐き捨てるように言った。「責任は貴様が取れ。制度が傷つけば、取り返しはつかぬ」

ユリオは扉を一つ失った痛みを胸に抱えたまま、答えた。「私は制度を守るためにここにいるのではない。人々が自分で選べる場を増やすためにいるんだ」

その言葉に、周囲の空気が少しずつ軟化する。台上の少女たちが一人ずつ顔を上げ、手を合わせて語り始めた。彼女たちの言葉は合意の粒子となって、羊皮紙の文字を濡らした。騎士たちの硬質な態度の奥に潜んでいた不安がちらりと見える。多くが、命令という出力に手を当てただけの歯車である——その不安は、合意を作る穴だった。

しかし、戦端の火種は消えたわけではない。場外で、ある群れがさっと動くのが見えた。マルコが馬を引き、顔を真っ赤にしている。彼はユリオを見て、短く言った。「情報では、王女殿下を護送したという村がある。我慢ならない。俺は先に出る」

キセリーナが叫んだ。「一人で行かせる気? 背後があるかもしれないのよ」

「俺は選んだ」マルコはひと言だけ