騎士団の悪役令息は失踪した王女を探す

騎士団の悪役令息は失踪した王女を探す 第2話「第1章」

石造りの大広間に陽が斜めに入ると、甲冑の鉄肌が白い筋を描いた。蒼鋼騎士団の執務室には、古い油の匂いと革手袋の擦れる音、そして甲冑の金属同士が触れ合うかすかな摩擦音が満ちている。窓辺の光が、整然と並んだ兜の全面に幾重にも反射して、まるで無数の目がこちらを注視しているように見えた。

石造りの大広間に陽が斜めに入ると、甲冑の鉄肌が白い筋を描いた。蒼鋼騎士団の執務室には、古い油の匂いと革手袋の擦れる音、そして甲冑の金属同士が触れ合うかすかな摩擦音が満ちている。窓辺の光が、整然と並んだ兜の全面に幾重にも反射して、まるで無数の目がこちらを注視しているように見えた。

ユリオ・フォン・アーデルは、一歩一歩を刻むたびに床石の冷たさが足裏に伝わるのを感じながら、団長席に近づいた。人々の視線はやはり彼に向けられていた。貴族としての礼服は鮮やかな紋章を示しているが、その肩にはいつになく重い空気が乗っている。彼が「悪役令息」として宮廷の舞台に据えられて以降、誰もがその肩書きに釣り合うほどの憎しみを彼に向けるわけではなく、むしろ冷ややかな同情と距離感が混ざっていた。

団長は甲冑の外套を掛けたまま、書類の束を前にしていた。中背で、顔は日に焼けて抑えられた威厳を帯びている。銀糸で縁取られた蒼鋼の徽章が、彼の胸で鈍く光った。

「ユリオ殿。蒼鋼騎士団に何用か。ここは王家に属する事柄のうち、騎士団の守備範囲に限られる」と団長は紙片を指で押さえ、声を低くした。彼の声は乾いていて、そこに暖かさはないが無駄な感情はまとっていなかった。

ユリオは紙袋から一枚の古い羊皮紙を取り出した。角は擦り切れ、朱の印が薄く沈んでいる。光を受けた文字はまだ読める。彼はそれを団長の前に押し出すように置いた。

「王女殿下の件です。蒼鋼騎士団が最後にその所在を確認したと記録のある日付が、ここにあります。騎士団の記録と宮務院の註記が矛盾しています。少なくとも、それをここで確認したい。」

団長の眉がわずかに動いた。周囲の騎士たちが堅く口を結び、誰も反論しない。甲冑の反射が微かに震え、騎士団室の温度が一拍下がったように感じられた。

「蒼鋼騎士団は記録に従う。儀礼と書式が定めるところに従い、口外はしない。王家の女性については特に慎重を要する」と団長は言った。彼の指がひとつの行をなぞるようにして、先の書類へ触れた。「第三紀律の八、"王家の安寧に係る事案、団外者の干渉を禁ず"。この会合が何であれ、外部からの詮索は許されん。」

ユリオは深い息をひとつ吐いた。騎士たちの視線は、鋼の縁取りのように冷たかった。彼は知っている。制度は彼らを守る盾であり、また鎖でもある。だが盾がある以上、人質のように囚われる者が出ることもある。彼が探しているのは、今この城から消えた王女――アメリア王女。消息を消した理由も、その場所も、宮廷は口を閉ざす。

「盾ではなく鎖になっていると、誰が言えるのですか?」ユリオは声を落とし、しかし確信を帯びて言った。「文書に矛盾がある。矛盾は読み替えることで解かれる。私は……そのために来た。共訳を求める。」

その言葉に、室内の空気が微かにざわついた。「共訳」——ユリオが示した言葉は、宮廷内で古くから細々と存在してきたが滅多に用いられない手続きだ。彼は羊皮紙の端を指で押さえ、ゆっくりと説明した。

「共訳とは、当該条文の原意と適用を、関係者全員の合意によって時間的・目的的文脈に沿って読み替える手続きです。条文が同時に成立し得ない場合、関係者全員がその場で合意すれば、解釈を更新できます。ただし条件が二つあります。ひとつ——合意は全員一致であること。もうひとつ——合意に際して誰かの運命を一方的に決定した場合、その代償として私の選択肢が一つ、失われます。」

言い切った瞬間、団長の目が私的な興味を僅かに覗かせた。周囲の騎士たちの間に、戸惑いと疑念が揺れた。甲冑の間を伝わる低い囁きが、石の壁に反射して戻ってくる。

「選択肢、ですか?」一人の若い騎士が声をあげた。ヘルムの下の表情は厳しいが、どこか好奇心が混じっている。「それは具体的に、どのような代償を意味するのです?」

ユリオは自分の胸元を触った。そこにあるのは、ただ一枚の家紋入りの帯――彼の身分を示す符号であり、同時に呪縛でもある。彼は、自分が徴用される「断罪役」であることを思い出した。家族が彼をある筋書きに押し込んだのだ。彼の未来は、すでに誰かの脚本の一部だった。共訳の代償は、彼にとって何を意味するのか。声に出すのは難しかったが、真実は彼の内側で冷たく光った。

「もし私が一方的に誰かの運命を決めるように共訳を使えば、私は私自身の可能性の一つを永久に失う。たとえば、ある人物と—たとえば婚約や自由な将来を選ぶ権利だ」ユリオは言った。言葉が出ると、部屋に一瞬の沈黙が降りた。誰もが、その"私"の中身を問いただすことはしなかった。彼の個人的な未来がどれほどの重みを持つかは、説明の必要がないほどに明白だったのだ。

団長は羊皮紙をそっと指で押し込み、視線をユリオに固定した。「それは、厳しい代償だ。だが共訳は形式と合意の術である。団としては、王家の事に関わるものを、軽々しく変えるわけにはいかぬ。全員一致、か。」

「はい」とユリオは返した。「だから、ここにいるすべての方の合意を求めます。蒼鋼騎士団の団員として、あるいは王家の守護者として、皆で文言の意味を定め直してください。そうすれば、王女殿下の最後の足取りを追えるかもしれない。口封じや隠蔽ではなく、正当な手続きで。」

騎士たちの甲高い息づかいが聞こえた。誰かが甲冑に手を当て、その冷たさに指を沈める。団長はしばらくの間、ただ考えるように唇を噛んでいた。周囲の視線がユリオに集まる。彼の心臓は明確な鼓動を刻み、喉がわずかに乾いた。

「合意を得るには、ここにいる全ての者が慎重にならねばならん」と団長が言った。「だが、もし我々が合意するならば、その解釈の結果に伴う責任を負わねばならぬ。王家、そして騎士団は簡単に立ち入れない泥濘に足を踏み入れる可能性がある。」

「それでも私は尋ねます」ユリオは声を強めた。「王女殿下の不在は、王家にとっても、国にとっても深い空白です。そして、その空白が誰かの都合で埋められるのを、私は見過ごせない。貴方方は誓いを立てている。真実を守ることも定めに含まれているはずです。」

部屋の空気が引き締まった。団長の手が、机の上の封蝋をなぞる。彼の目は、何か別の判断基準を探しているようだった。すると、側に立っていた一人の老騎士が、低い声で言った。

「若き侯爵子よ、共訳は可能だ。だが一つ条件を付ける。合意するならば、あの紙片に記された日付の真相を明かすこと。その真相が、王女の失踪にどう繋がるかを我らが知る権利は残されるべきだ――そして、貴殿が差し出すものも明らかにせよ。合意は全員一致だ。合意に値する代償を示せ。」

老騎士の視線は鋭かった。ユリオはその言葉を聞くと、自分の内側にある一つの可能性を思い浮かべた。家族が用意した安泰の将来、あるいは敵対勢力の手から与えられる偽りの幸福。彼はそのどれかを差し出すことができるかもしれない。だが代償として失うものの重さは、計り知れない。

ユリオは羊皮紙をそっと胸に当て、眼差しを固めた。甲冑の反射が彼の瞳に小さく映り、その瞬間、彼は決めかねている自分自身を見た。微かな汗が額を伝い、指先まで冷たくなった。

「わかりました」と彼は低く言った。「私が差し出すものについては――」言葉が