卒業制作室で成績優秀な落第生は一緒に休むことを覚える

卒業制作室で成績優秀な落第生は一緒に休むことを覚える 第15話「第13章」

夜の制作室は、日中とは別の匂いをしていた。蛍光灯の冷たい光が、古い木の机の縁やペンキのはがれた棚を硬く照らし、窓の外にある運動場のざわめきはすでに消えていた。透は息を吐くと、掌に残る木屑と接着剤の匂いを嗅いだ。指先がざらついている感触が、何か終わりのない作業に捕らわれていることを思い出させる。

夜の制作室は、日中とは別の匂いをしていた。蛍光灯の冷たい光が、古い木の机の縁やペンキのはがれた棚を硬く照らし、窓の外にある運動場のざわめきはすでに消えていた。透は息を吐くと、掌に残る木屑と接着剤の匂いを嗅いだ。指先がざらついている感触が、何か終わりのない作業に捕らわれていることを思い出させる。

「もう、時間がないよ」里奈が机の向こうから声を投げた。陶土で指を汚したまま、彼女は小さな土のかたまりを成形している。慎はカメラを膝に抱え、映写機の配線を確かめていた。由希はスケッチをたたみながら、紙の端に何度も視線を落とす。全員が締め切りの重さを背負っている──だが、その重さは不均一で、透の胸には別の重さが沈んでいた。

春(はる)は、透の向かい側にいた。彼女の唇は乾き、黒いセーターの袖口を頬に押し当てている。春と透は、卒制の中心となるインスタレーションの小道具を二人で作る約束をしていた。共同制作物のみが紡ぐ「痕跡」に、透は彼女の本心を託したかった。言葉ではなく、物に残る痕跡を確かめれば、噂や評価に飲まれた世界の前で互いを守る手がかりになると、透は信じた──ただ、それは確信に変わるほど危うかった。

「この歯車を、こことここで合わせて」透は指示を出しながら、心臓の鼓動が速くなるのを抑えた。二人で組み立てる小さな木製オルゴール。中心に刻む模様が、共同の痕跡を宿すための「場」になる。春が静かに頷き、工具箱から細い釘を差し出した。

二人で同じ動作を交互に重ねる。春が糸鋸を引き、透がやすりで角を落とす。手が触れ合う瞬間は短く、しかし鮮烈だった。透はその瞬間を確かめるように目を閉じ、手のひらの温度を覚えた。手先に残る震えを、彼は好意の証だと解釈した。だがその瞬間、里奈の声が割り込む。

「見せてよ、時間がヤバいって本気で」

里奈の疲れが、透明な苛立ちとして空気を震わせる。由希がスケジュール表をめくり、慎が投影テストのために電源を入れる。全体の緊張が一斉に高まった。透は「今確かめなければ」と急いた。共同で作る時間は確かに条件だった。だが「急ぐほど共同制作が壊れる」という約束も、彼の頭の片隅に小さく鳴っていた。

透は春の手首を短く掴み、取り付けの向きを直そうとした。春の目が一瞬大きくなり、彼女は飛び退いた。

「ごめん、待って」春は言ったが、その声は震えていた。彼女は机の端に体重を預け、オルゴールの底板を押さえる。そのとき、釘が外れ、木板に浅いひびが走った。小さな「パキッ」という音は、制作室にひどく大きく響いた。

透は凍りついた。ひびはほんの数ミリのものだったが、共同で作るはずの連続が途切れたことを象徴していた。彼は反射的に、以前のやり方で——手に宿る感覚を頼りに——底板に触れた。掌に、かすかな温度の差と、うずくような感情の痕跡が走った。それは甘く、躊躇いのある音楽のように透を包んだ。透はそれを「確証」として受け取った。春は自分を離れたが、指先に残るその温度は、彼女が離れることを望まないという証拠だと。

透はその証拠を抱えて、口を開いた。「春、俺と……」

だが言葉は、言い放つ前に歯車の隙間に落ちた。由希が厳しい目で透を睨みつけ、全員の視線が二人に集中する。慎がプロジェクター越しにスクリーンに向かって言った。

「今は展示のことを考える。個人的なことは後で——」

だが透の急ぎは止まらなかった。彼は「痕跡」を確定的に読む癖の罠に落ちていた。透は痕跡を疑わず、早まった判断で動いた。春の返答を待たずに、自分の解釈を仲間にも示したいという焦燥が、透を突き動かした。

「これって、きっと好きの形だよ。春は、俺たちと一緒にいたいって――」透は声を張り上げた。

春は固まった。彼女の頬が白くなり、瞳に浮かぶ光が揺れた。「違う、そうじゃない」

その一言で場の空気が引き裂かれた。里奈が荒い息を吐き、由希が怒りを露わにした。慎は素早くカメラを下ろし、オルゴールから手を離した。指先のひび割れが、まるで互いの信頼の線を象徴しているかのように見えた。

「透、それは決めつけすぎだ」由希が低く言った。「ものに残る痕跡は、解釈のひとつにすぎない。決定的な証拠じゃない」

だが透は聞けなかった。彼は自分で作った「読み取る力」に酔い、痕跡を真理とすり替えていた。すると、オルゴールの底板が不意に割れ、内部の細工が崩れ落ちた。割れた木片が鋭くはじけ、透の指をかすめた。

痛みが一瞬、鋭く走った。透は指を引っ込め、血が滲むのを見た。温かい液体が木の粉に混じり、赤が小さな生気を与えると同時に、それまで伝わってきた淡い痕跡が塵のように舞い上がって消えた気がした。彼が手に触れた瞬間に捕らえた「確証」は、割れた底板とともに失われた。

「大丈夫か、透!」慎が駆け寄る。里奈は接着剤を探して手を震わせる。春は口元を押さえ、こらえきれない気持ちを抑えようと必死だった。

「ごめん、ごめん……」透は自分の頭を押さえた。頭の奥で、ぐるりと鈍い痛みが広がっている。彼は急ぎすぎた自分を恥じ、何よりも春を傷つけた事実に震えた。だがその後、もっと冷たいものが顔をよぎった。窓外の校舎の明かりが、ひゅうと一つ消えたのだ。

そこにいた誰かが、廊下を走る足音と共に、写真部の顧問が入ってくるのを見た。「何やってるんだ、こんな時間に!」顧問の声は、規則と評価の重さを体現していた。彼の目は、割れた小道具と血の跡、そして仲間同士の乱れた顔つきを冷たくスキャンした。

「これは展示の一部か?」顧問は厳格に尋ねた。由希がしどろもどろで説明を始めると、顧問はそれを一掃するように言った。「提出物は審査室で統一する。ここでの個別判断や個人的行為は、評価の恣意を生む。学校はそんなものを容認しない」

その言葉が、制作室の中にあるもう一つの敵性を可視化した。制度の厳しさ、評価という名の線引き。透のやったことが小さなスキャンダルになったと感じられた。顧問はメモを取り、写真を一枚撮った。スマートフォンのフラッシュが、割れた木工作と血の赤を冷たく照らし出す。

その晩、制作室は一時解散となった。各々はそれぞれの感情に引き裂かれ、誰もが口数少なに荷物をまとめた。春は帰り際に透にだけ小さく言った。

「私たちは……まだ考え中なの。物に残るものはだれかの全部じゃない。透くん、急がないで」

言葉は細く、繊細だった。透はその言葉を抱きしめようとしたが、いつの間にか春はドアの外に消えていた。夜風がすき間から吹き込み、紙切れが床で踊る。残されたのは、割れた底板と、透の指先に残る痛み、そして仲間たちの疲れた影だった。

翌朝、透は制作室に戻った。床には昨夜の断片が散らばり、机の上には顧問のメモが置かれていた。そこには「共同制作の証明と管理計画を提出せよ」と書かれている。制度は彼らの創作を枠にはめようとしていた。透はメモを握ると、ぐっと息を飲み込んだ。

彼は割れた底板を拾い上げ、ひびの間を覗いた。破片の奥、細い隙間に何かが挟まっているのを見つけた。紙片だ。指先をもう一度負傷させないように慎重に掴むと、それは薄いフィルムの切れ端のように透けていた。フィルムには手書きの文字があり、鉛筆の跡がところどころ擦れてい