天文台で未来を怖がる恋人たちは同じ夢を選び直す 第17話「第15章」
会見室の空気は、望遠鏡の冷たい金属光と蛍光灯の白に挟まれていた。壁際の窓からは薄い夜の紺が見え、屋上の天文台は影絵のように街明かりの上に乗っている。フラッシュの間をすり抜けて、ミナトは長いテーブルの向こうに立っていた。ユイは彼の隣で、手に白い封筒を抱えている。封筒には診断書と、儀式に参加して影響を受けた人たちへの支援に関する書類が綴じられていた。タクミとサヤカが後ろで小声で何かを打ち合わせている。記者たちの声が途切れず、空気は乾いている。
会見室の空気は、望遠鏡の冷たい金属光と蛍光灯の白に挟まれていた。壁際の窓からは薄い夜の紺が見え、屋上の天文台は影絵のように街明かりの上に乗っている。フラッシュの間をすり抜けて、ミナトは長いテーブルの向こうに立っていた。ユイは彼の隣で、手に白い封筒を抱えている。封筒には診断書と、儀式に参加して影響を受けた人たちへの支援に関する書類が綴じられていた。タクミとサヤカが後ろで小声で何かを打ち合わせている。記者たちの声が途切れず、空気は乾いている。
「本日はお集まりいただきありがとうございます」ミナトが言うと、いくつかのシャッター音が重なる。彼の声は張り詰めているが、ユイの方をちらりと見る余裕は残っていた。ユイは押し返すように、軽く微笑んだ。彼女の指先は封筒の端をぎゅっと掴んでいる。皮膚の温度と紙のざらつきが、ミナトの感覚を現実に引き戻した。
斉藤恵──被害を訴える代表の女性が、前に出てきた。目の周りに疲労が沈み、彼女の手には小さな木製の箱がある。箱には観測儀式のときに参加者が作った「天球箱」と同じような彫りがあり、中心に小さな星が刻まれていた。被害者たちの支援を最初に約束したとき、ミナトたちはこうした「共同制作物」を証拠として使う、と説明していた。会見はその公開の場でもある。
「お願いできますか?」斉藤は震える声で言った。彼女の指が箱の蓋を押さえた。会場のカメラがいっせいに彼女に集中する。
「確認のためにひとつだけ、皆さんの前でお見せします」ミナトは言った。彼はいつも通り、能力の条件を説明する。だが記者の一人が前に出て、言葉を遮る。
「つまり、彼は人の心を読むってことですか? 合意なくても可能なんですか?」
鋭い質問に室内がざわつく。ミナトは一瞬目を閉じ、呼吸を整えた。ユイが小さく彼の袖をつまむ。ミナトは唇を引き、首を振る。
「違います。私は“心を読む”ことはできません。共同で作られたものにだけ、そこに残された感情の痕跡が現れる。だが、それは示唆的であって決定的ではない。強く『こうだ』と決めつければ、その痕跡はぼやけます。……それに、急いで共同制作を進めると、物理的に壊れてしまうこともあります」
記者のひとりがさらに追い立てるように迫る。画面は分かりやすい真相を求めている。会見を注目させたい側面と、慎重さを求める側面が交差する。タクミが前に出て、小さな木のやすりとボンドをテーブルに置いた。公開での示範が始まる──はずだった。
だが、圧力に駆られた斉藤の代理の一人が「すぐに形だけでも」と口を出し、手際よく蓋を取り、箱を慌ただしく組み直そうとした。手は早く、ボンドは付けられ、指がそそくさと箱の角を押し固める。記者のレンズが寄る。ミナトは警告したかった。だが場の空気は「結果」を欲していた。
指先に力が入り過ぎたのか、接合部がきしんで小さなひびが入る。木の香りとともに、薄い粉が机に落ちた。箱の表面に、ほんの一瞬だけ淡い光の線が走ったが、すぐに消えた。会場は一瞬の静寂に包まれた後、失望と非難のざわめきで満ちた。
「壊れた……」ユイが囁く。斉藤の目が潤む。カメラが鳴る。ミナトの胸に冷たいものが滑り落ちた。急ぐことで、共同制作が実体的に損なわれ、痕跡が消えた。誰のせいでもない。だが、その出来事自体が、外側の敵にとっては攻撃材料になり得る。
「予定を変えます」サヤカがきっぱりと言って、記者にマイクを突き出す。「この会見は、被害者支援のためのものであり、デモンストレーションのための見世物ではありません。皆さんの理解と協力をお願いします」
空気が緩む間、ミナトは深く息を吸った。ユイが封筒から別の小箱を静かに取り出した。彼女の動きは速くないが、確かだ。彼女は斉藤の手を取り、静かに言った。
「もう一度、一緒に作りましょう。急がないで。今日ここにいる人たちの前じゃなくて、あなたと私たちだけで」
斉藤は小さく頷いた。記者たちの距離が残る中、四人はテーブルの一端へ移り、小さな作業の輪ができた。木の破片を削り、接着面を慎重に合わせる。ボンドの匂いが鼻腔を満たし、手と手の間で温度が交換される。指先が触れ合うたびに、言葉にならない承諾が漂う。時間がゆっくり流れる。ミナトは意識を閉じるようにして、箱の表面に注意を向けた。
やがて、木目の中に極く細い光の筋が現れ始めた。それは記録媒体のように、過ぎた会話の断片や触れ合いの残像を追う。だが光は雄弁ではない。人物の言葉や意図を機械的に表示するのではなく、温度と重心の揺らぎを示しただけだった。ミナトはその一つひとつを言葉にしていった。
「ここに、あなたが最後に笑ったときの一瞬のためらいがあります」「ここの線は、誰かが『本当は違うかもしれない』と呟いた声の残響です」
斉藤は息をつくたびに、何かを思い出すように顔を緩め、また引き締めた。光を言語に変換するたび、ミナトは胸の奥で何かを失っていくのを感じた。最初は小さな揺らぎだった――昨日食べた昼ごはんの味、ユイが冗談めかして使った言葉の語尾、そうした細部がふっと薄くなる。思い出が引き抜かれるわけではないが、輪郭がにじんでいく。能力を行使する代償だと、彼は改めて理解する。ユイがそっと彼の手を握った。彼はその温度を記憶の一つとして掴もうとした。
「ミナト、大丈夫?」ユイの声が柔らかい。ミナトはうなずき、息を整える。会場の向こうから拍手がわずかに湧いた。正しく説明されたことで、記者の一人が質問を取り下げたのだ。
そのとき、後ろの方から低く、しかし確信に満ちた声がした。「あの箱を見せてもらってもよろしいかね?」
声の主は年配の男だった。ステージ照明とは逆光で、顔の詳細は分からない。だが彼が差し出した手には、白い金属の小さなメダルが握られていた。中央には見慣れた意匠──市の評価局に似た形式の刻印が施されているように見えた。ミナトの背筋が冷たくなる。
「私は市民の代表を装って活動してきましたが、真実を知っています」その男は言葉を離さなかった。「このメダルは、儀式の前後に配られていた。観察と指示の印だ。中には受け取るよう圧力をかけられた者がいる。あなた方の『共同制作』が本当に自然発生的ならば、これを見てほしい」
タクミが前に出て、手を伸ばす。ユイが小さく飲み込む。ミナトはその動きを止めない。メダルが箱の蓋の縁に触れた瞬間、先ほどと違う反応が走った。木目に冷たい格子状の線が帯びて現れ、淡い規則的なハーモニーを描き出す。人間の呼吸や温度の揺らぎではない、パターンだ。誰かの指紋のように、そこに「作業」の痕跡が刻まれている。
会場は一瞬でざわめきに包まれた。カメラが男のメダルをクローズアップする。ミナトはそのパターンを見て、異様な既視感を覚えた。目の前の模様は、ただの外来痕跡ではない。複数の共同制作物に繰り返されていた、統一された「署名」の痕跡だった。だれかが、あるいはどこかの組織が、共同制作を媒介して人の選択を誘導しようとしていた。
「これは……」ミナトは声を出すのに苦労した。言語化すれば彼の感覚はさらに薄くなる気がした。ユイは彼の手を強く握り、目を見開いた。斉藤の顔には驚きと恐怖が混じる。タクミは素早くメモを取り、サ