紅砂鎧の庭師と火山教団

紅砂鎧の庭師と火山教団 第4話「第3章」

焚き火の灰がまだあたたかく、朝の空気が針のように肌を刺した。鍋の隅から立ちのぼる湯気に混じって、土の匂いと焦げた藁のにおいが漂う。ユウナは手に持った木の皿を片手でささえ、もう片方の手のひらをそっと見た。赤い粒子が皿の縁に残り、指先の溝に入りこんでいる。紅砂——あの日の残りだ。

焚き火の灰がまだあたたかく、朝の空気が針のように肌を刺した。鍋の隅から立ちのぼる湯気に混じって、土の匂いと焦げた藁のにおいが漂う。ユウナは手に持った木の皿を片手でささえ、もう片方の手のひらをそっと見た。赤い粒子が皿の縁に残り、指先の溝に入りこんでいる。紅砂——あの日の残りだ。

「指、まだ震えてるぞ」とイサムが言った。背の広い男は、鍋にさしていた木べらを置いてユウナの隣に腰をおろす。彼の目は眠気よりも警戒で細くなっていた。避難所の向こうでは子どもたちがまだざわつき、数人の女たちが行列をつくって配給の残りを分け合っている。

ミキがこちらを向いて笑ってみせた。「また夢でも見たんじゃないの。ユウナ、口を開けてもいいよ。まだ匂いがする?」

ユウナは口を開け、深く息を吸った。すると、いつもの朝の草の匂いではなく、金属のような、埃に混じった酸っぱさが鼻の奥に残った。少しの違和感が喉まで伝わる。彼女はそれを唇で隠すように笑った。

「平気。ちょっと疲れてるだけ」

しかし、答えた途端、遠くで馬車の車輪が軋む音がした。音はひとつ、ふたつと近づき、鉄の鳴るような声を伴ってドアが開く。避難所の緊張が一瞬にして変わる。

「火山教団の小隊だ」

声はレンのものだった。まだ子供じみた顔立ちの彼は、目を見開いたまま入口に立っていた。背後に並ぶ黒ずんだ布を纏った者たちの隊列から、一人の男が前に出る。白い布の代わりに赤い鉢巻きを巻いた男——祭主の側近と呼べる風格がある。

側近の顔は日焼けし、鼻の頭に古い火傷の痕がある。彼はゆっくりと片手を胸に上げ、声を低く保ったまま話し始めた。

「物資の確認と納付を求む。教団の規定に基づき、この場で検分する。抵抗は認めない」

言葉には選択肢がなかった。彼らは権威を携えている。帳簿と押印を持っているわけではないが、その視線は役所の職員のように冷たい。ユウナはその視線を受け止めると、自分の手の平を見た。紅砂の粒子が光を受けてきらきらと動く。

「今回は……?」とミキが小声で尋ねる。彼女は計画を練るのが得意な女だが、顔には不安が浮かんでいた。

イサムは歯を噛みしめて、鍋を片手で押さえた。「また奪いに来るつもりか。よくもまあ、同じ場所を目星に付けるもんだ」

「こんな小さな隠れ家まで把握してる。俺たちだけで守れるか?」レンがつぶやいた。彼の手には、先ほどすくったばかりの粥椀がぎゅっと握られている。

ユウナの中で、あの日の力の感触がぬっと蘇る。紅砂が肉薄してきて、網目をつくるあの手応え。だが、昨夜の残り香のように、代償の味も一緒に蘇った。覚えている——単独で使えば、何かを失う。合意を取らなければ、作用は制御できない。だが、先に自分たちに了承がある場合、それは完璧に友のためだけに働く。

「ユウナ?」ミキの声が透ける。

彼女はゆっくりと顔を上げた。側近の目は一瞬だけ彼女を捉えた。紅砂を触っている手がわずかに赤く輝く。

「同意を取って、またあの方法を——」ユウナが言いかけた瞬間、側近が笑った。それは礼儀のない、冷たい笑いだった。

「教団は独自の基準を持つ。あなた方の『同意』など、どれほど法的効力があるものか。我らの視点では、運用の都合上、こちらが決める」

彼の言うところは空疎だが、端的だ。実質、力を持つ者が決める。ユウナは四人の仲間――イサム、ミキ、レン、そして老女のカホを見た。彼らは、それぞれの顔に複雑な気持ちを浮かべていた。ここでまた紅砂を展開すれば、物資は守れるかもしれない。だが、「一度だけ現実化する」能力だ。今また使えば、同じ奇跡は二度と起きない。

イサムが静かに口を開いた。「ここは譲る。俺たちは痛みを増やしてまで皆を守ることはできん」

ミキは反対した。「だめよ。ユウナ、あなた一人で使ったら体を壊す。前回でも少し指先が痺れてただろう?」

レンは目をうるませながらも首を振る。「でも、食べ物を渡したら、あの人たちは明日も来る。ここらが終わりなんてないんだ」

カホは鍋から顔を上げ、しわくちゃの手でユウナの肩に触れた。「若いの、力を見せることを責めはせん。ただ、覚悟は必要だよ。若人は二度三度とはいかんからね」

仲間たちの意思は分かれていた。しかし、合意を得るための多数派は生まれなかった。賛成する者、反対する者、どちらも同じだけ切実だ。裁定は出ない。

側近は進軍の指示を出す。二列になった教団の兵たちが間を抜け、物資のある倉に向かっていく。子どもが泣き声をあげる。女たちの足取りは速く、鍋を抱えたまま逃げ惑う者もいる。

ユウナは立ち上がった。衝動が胸の奥で膨らんでいく。誰の手も取らないで決めてしまおうという気持ちが波のように押し寄せる。合意を取れなければ、それは能力の禁止に触れる。だが避難民の慌ただしい叫びを聞くと、もう躊躇していられなかった。

「待って!」と叫んだのは、ユウナの声だった。彼女は大声で、仲間の顔を見ずに前へ進んだ。イサムが腕を伸ばすが、掴まえられない。ユウナの手のひらから紅砂がふっと舞い上がり、最初は小さな旋律のように弧を描いて空気を切った。

空気が引き裂かれた。赤い粒子が風のように集まり、網目を織りはじめる。音が瞬間的に四方へ走った。四つの視点が同時に切り替わる——ユウナの手元、倉の上空、側近の目の前、逃げ惑う子どもの視線。それぞれの場面が一瞬にしてシンクロし、同じ動きで紅砂が伸びる。網は音もなく空中に展開し、夜明けの光を受けて鮮烈に赤く波打った。

周囲は静止したかのように見えた。だが、その静止は安堵ではなく、圧迫だ。紅砂の網は倉を覆い、兵士たちの手を絡め、持ち上げられた袋をそのまま跳ね返す。避難民の一部は背中を網に押しつけられ、息を詰まらせる。子どもの小さな手が網目に捕らえられて、甘い悲鳴があがった。

ユウナは全身に重力がかかるような感触を覚えた。網が現実を変えた瞬間、何かが欠落した。耳鳴りが走り、遠くの音が薄れていく。彼女は一瞬、世界との繋がりが細くなるのを感じた。代償だと理解するが止められない。網は確かに兵士たちの動きを止めた。だが同時に、避難民の自由も縫い留めた。

側近の目が狂喜に満ちた。彼はその表情を隠さずに笑い、くるりと体をひねって兵を指揮した。紅砂は単に守るものを分けるわけではなかった。合意のないまま出したとき、作用は場を「均衡」させる。友も敵も一様に縛る。ユウナはそれを直感し、そして愕然とした——これが禁忌の意味するところだと。

「何を……!」ミキの声が割れた。イサムはユウナの肩を掴もうとしたが、彼女の周りにも小さな網目が立ち込め、手が触れない。逃げるはずの兵士の一人が苦しげに唸り、顔を真っ赤にして網をこじ開けようとする。レンの泣き声が遠ざかって聞こえる。ユウナは声を上げたいが、耳鳴りがそれを遮る。

紅砂の網は、厳密に言えば「作戦」を現実化していた。だがその作戦の輪郭は不完全で、彼女の意図以上に広がった。思い描いた「守る」形状が、同時に「固定する」刑のようになったのだ。しかも、合意がなかったため、効果は選別されず、そこにある人の体温や恐怖に反応していく。

ある瞬間、側近の手首に小さな石が光った。赤く輝く、小さな欠片だ。