光を偽る占い師は夜明けを疑う

光を偽る占い師は夜明けを疑う 第18話「第16章」

街路の灯がひとつ、またひとつと消えていった。最初は風鈴のような小さな断末魔──蛍光の膜が裂けるような静かな音。次に残照が引き剥がされるように、街灯のかさから白い息が引かれ、黒に溶けた。石畳に落ちていた影が裂けて、足元から暗がりが這い上がる。夜風はいつもより冷たく、空気の中に油と煤と鉄の匂いが混じった。

街路の灯がひとつ、またひとつと消えていった。最初は風鈴のような小さな断末魔──蛍光の膜が裂けるような静かな音。次に残照が引き剥がされるように、街灯のかさから白い息が引かれ、黒に溶けた。石畳に落ちていた影が裂けて、足元から暗がりが這い上がる。夜風はいつもより冷たく、空気の中に油と煤と鉄の匂いが混じった。

レイナは窓辺に立ち、指先でその暗の輪郭をなぞった。外套の端が手首に擦れてざらっとした。仲間たちの声が房の中で小さく鳴る。ハヤトが皿を指先で叩き、葵は毛布をぎゅっと抱きしめ、ミカの席だけが空いていた。

「逮捕されたって、本当か」ハヤトの声は震えていない。冷たさを抑え、周囲を見張る者の声だった。

「本当よ。門の角で捕まった」葵が小さく頷いた。瞳の中に、まだ燃えるものと焦げた灰が同時にある。腕に縛り付けた布の跡がうっすら残っていた。彼女は二日前、力を一度だけ強く使った。強制救済――成功の代償に、あの夜街の灯がぎくりと暗くなったのを、彼らは皆覚えている。

外から遠巻きの足音、軍靴の打つ音が路地を降りてきた。暁誓院の巡査たちだ。規則付けられた呼吸、同じ時間に揃う息遣い。捕らえた者を見せしめにする気配が、窓ガラスにざらついた影として映り込んだ。

「行かなきゃ」ハヤトが立ち上がる。余裕を装うが、その肩には夜の冷たさが乗っている。

レイナは手を差し止めた。掌に触れたのは冷たい空気と、自分の心臓の淡い鼓動。彼女の術は、「証言を束ねる」ことで真実を編み出す。だが、束ねるたび、彼女の内側の記憶が薄れていく。名前の一つ、朝の匂い、誰かの笑い声──それらが糸のように解け落ちる。さらに厄介なのは、「真実を武器にして救済を強制した」時、呪いは暴力的に跳ね上がり、外の光を喰らってしまうことだ。葵がその例だ。彼女は救ったが、周辺の灯りを奪った。奪われた街は怒りを募らせ、暁誓院はその度に法を鋭くした。

「ミカをここで取り戻すために――また奴らの餌食にする気?」レイナは静かに言った。窓外で、遠くの教堂の鐘のような音が、一度だけ鳴った。鐘の余韻に重なって、わずかに低い、引き裂かれる声が流れた。誰かの嗚咽か、あるいは光を奪われた金属の呻きか。

「でも放っておけない」ハヤトが押し黙る。ミカは、彼らの中でもっとも街に馴染んでいた。通りの小さな店主や遊女、夜働く人々の信頼を集めていた。逮捕は、単なる一人の損失ではない。連鎖だ。

彼らは決めなければならなかった。直ちに解放に走るか、より多くの証言を集めて暁誓院の制度を暴くか。前者は速攻だが呪いを刺激し、後者は時間を稼ぐ代わりにミカの体が削られていくことを意味する。

「私——私が聞く」葵が呟いた。彼女は自分の掌をじっと見つめている。爪の間に黒い粉が溜まっているのを指でこすり落とした。あの日、彼女は救済を強制した。成功の代償で彼女は一つの景色を忘れた。彼女はその忘れた景色を、時折ぽっかりと無言で探している。

レイナはゆっくりと息を吸った。力を使えば数秒でミカの口から本当の言葉を引き出せる。拘束の場で何を喋ったか、拷問の最中に誰が来たか、暁誓院の法服の中にどんな徽章があるか――束ねれば、証言は刃のようにこなれる。だが彼女はわかっている。完全に束ねれば、彼女の最も大切な断片が消える。もし強制的に救えば、夜に残る光がもっと強く吸われ、街の他の人々がまた代償を払わされるだろう。

「部分的に、だけ」彼女は言った。言葉に重みを込める。葵の顔に、薄い安堵が流れた。それは勝ち負けの問題ではない。信念の線引きだった。

ハヤトが眉を吊り上げる。「部分的って?」

レイナは席に戻り、古びた布を開いた。そこには幾つかの名札、折りたたまれた紙片、小さな写真――ミカの形見のように見えるものが並んでいる。触れると、紙の縁が指先に冷たく刺さる。彼女は仲間一人ずつの目を見て、頼むように言った。「私に、ミカの言葉を聞かせて。あなたたちの口から、彼の夜の様子を順々に、何度も話して。私はそれを束ねる。だが一度に全部は編まない。細い糸を少しずつ組むの。そうすれば——」

「その代わり、何を失うの?」葵が黙って尋ねる。問いは直球だ。

「忘れる。小さなものから。朝に食べたものの味、誰かの笑い方、指先の刺青の位置。だが大事なものは残す。私が残すって決める。それに、強制しない。救済の強要はしない」レイナの声は冷たい水のようだった。自分で線引きをする行為が、かえって冷酷に感じられた。

仲間たちはそれを受け入れた。外では巡査の足音が近付く。時間は薄い氷のように割れていく。

二時間かけて、彼らは輪になって話し始めた。最初は小さな記憶――捕縛されたときの冷たい鉄の手錠、監視の兵士の制服の色、拷問室の匂い。次第に語りは大きくなり、ミカが最後に口にした懐かしい小路の名前、彼が囁いた誰かの名が繋がっていく。レイナは目を閉じ、耳を澄ませた。彼らの声を指で編む。糸は見えないが、胸の奥でひんやりとした織機が回る。

最初の束を作った瞬間、レイナは自分の手の中の何かがほどけるのを感じた。掌の中にあったはずの、人肌の温度を測る記憶がふっと薄くなり、指先が空洞を触れたように感じた。眼前にあったはずの祖母の台所の光景が、すぐには立ち上がらない。彼女は喉が渇く。言葉が出にくくなったが、目は仲間の顔を確かに見ていた。

束ねた証言は、確かな重みを持って部屋に落ちた。誰かが言った「監獄の足音に、もう一つ低い拍子が混ざっていた。灯器が運ばれる音だ」と。誰かは「唇の端を縫う細い糸の匂いがして、糸には金属の粉が混ざっていた」と言った。金属と糸。光と人の皮膚の接点が、そこにあるような気配を、彼らははっきりと掴んだ。

「灯器を運ぶ……塔へ?」ハヤトの指が床の亀裂を指す。外の暗がりに一筋の風が吼えたようにすっと引き、窓の隙間が冷たさを吐いた。

「東の塔よ。港のそばにある、古い石の塔」葵が言った。彼女の声は震えた。そこは――暁誓院が新しく設置した灯具を保管する場所だという噂が流れていた。だが噂が確証を得ることはなかった。今、その名が彼女たちの口から出た。

レイナは喉の奥に小さな空洞を感じながらも、その名を取り込んだ。東の塔。灯器。金属の粉と糸。彼女の術が拾った断片は、ただの拠点の名以上のものを示しているように思えた。光を偽る器具が、何かを吸い上げるために人の声や記憶を接着している――そんな想像が胸を掠める。

だが同時に、彼女は自分が何を失ったかを確かめるために、掌を見た。そこにあったはずの、小さな円い刻印。母が子に残すために彫ってくれた印章の記憶が、ふっと遠くへ飛んでいった。思い出そうとしても、形は薄く、触れようとすると指先が空を引っ掻くだけだった。苦笑が無意識に漏れる。代償は確かに払われている。

「ミカを助けに行くか」「東の塔を潰すか」。選択肢が二つ、冷たい月のように並んだ。どちらも血の香りを含んでいる。だが彼らはもうひとつの可能性を得た──人々の証言を断続的に束ね、街のあちこちに語らせることで、暁誓院の制度自体を曝け出すことだ。即時の救出を放棄する代わりに、複数の地域で小さな火花が散り始めている。逮捕された者の叫びが、監獄の外で回り、見張りの目