夢を税にする司祭は愛した人を裁く

夢を税にする司祭は愛した人を裁く 第5話「第4章」

窓ガラスに、別の空が映っていた。灰色の雲を裁つように、無数の小さな光が降り注ぐ──それは夢だった。あるいは、夢の残滓を貨幣に換えたときに生まれる、淡い発光体の群れ。立ち尽くす彼らの背後で、石造りの執務室の空気は香炉の煙に薄く染まっている。鉄の匂いと蝋の甘さ、そして昼の湿気。アーレンは掌の中に、結帯の糸を巻いた。冷たく、ざらついた感触が指先に伝わる。

窓ガラスに、別の空が映っていた。灰色の雲を裁つように、無数の小さな光が降り注ぐ──それは夢だった。あるいは、夢の残滓を貨幣に換えたときに生まれる、淡い発光体の群れ。立ち尽くす彼らの背後で、石造りの執務室の空気は香炉の煙に薄く染まっている。鉄の匂いと蝋の甘さ、そして昼の湿気。アーレンは掌の中に、結帯の糸を巻いた。冷たく、ざらついた感触が指先に伝わる。

「最後に問いただす。あなたはなぜ、その人々の夢を税として徴収するのですか、クラリス・ノア隊長?」

隊長は机にもたれ、革の手袋を外さずに答えた。声は切り出したときの刃のように、静かで確信に満ちている。

「秩序のためよ、司祭殿。混乱は夢から始まる。夢には人を動かす力がある。国家がそれを管理すれば、安全を与えられる。選択を奪う? それがあなたの言う悪なら、あなたは好きに呼びなさい。だが、私の前には守るべき家族がいる。税に従うことで、その家族は夜に眠れるのだ」

窓の映像がゆらりと動いた。クラリスの言葉に合わせるように、夢の断片が二人の間を行き来する。屋根裏で眠る幼子のぬくもり、畑に立つ老女の安堵、爵位を求める商人の貪欲。そこに混じって、血に濡れた手を空に掲げる者の影もあった。夢は無差別に真実と慰めを見せる。

アーレンは呼吸を整えると、結帯の一端をクラリスの指先へと差し向けた。儀式の言葉は一言も発さない。彼女の皮膚から伝わる体温を糸は吸い取り、細い音をたてて震えた。結帯はいつもそうだ。相手の夢と、それに付随する証言を束ねる。束ねられた夢は、誰かが見た「真実」として、他者の前に提示できる。だが結帯は不完全だ。相手の記憶を引き出すほど、使い手の中の記憶は削られる。引き出した真実が、人を救おうとするほど呪いの濃度は上がる――それが彼の掟であり、呪いの定理だった。

糸がねじれ、窓に映る夢の一つがすっと浮き出した。それは、クラリスが若き日の夜に見た夢。砦の灯りの下、制服に身を包んだ村人たちが拍手する。彼女の頬に滲む涙は誇りの涙に見えた。アーレンの胸に、知らぬ熱が差し込む。彼女だって守るために夢を差し出したのだ。彼女だって犠牲を受け入れた。

「この町の夢を、一枚でも失くせば、夜の暴走は始まる。町長の妻が一晩泣き明かすと、翌朝には刃が上がる。私たちは刃を下ろさせるために、秩序を組み立てる。税はその定規よ」

アーレンはさらに糸を押し込んだ。クラリスの夢は層を成していた。最初は保護の光景、次に訓練の怒声、そして最後に一つの像──大勢が祭壇の前で、夢を差し出す行列。祭壇に据えられた箱から、小さな黒い石が幾つも取り出され、役人の手に移される。黒石は夢を濃縮した印であり、納められた者はその夜、深い安堵を得る。だが黒石は同時に、誰かの忘却や痛みの保管庫でもあった。

糸がきしみ、アーレンの耳元で自分の名前の音が薄れていく。彼は指先を噛んだ。結帯の代償はいつも突然で、必ず残酷に現れる。引き出した真実が人の救いに繋がるほど、彼自身の記憶のいくらかが蒸散する。数年前のある夜、恋人と分かち合った笑い声の輪郭が消えかけていくのがわかった。名前の最後の音節が口の中で滑り、定まらない。

「まだ、なにか言う?」クラリスが皺を寄せる。だが彼女の眼に、激しい葛藤の光が閃いた。彼女は守るべき者の顔を思い浮かべる。その顔は確かに彼女にとって救いであり、彼女はそのために人々の夢を量り、割く。

アーレンはゆっくりと目を閉じ、糸をもう一本結んだ。これは「要求」の結帯。相手に問うだけでなく、相手の中で誰が真実を語るかを定める。糸を締めれば、夢は抵抗なく言葉になる。だが締めるほど、呪いは渦を巻く。クラリスの肩に、薄い藍色の瘢痕が縦に浮かび上がった。これは徴収に伴う印。国が押した烙印だ。烙印の声を聞くと、夢は徴収者の意志に応える。アーレンはそれを認めたくなかった。

「あなたたちは、選択を奪うことで夜を売る。だが誰がその選択を作るの? 下卑た権力か、冷えた理性か。あるいは、ただの恐怖か?」アーレンの声は砂を噛むようだった。彼はクラリスの夢の中で見た安堵の光を、牢獄のように感じていた。人々は眠れる代わりに、知らぬうちに自分の未来を縫い合わせられていた。

クラリスは小さく笑った。笑いには疲労が混じっている。「あなたは理想主義の司祭だ、アーレン。人を裁きたいのだろう? 裁きは秩序を壊すこともある。私だって選べばいいと思うわ。夜に子どもが安心して眠る社会を、私は望む。夢の税はそのための契約よ。手段はどうであれ、結果が人々を生かすなら、私はそれを選ぶ」

結帯が絞り、クラリスの夢は言葉として結晶した。彼女は静かに、過去の一つの決断を語った。若き士官としての初任、暴徒鎮圧の夜、部下が怖気づき彼女は夢を徴収した。徴収した夜、町は静まり返り、火は上がらなかった。彼女にとってはそれが正義であり、それゆえの誇りだった。

だがアーレンが最後の糸を抜いた瞬間、局所的な波が室内を震わせた。結帯が他者の夢を強制して言葉にすると、押さえつけられていた呪詛が反跳する。それは小さなものだった。窓外の通りから、遠くで一人の子どもの悲鳴が上がった。煙の匂いが一瞬強くなり、掲示板の灯りがちらつく。クラリスの掌の黒い印がわずかに脈打ち、そこから薄い影が漏れた。徴収が強まるたび、呪いは増幅していくのだ――結帯はそれを引き起こす触媒になり得る。

「危険だ。あなたのやり方は、呪いを増やす」とアーレンは言った。言葉の端が掠れる。声の中から、彼は確かな何かを取り落としている自覚があった。苦い乾いた味が舌に残る。彼は確かに、愛した人の笑い声の輪郭を一つ失っていた。

クラリスは黙り込み、しばらく窓の外を見ていた。彼女の肩越しに、通りの人影が夢の発光に反射して踊る。やがて彼女は立ち上がり、机の上に小さな皮袋を投げた。袋の中から出たのは、黒光りする四角い石片——徴収された夢を数える単位だった。

「税は帳簿に乗らねば意味がない。秩序のためには実証が必要よ。あなたの力で得た話も、帳簿に入れば人々の夜を守る。そうするために、私はあなたの力を利用しても構わない。だが、使い方を誤れば街はもっとひどい場所になる」彼女は辛抱強く言った。「あなたはなにを望む? 理想の裁きか、私たちの小さな平穏か」

その言葉が頭蓋の中で反芻されるうちに、部屋の奥の扉が開いた。仲間の一人、ミーナが入ってきた。薄茶の髪を束ね、肩に背負った書箱が彼女の決意を示す。彼女はアーレンの顔を見て、何か言いたげに唇を噛んだ。

「隊長、これ以上の徴収は街を不安定にします」とミーナは言った。彼女の声は震えていたが、目は堅かった。「でも、帳簿があるなら、それを正しく扱う術があるかもしれない。そもそも、夢を税として運用するシステム自体が外に開かれていない。誰がその帳簿を監査しているの? 誰のための秩序だっていうの?」

クラリスはうなずいた。「監査は上層の宗務委員会だ。呪印管理課。外部の者の介入は許されていない。今は安定を優先する。あなたもそうするだろう?」

ミーナは沈黙した。彼女の瞳に、机上の黒石と、窓に映る幼子の顔とが交互に映る。彼女は皮袋に手を伸ばした。だが、手は石には触れず、代わりに結