夢を税にする司祭は愛した人を裁く

夢を税にする司祭は愛した人を裁く 第14話「第一部幕間」

教会の地下室は湿った石壁の匂いと古い蝋の匂いが混じり合っていた。低い天井の梁にぶら下がった、使い古された鉄の籠がかすかに揺れている。外では夜の巡回が鋭い腕時計の針のように通りを刻んでいるが、ここでは時間が手のひらでほどけるように遅くなっていた。

教会の地下室は湿った石壁の匂いと古い蝋の匂いが混じり合っていた。低い天井の梁にぶら下がった、使い古された鉄の籠がかすかに揺れている。外では夜の巡回が鋭い腕時計の針のように通りを刻んでいるが、ここでは時間が手のひらでほどけるように遅くなっていた。

セドリックは、祭服の薄布をつまんだまま机に肘をつけていた。机の上には、昨日の夜にジンが売り歩いて集めたという夢の断片が小さな紙袋に分けられて並んでいる。紙袋の口は糸で縫われ、裂かれた切り跡から微かに光の粉が零れている。それは夜市で売られていた夢の残滓——徴収機構が吐き出した剥落物だ。ハルコが手で一つの紙袋を撫でると、細い金属のかすれたような音がした。

「枚数は五つね。工場区の家庭四軒と、通りの男一人分。全部、徴収記録には“労働時間短縮関連”って書いてあったわ」ハルコの声は事務的だが、目には光がある。かつて税務補佐として帳を開いていたときの癖が抜けていない。

「この中に──」セドリックは息を止めた。掌に小さな円を描くようにして、薄い布地を指でなぞる。布越しにも感じられるのは冷たく、かすかな鼓動のような振動だ。結帯の前触れ。黒い糸が、彼の胸のあたりを冷たく蠶食する。

「無断で拾ってもいいのか?」オルフが低く訊く。元軍師の目は常に周囲を計算していたが、今はそれが不安に変わっている。「結帯で他人の夢を綴るなら、教会も危ない。徴収局が絡むなら、彼らはすぐに痕跡を辿るだろう」

ジンは小さく笑った。掌の上で指先をころがすように、紙袋の端を弄る。「危ないほど面白い。夢が税になる街で、夢のゴミから真実を紡ぐ男がいるって、いい話だろ?」

セドリックは誰にも答えず、紙袋の一つを取った。彼の手のひらが袋の紙に触れたとたん、冷たい風が掌の中に湧いた。視界の端で、黒い糸が指の間から静かに立ち上がる。糸は光を帯びて、手のひらを這い、まるで蜘蛛が繭を紡ぐように、露になった夢のかけらを拾い上げて繋ぎ始めた。

結帯。彼の能力の名前を声に出すと、昔、マルテが笑った顔がふっと浮かんだ。だがその顔は、そこにあるはずの輪郭が少し欠けていた。彼はそれを確かめる暇もなく、糸を指先で操った。光の糸が夢の粉を絡め、薄い紙の切れ端を編み上げる。夢は断片から再構成され、瞬間に一つの短い映像として浮かんだ。

映像は、赤いランプが揺れる工場の夜。機械の低鳴り。男の手が、製造ラインで動かなくなった子供の玩具に触れる。誰かが叫び、誰かが泣き、誰かが鍵を外して逃げる。最後に、工場長らしき人物が帳簿を閉じる。帳簿の端に、王の夜帳局の印が押されていた。映像は一貫した証言のように語る——「彼らは念を薄めることで安定を買った。見て見ぬふりをする代わりに、生きる場をくれた」。

セドリックは、編み上げられた光の束を両手で包み込んだ。夢はぬくもりを持つ器のように震え、彼の胸に直接語りかけてくる。「救済があるという幻想が、安堵を生む。安堵は選択の停止を招く」。それは真実でもあり、言い訳でもあった。

「これが証言になる。――だが」彼は声を絞る。結帯は当事者の合意を必要としない。触れれば夢は語る。しかし代償が来る。彼はその代償を、既に一度払っていた。マルテの名前が、夜の儀で静かに薄れていった記憶。その痛みはまだ鮮やかで、掌の血が冷たくなるほどの切迫を伴った。

「一つ綴るごとに何かを失う」オルフが囁いた。「君はそれを知ってる。どれだけ払った?」

「数えられない」セドリックはゆっくりと首を振った。「でも、まだ残っている。消える前に、もっと繋がなければならない。彼らの証言を集めて法廷で示すんだ。仕組みを──王と教会と軍の強権がどう夢を課税し、どう人の選択を剥ぎ取ってきたのかを」

ハルコが息を詰める。「でも、本当に裁くつもりなの?被告にするってことは、向こうの記録も、向こうの思惑も暴くことになる。あなたの“裁き”が誰を救い、誰を傷つけるか、わからないわよ」

セドリックは皮膚の下で動く糸の残響を感じながら、もう一つの紙袋を拾った。そこには通りの男の夢が入っているらしい。彼はジンの方を見た。「彼が助けを求めてた。彼の夢には、仕組みの序列が入っていた。上層からの指示、押し付けられた選択。必要だ」

ジンは一拍置いて、揶揄するように笑った。「それで、君はどれだけ忘れる気なんだい、聖なる人よ?最後の一片が消えたら、何を裁くつもりだ?」

セドリックの手が震えた。記憶の消失は物理的な痛みではない。むしろそれは、温度を奪われた金属のように冷たく、そこにあった確信が指の間から滑り落ちていく感覚だ。目の奥にあるはずのマルテの声が、まるで遠い楽器の音のように、輪郭がぼやけていく。彼は必死にその音を拾おうとするが、糸の光に集中しなければ夢の織はほどける。

セドリックは決めた。彼は既に多くを失っているが、まだ一つだけ守りたいものがあった。守る対象──それは、裁かれるべき相手が何を選んだのか、そして被害者がどう感じたのかを、当事者の証言として記録することだ。記録があれば、制度を変えるために人々が選択する材料を得られる。選択の余地を作ることが目的だ。

だが、その夜、結帯を広げた瞬間に廊下の扉がわずかに開き、冷たい風が吹き込んだ。風に乗って入ってきたのは、遠くから聞こえる声──機械の歯車のように規則正しい足音、軍服の金属が擦れる音。徴収局ではなく、宗軍の巡査隊だ。誰かが密告したのか、それともただ運命の歯車が回り始めたのか、理由は関係なかった。時間は塞がれていた。

「来るぞ」オルフが呟いた。「外で何かが動いている。噂が広がったかもしれない」

ハルコがセドリックの目をじっと見た。「ここで——あなたがもう一つ綴れば、私たちにどんな未来が残るか、分かってる?」

セドリックは糸の束を胸に押し当てた。光の束が暖かく、でも重い。夢は真実を語った。だがそれを武器にするほど彼の手の中の何かが薄くなっていく。彼の指先からは、もう一筋の黒い糸が伸びようとしていた。次に取るべきは、通りの男の夢か、あるいは工場区で忘れられた家族の夢か。どちらも制度の断面を示す証言になるだろう。

そのとき、ジンが唐突に立ち上がり、静かな怒りを帯びた声で言った。「もう一つ繋ぐな。救済を無理にやるなと言ったのは、ただの理屈じゃない。俺は三度、救いを買おうとした人を見た。救いは強制すれば苦痛を増すだけだ。呪いの反発が強まり、取り返しのつかないことになるんだ」

「それは、経験談か?」オルフが冷たく問う。

ジンはうなずいた。「俺の妹だ。夢税で安息を買った。俺は腹を立てて、夢を取り戻してやろうとした。結帯じゃない、ただの騒ぎで奪おうとしただけだ。夜が裂けた。妹は叫び続け、目は虚ろになり、朝には何も覚えていなかった。安堵は壊れて、呪いが増えた。徴収局は微笑んで、税を取った」

空気が凍る。セドリックはその熱を胸に感じた。強制的な救済が呪いを増幅するという禁止事項は、単なる理論ではなく、肉を切るような実例としてここにある。彼は自分がこれまでにしてきたことの輪郭を確かめた。救済を押し付ければ、目の前の痛みは拡大する。だが黙認すれば、選択を奪う構造は続く。

「じゃあ、どうする?」ハルコ