夢を税にする司祭は愛した人を裁く

夢を税にする司祭は愛した人を裁く 第1話「序章」

地下室は金属と湿気の匂いで満ちていた。壁の石継ぎ目に沿って走る配管が、規則正しく低く呻く。薄暗い蛍光灯の輪郭が、床に置かれた機械──徴夢器(ちょうむき)の端正な鋼板を切り取るように光を落とす。機械の中心には、紙片のように薄いガラス盤が五枚、円環状に並んでいた。そこに、五人分の夢が封じられている。

地下室は金属と湿気の匂いで満ちていた。壁の石継ぎ目に沿って走る配管が、規則正しく低く呻く。薄暗い蛍光灯の輪郭が、床に置かれた機械──徴夢器(ちょうむき)の端正な鋼板を切り取るように光を落とす。機械の中心には、紙片のように薄いガラス盤が五枚、円環状に並んでいた。そこに、五人分の夢が封じられている。

「臨時徴収、五件。異例だが、造反でも?」上で声がした。階段の方で金具がカチャリと鳴る。薄衣の司祭は、音を無視して手を盤に置いた。指先に伝わる冷たさは石の冷たさではなく、夢そのものの余韻のようだった。

司祭の名はレイム。聖使と世に呼ばれる者であり、正式には教団に仕える者の一人だが、今日の彼は名札も紋章も外していた。薄手の亜麻布だけが皮膚にまとわりつき、胸のあたりが風にさらされたように寒い。胸元に結びつけた小さな銀環だけが、唯一の印章だった。

「五人分を一つに束ねるか」低い声で呟く。彼の左手の甲には、灰色の瘢痕が走っている。その瘢痕は、過去に夢と肉体を繋いだ代償の痕だ。盤の一枚に、最初の夢が浮かび上がる。柔らかな光の塊がゆっくりと震え、紙の切れ端のように破片化して舞い散った。

「マリナ、セラ、カーヤ、ユン、ネーレ」レイムは五つの名を口にした。名が空気に消えるたび、ガラス盤の光はひとつずつ震えて、集まってくる。夢は声ではない。記憶の残り香であり、最後に見た映像が凝縮されたものだ。彼の能力はそれを紡ぎ、当事者の証言として束ねることができる。だが完全ではない。使うたびに、何かを差し出さねばならない。

盤の光が合わさると、薄い紙のような破片が舞い上がり、空気の中で折り重なる。そこに顔が現れる。少女たちの顔は一度に、しかし重なり合って、矛盾した表情を浮かべる。ある断片は手を伸ばして救いを乞い、別の断片は同じ手を払いのける。笑顔と泣き顔が紙の断片となって重なり、ひとつの映像を形作ろうとする。

「救いたいのか、救われたくないのか」レイムの声はほとんど息だった。

彼は紡ぎの唱えを始める。言葉は古い言葉であり、音が空気に走ると、紙片は渦を描いて集まる。指先の感覚が鈍くなり、胸の奥から冷たい引き剥がしの痛みが来る。頭の中で、ある一つの名が震えた。

「ユリナ」

口に出すと、その名は煙のように薄くなっていく感触があった。思い出すとすれば、栗色の髪、口元に残るそばかす、笑い声の曲がり角。だが今、笑い声の輪郭がぼやけ、そばかすの数が減っていく。彼は自分の指先が何かを奪っていると知っているが、止められない。証言が重なれば重なるほど、真実は刃になり、刃の代償として記憶は削られるのだ。

「レイム、そんなに無茶は……」隣に立つ女が震える声で言った。名はイヴェット。彼の唯一の補佐であり、徴夢庁の矛盾を最も憂う者でもある。肩にかけた外套が埃を振るった。彼女の手は小さな箱をしっかり握っている。箱には受取証と、彼女が独自に収めてきた夢片がある。

「やらねばならない」レイムは答えた。胸の内に灯った怒りは、ユリナの姿を裁くためのものだ。愛した人を裁く。それが彼の目的であり、罪と救済の境界を白日の下に晒すことこそ、彼が誓った道だった。だがその行為は、彼自身の心の一部を削ることでもある。

儀式は進む。五つの夢が一つの語りに編まれていくと、映像は異様な説得力を帯びた。少女たちの視線が同一の方向を向く。そこに映っているのは、夢を徴収し、夢を税として管理する装置群と、それを操作する人間の影だった。制服には「簒夢府(さんむふ)」と、軍色の帯。影の輪郭が、宗軍の兜と徴収官の長い手袋を示す。彼らは笑っている。レイムはその顔を知らなかったはずなのに、夢の合流が示す真実は確信めいたものだった。

だが、合わさった瞬間、歪みが走る。救いを求める視線と拒絶する意志が一致したとき、映像に裂け目が生じた。紙片が逆に散らばり、夢の光が鋭い断片となってレイムの胸を切る。彼は喉を詰まらせ、膝をつく。

「止めろ、止めろ!」イヴェットが叫ぶ。だが彼女の声は金属壁に吸い込まれ、援軍を呼ぶにはまだ遠い。盤の中央で、最も明るい破片が――ひときわ大きな紙片が、跳ね返されるように空中で崩れ落ちた。その瞬間、機械の奥から低い薄笑いが聞こえた。録音のように整った笑い声が、地下室の隅々に広がる。

「愚かだな、司祭。自分の手で証拠を作るとは」その声は男性的で、訓練された調子だった。壁の一つが光を受けて開き、鋭い制服の袖口が見える。簒夢府の徴収員と、宗軍の兵士が数人、階段を下りてくる薄明の中に浮かんだ。彼らの目は計画済みの冷たさで光り、掌には取り締まりのための器具が握られている。

映像の奥、夢の彼方で、彼らは冷たく笑っていた。笑いは現実の囚人をからかうように続く。レイムは自分が作ろうとしたものが、向こう側の仕組みの手の内に収められていることを悟る。彼が証言を合成する間に、拘束は既に計画され、夢は徴収され、そして笑いのネタとなる。

「彼らはこれを利用する」イヴェットが息を殺して言った。「この映像を持てば、君は裁けると思った。しかし、奴らにとっては逆だ。証拠は、奴らの道具にもなる。君のやり方だと――」

「判っている」レイムは低く返した。指の先に、また新たな痛みが走る。胸の奥から、ユリナの名がさらに遠くなるのがわかった。今ではその名を思い出すとき、紙を焦がしたような匂いが混じる。彼女の顔を描こうとすると、いつも最後に残るのは、ほんの一片の光のみだ。

階下から足音が近づく。扉の鍵が外れ、鉄の匂いが一段と強くなる。イヴェットは箱を抱き締めたまま、レイムの目を見つめる。彼女の目は震えているが、決意がそこにあった。箱の中には、彼女が密かに集めた他者の夢片がある。公に出せば、簒夢府の回収網に引っかかる。しかし、使わなければ真実は埋もれ、レイムは一人で記憶を削り続けるだけだ。

「……選ぶ?」イヴェットの声は細かった。指先が箱の蓋に触れ、金属の小さな押しボタンにかかる。そこにはひそやかな機能があった。地下の夢網──都市を巡る夢の流通路に、直接断片を流し込む小型放送器だ。流せば、夢は市民に届く。簒夢府の意図する徴収という形を破り、他人の視界に真実を押し込むことができる。しかし同時に、それは「救済」を強制する術にもなる。強制された救済は呪いを増幅する。レイムはそのことを、身を以て知っている。

「君は分かっているな」彼は囁いた。ユリナの名はもう、口をついて出てこなかった。唇の裏には空洞だけが残る。

イヴェットは一度深く息を吸った。指がボタンにかかる。彼女は箱の蓋を跳ね上げ、内部にある小さな光の玉を覗き込む。光は五つの夢片と混ざり合い、儚く煌めいていた。扉の向こうで、徴収員が階段の一段を上がる音を立てた。

「君が決めて」彼女は言った。声の震えに、やけに冷たい静けさが混じる。「流すか、流さないか。真実をくれてやるか、記憶を守るか。――君が愛した人の顔を、どこまで残すつもりだ?」

レイムは言葉を探した。ユリナの笑い、指の温度、彼女がいつも残した茶碗の欠け端。記憶が雪解けのように崩れていく中で、彼はただ一点だけを確かめた。彼女を裁くためなら、どれだけ払えるか。だが同時に、いくつの呪いを増やす