声を奪う魔導士は明日を選び直す

声を奪う魔導士は明日を選び直す 第17話「第15章」

広場の石畳は、夜露とろうそくの脂で光を帯びていた。人々の息が白く立ち上り、群衆はひそやかな期待と恐れで固まっている。中央に据えられた小さな台の上で、ノア・イリスは肩から黒い外套を払った。風が吹き、外套の端が彼の膝に触れたとき、冷たくて不確かな感触が背筋を走る。彼の手は震えていたが、震えは怒りでも哀しみでもなく、何かがすでに抜け落ちていく予兆のようだった。

広場の石畳は、夜露とろうそくの脂で光を帯びていた。人々の息が白く立ち上り、群衆はひそやかな期待と恐れで固まっている。中央に据えられた小さな台の上で、ノア・イリスは肩から黒い外套を払った。風が吹き、外套の端が彼の膝に触れたとき、冷たくて不確かな感触が背筋を走る。彼の手は震えていたが、震えは怒りでも哀しみでもなく、何かがすでに抜け落ちていく予兆のようだった。

「始めるぞ」ミラ・アルトが低く言った。彼女はノアの右手を取り、指先を彼の手の甲に重ねる。指圧は温かく、確かな重み。ミラの瞳は街の灯に照らされて、まるで石畳の上の光を飲み込むかのように濃かった。

台の周りでは、声を奪われた者たちが静かに並んでいた。口元に布を巻いた者、手のひらを口に当てている者、声は出さないが瞳は語る。少し離れたところで、聖王府の監督官ヴァレスが軍服の襟を直していた。彼の目には計算と不安が並存している。司祭服の裾が揺れ、マルティンという名の高僧が薄く笑った。彼らは抑圧の構造を体現している——力と儀式と書類と、たくさんの沈黙。

ノアは息を吸い込んだ。胸腔を満たす空気は冷たく、鉄の匂いが混じっている。彼は周囲の声を、自分の内部に引き寄せるように聴いた。囁き、うめき、骨のように細い訴え。それらは個別の糸だった。ノアの能力はその糸を──ひとつの塔に編み上げる。編み上げた塔の先端は、真実を示す光になる。

「行くよ」彼は言葉を口にした。声は出たが、すぐに吸い取られるように消えた。観衆は息を飲む。ミラがノアの肩を引き、彼の唇の震えを抑えた。ノアは目を閉じ、掌を台に置く。掌の下で石が冷たく震え、細かな振動が指先から骨へ伝わる。

まずは一人目の証言が、ノアの周りにまとわりついた。老婆の重い瞳、手の震え、夜中に火を求めて歩いたという記憶。ノアはそれらを一つの光の房へと束ねる。光は彼の掌から迸り、空へと登った。瞬間、空気が割れるような高音が広場を走った。広場の上に一本の光の柱が昇る。それは裸の電光ではなく、過去の映像を断片的に織り込んでいた。老婆の子供の足音、食卓の空席、封筒に入れられた紙幣の記憶。柱はその断面を示し、群衆の前で一つの輪郭を描く。

石壁に貼られた役所の告示が振動し、塵が舞った。そこに書かれていたはずの「救済配給」の日付が、光の柱の中で別の数字に書き換わるように見えた。人々のざわめきが大きくなる。ノアはさらに深化させた。次々と証言を重ね、束ねる。二本目の柱、三本目の柱。柱同士が干渉し合って、長年封じられていた帳簿の断面――どのように配給が横領され、どのために与えられたはずの食糧が別荘の倉に移されたか――その輪郭が明滅した。

だが、光を強めるたびに、ノアの視界に薄い陰が差した。最初は小さな摩耗のようだった。一枚の古い写真の色が剥げるように、彼の中にある匂いの記憶がかすんでいく。母が編んだセーターのぬくもり、最初に自分の名を呼んでくれた人の声。ノアは指先でこめかみを押さえた。頭の中で小石が崩れる音がして、記憶の欠片が落ちる感触がした。

「大丈夫か、ノア?」ミラの声は耳に届かないほど低い。だが彼女の手は確かに温かかった。ノアはうなずこうとして、咳き込んだ。喉の奥が空っぽで、言葉が手元に残らない。彼は自分が守ろうとしている名前を思い出そうとした。守るべき者たち——彼らの顔はある。だが名前は、名札の文字のようにぼやけて紙の端から剥がれ落ちる。

広場の端で、子供が叫ぶ。叫びは言葉にならないが、群衆を突き動かす力を持っていた。ある檻に押し込められていた若者たちが、光の柱に映し出された帳簿を見て、侮蔑と怒りで顔をゆがめる。監督官ヴァレスは叫び、兵を前に出した。石畳に踵が鳴る。聖王府は沈黙を守るため、儀式を始めた。マルティンが古い祈鐘を打ち、低音が地下に向かって広がる。その音は空気を圧して、真実の柱に干渉する。

「彼らを出せ!」誰かが必死に叫んだ。檻の中の若者が、窮屈な革ひもで手首を蹴られて赤く血を滲ませている。彼らを救わねばならない。ノアの心臓は跳ね上がった。選択はいつも即座に迫ってくる。ここで彼が救済を強制すれば、檻は開く。だが、彼の能力の掟が告げる事実が脳裏を締めつけた──救済を強制すると、呪いは増幅される。増幅は、声を奪う呪いの波を歪ませ、周辺の記憶をさらに削る。いままで失った分が一度に崩れるかもしれない。

ノアは手を伸ばした。掌から寒気が放たれ、檻の金属に沿ってじんわりとした冷えが広がる。鎖が緩み、鍵穴が割れて音を立てる。若者たちは転げ出し、群衆の手に迎えられた。歓声が上がる。だがその瞬間、空気がねじれ、広場の光が歪んだ。人々の笑顔が止まり、無音の波が広がる。数名がその場で膝をつき、眼前の記憶が白紙から黒へと欠けていくのを目にした。ある母は自分の子供の顔を忘れ、顔を押さえて泣き出した。別の者は、自分の家の位置を忘れ、涙だけが落ちる。

ノアは自分の胸のどこかが空洞になったのを感じた。胸の中にあった温度が、音を吸い取るように冷たくなっていく。彼は膝をつき、台に崩れ込む。ミラが体を寄せ、彼の背をさすった。彼女の指先が肩甲骨の間をなぞると、ノアの中でぽろりと、ひとつの記憶が音もなく剥がれ落ちた。目の前にいたはずの一枚の写真、幼い妹が笑っているはずの記憶だった。ノアの瞳の奥に空白ができる。そこにはもはや妹の笑いの輪郭はない。ただ、何か大事なものが抜けたという空虚だけがあった。

「ノア、止めて。これ以上自分を消さないで」ミラの声が震えた。彼女は自分の胸元から小さな緋色の布袋を取り出した。袋には古い符札のようなものが入っていて、彼女はそれをノアの額に押し当てた。符は温かく、ざらりとした感触が額に残る。ノアは目を見開き、符に触れた指先に微かな振動を感じた。

「これは……?」ノアの唇が開くが、声は出ない。ミラは小さくうなずいた。彼女は選んだのだ。街の中心で、大勢の前で、ミラはノアの忘却を自分の中に引き受けることを選んだ。符は失われる記憶を紙のように受け取る古い術式——彼女の祖母が伝えたという禁じられた伝承を、ミラは密かに学んでいた。代価は大きい。記憶を保管する者は、保存のために自らの語りを封じる。声を失うのではないが、保持された記憶は外に語ることができない。つまり、ミラはノアの欠落を埋める代わりに、自分の語りを犠牲にする。

ミラは一息つき、決意をその瞳に焼き付けた。「私が持っている。あなたが忘れたものは、私が覚えておく。だけど──私が覚えている間、あなたはそれを外に語れない。いい?」

ノアは瞬間的に罪悪と安堵が交錯する表情を浮かべた。答えは音にならなかったが、ミラは彼の顔を見て頷いた。彼女は符をじっと握りしめ、軽く唇を震わせた。符が微かに光り、彼女の胸に吸い込まれていく。ミラの表情は変わらなかったが、空気がひとつ薄く震えた。彼女の中に、今しがたノアから剥がれ落ちたはずの記憶が沈み込む感触があった。冷たく、重く、そして甘さを少し含んでいる。ミラは目を閉じ、深く息を吐いた。

そのとき、広場の端で一人の兵士が膝をつき、手のひらを空に向けた。エンヤという若い兵士だ。彼はヴァレスの隣に立っていたが、光の柱を見て目を潤ませていた。彼の