星を落とす傭兵は王国の嘘を暴く

星を落とす傭兵は王国の嘘を暴く 第2話「第1章」

夜風が裂けるように通り過ぎ、珈琲色の空に無数の星が点を打っていた。サイルは丘の縁に立ち、背中に斜めにかけたマントの端を指で押さえた。遠く、村の方角で一本の光が空を引いた。流星のように見えたそれは、音もなく落ちた。落ちた先から、短く、幾度かにわたる爆ぜる音が波のように帰ってきた。

夜風が裂けるように通り過ぎ、珈琲色の空に無数の星が点を打っていた。サイルは丘の縁に立ち、背中に斜めにかけたマントの端を指で押さえた。遠く、村の方角で一本の光が空を引いた。流星のように見えたそれは、音もなく落ちた。落ちた先から、短く、幾度かにわたる爆ぜる音が波のように帰ってきた。

「星が、落ちたのか……」

口の端が冷たく引きついた。村は小さく、境界も曖昧な集落だった。王国の徴税や徴兵はそこを何度か襲い、最近は「浄化」と称する儀式で夜を覆うようになっていた。サイルは傭兵を生業にしながら、その儀式がもたらす断片を集めていた。噛み締めるような仕事ではない。真実を繋ぎ、名前を取り戻すためだ——だが、その代価はいつも彼の胸を掻きむしった。

丘を下る道は煙と煤で白く濁っていた。焚き火の匂い、焼けた藁の甘さ、鉄の生温い匂いが混じる。馬を走らせると、舗道に散った灰が彼のブーツに張り付いた。家のあった跡は黒い輪郭に崩れ、石の間から子供の玩具の欠片が半分だけ顔を出している。ところどころに血の赤が乾き、風にさらわれる残り香が鼻腔を刺した。

道端で女が座り込んでいた。火の粉を気にせず膝を抱え、肩を小刻みに震わせている。顔に煤がべったりとつき、目だけが無垢な白さを保っていた。彼女の髪は切り揃えられ、痩せた首の右側に小さな痕が見える――星をかたどった焼印のような形だった。サイルは馬を止め、足元に降りた。

「動けるか?」

声は低く、抑えた。女は顔を上げ、怯えた瞳がサイルを貫いた。名乗らぬ、年端もいかぬ声だった。

「来ないで……」

言葉には、逃げるよりも見られたくないという積み重ねられた恐怖が混じっている。サイルはゆっくりと膝を曲げ、膝が地面に触れる直前で手の甲を空に向けた。自分の手が今、誰かの記憶を繋ぐ道具になることを常に意識している。能力は単純で、残酷だった。触れること、そして相手の明確な同意がなければ中の断片には触れられない。代わりに触れた瞬間、彼の内部から何かが削り取られていく。小さな記憶だ。名前、匂い、あるいは昔の夕飯の味。だが時に、それは重さを増して彼の人生の断片を奪っていった。

「名前は?」

それだけを尋ねた。女は瞼をぎゅっと閉じ、唇を噛んだ。指先に震えが走る。やがて、か細い声が漏れた。

「リオ、です。リオ・マーラ……」

サイルは名を繰り返すように首を僅かに下げた。リオ。彼女の手は泥まみれで、握りしめた掌が震えている。彼は掌を差し出した。触れていいか、の合図だった。断る権利がある。選ばなければならないのはいつも相手だ。

リオは目を伏せたまま、ためらいなく彼の手の甲に自分の掌を載せた。冷たく湿った肌が触れ合う——その瞬間、世界が細いフィルムの暗室のように変わった。指先に、白黒の断片が滲んで浮かぶ。欠けたコマ割りが、空気の中に漂っていた。戦士のブーツ、燃える柵、子供の声。色はまだ戻らない。手の中の彼女の記憶は、感触だけが先んじて伝わる。

サイルは息を吐いた。触れた者の体温、心拍、髪の光り方――そうした細部が手の感覚として流れ込んでくる。だが彼の脳裏には、ふとしたときに自分の母の指先の感覚が薄れていくのが分かった。左手の指に微かな痺れが残り、そこにあったはずの小さな傷跡の縁がぼやける。思い出が引き延ばされ、逆方向に消えていくような感覚。常に代価は現れる。使うたび、かつて守ったものの片鱗が遠ざかる。

記憶の断片はリオの片言とともに色づき、短い映像を彼の前に差し出した。広場に並んだ人々。聖歌のような低い合唱。長い杖を持つ者が空に向けて手を掲げると、夜空の一角が裂け、光が落ちた。落ちた光が地面に触れると、触れた者の顔が静まり、口が甘い導入句を口にする。捧げられた人間が祈りに縛られていく様子。リオの声が重なった。

「……星を、落とすんです。王様の人たちが。落ちると、人は黙る。『救い』って呼ぶんだって。誰も、逃げられないようにするために」

サイルは指先でさらに一つのコマを引き出した。そこには、役人が紙に何かを書きつけ、名を呼んで張り出す様があった。名前が掲示されると、その家の中に薄い灯が浮かび上がり、夜になると星の光が降りてくる。星は罪を照らすのではなく、人の選択を消し去る装置だった。

彼はそれを飲み込むように、薄く笑った。だが笑いはすぐに消え、胸の奥に重い鉛が沈む。リオの一枚一枚の記憶を引き出すたびに、彼の中の別の些細な風景が霞んでいった。子供時代のある夏の日の匂い、兄弟と分けた干し魚の味、ひび割れた宿の柱の温度。それらは繋ぎ合わせた「真実」の代償だ。いつもの代価だ。

「止める。全部は聞かない」

サイルは手を引こうとした。だがリオは指をきつく食いしばり、離さない。掌の中で彼女の生命の鼓動が脈打つ。拒否する権利を行使しなかったのではない。リオは身体の震えの合間に唇を噛み、声を絞り出した。

「お願い……村に、まだ姉が。連れて行かれた人がいる。私、戻って見つけたい。——でも一人じゃ、無理なんです」

短い沈黙があった。遠くで朽ちた鐘が一度鳴り、夜の空気に濁った波紋を描いた。サイルは掌を押し据えたまま、優しく唇を動かした。

「わかってる。その代償は払えるか?」

リオは目を閉じて、そしてゆっくりと瞳を開けた。そこには決意の色が混じっていた。強制ではない。彼女の選択は自らのものであった。

「……払ってください。私たちの名前を返してほしい。覚えていて。あなたが覚えていてくれれば、また誰かの名前を返せるでしょ?」

彼女の声は震えつつも、希望の断片を含んでいた。サイルは息を吐き、掌を固く握り直した。許容の範囲で切り取ることに決めると、彼はリオの小さな肩に自分の指を当てた。触れることは二度目の儀式ではなく、単純な約束の印だ。

だが、道の向こうから甲高い声がした。甲冑を擦る音、鋲のこすれる音。小さな隊列がこちらへ向かっている。誰かが見張りをしていたのだ。光が揺れ、数人の影が村の輪郭から抜け出してくる。彼らの先頭には、浅黒い顔をした巡察隊長のような男が立っていた。腕には王の印、胸には教団の徽章。巡察隊はゆっくりと近づき、杖を地に一打ちにした。

「その少女は保護対象だ。捜索命令が出ている。触れている者は立ち去るように」

男の声は冷たかった。サイルはリオを庇うように体を動かし、彼女の上着の襟を掴んで無理矢理引きずり出すこともできた。だが彼が一歩強引に動いた瞬間、夜空の一角でまた白い光の筋が走った。落ちた星は先ほどよりも近く、黒い木箱を爆ぜさせて小さな炎を上げた。炎は瞬間、空気の中で広がり、道にあった荷車に飛び移った。兵士たちの顔が一瞬上を向き、誰かが叫ぶ。隣にいた小さな荷馬車の布が燃え、爆ぜた音が丘に反響した。

サイルは手を引っ込め、リオをさらに近くに引き寄せた。強引な救出は、何かを増幅させる。彼はそれを知っていた。力を押し付ければ、呪いはより鋭く落ちる。強制された救済は、呪いの鎖を太らせるだけだった。だから彼は選ぶ。人々に自ら選ばせる余地を残すことを。

「君が望むなら、俺は一緒に行く。だが無理強いはしない。君の意志でなければ、その結果はもっと酷い」

リオの目に涙が溜まった。震える声で一