眠りを失う王子は神を告発する

眠りを失う王子は神を告発する 第10話「第9章」

放送塔の前庭は灯火と人声で震えていた。大祭司ガイオンの朗読は石の広場をなめるように流れ、白い布が風に翻るたびに拍手と罵声が交互に重なる。巨大な万華鏡のように映像が組み合わされ、王宮の公式映像室が撮した「目覚めの法典」の成立を示す法廷宣言が、歓声とともに街の大画面に投げ出される。公の席の列柱は金泥で光り、宣言が終わると群衆が一斉に立ち上がり、眠らないことを讃える合唱が始まった。

放送塔の前庭は灯火と人声で震えていた。大祭司ガイオンの朗読は石の広場をなめるように流れ、白い布が風に翻るたびに拍手と罵声が交互に重なる。巨大な万華鏡のように映像が組み合わされ、王宮の公式映像室が撮した「目覚めの法典」の成立を示す法廷宣言が、歓声とともに街の大画面に投げ出される。公の席の列柱は金泥で光り、宣言が終わると群衆が一斉に立ち上がり、眠らないことを讃える合唱が始まった。

その映像と交互に、マルが見つけた図書室の静けさが挿入される。重厚な扉の奥、埃の層が厚く静脈のように走る本棚の間、マルは指先一つで古い写本の封をこじ開けた。指先に残ったのは、古い乾いた革の香りと、金属のような苦い味。燭台の光に浮かんだページには、見慣れない呪文の断片と、手書きの会議記録のような一覧が交互に並んでいた。

「……ここに、名前がある」マルは息を飲んだ。指が震えて文字を辿る。黒く潰れたインクの下から、欄には「実験台」「観測」「回収予定日」といった言葉が見え、それに添えて朱で日付と、密やかな印が打たれている。印は聖堂のものであり、同時に王宮の印章とピッタリ重なったように見えた。

彼女が見つけたのは、眠りを奪う技術の起源を示す痕跡だけではなかった。頁の端に薄く書かれた一行が、マルの胸を氷のように叩いた。

「王血を媒として、夢境を拘束する。延長は民の覚醒を保証し、統治は永続する――許可、王家議」

その一行だけで、図書室の空気は変わった。マルは写本をそっと背負い、扉を抜けるときに灯の一つを消した。足音は吸い込まれ、鍵穴の音だけが残った。

王子レオンは、いつもの小さな密室で待っていた。壁にかけられた古い時計は短針が昼の十二を指し、秒針の音が耳に突き刺さる。彼の目は赤く、瞳に奇妙な光を宿していた。眠らない者の眼だ。彼はマルが出す写本を受け取り、指先でその一行を確かめた。

「これが、本当に――」レオンの声は震えた。冷たい汗が背中を伝う。王子としての矜持と、証拠を掴んだ者の脆さが混ざって、彼は笑ったようにうめいた。「父が……関わっていると?」

マルは言葉を失った。そこにあるのは単なる暴露に留まらない、血縁に根ざした陰謀の匂いだった。レオンの掌は紙を握り潰す。紙の端がちぎれないのが不思議なくらい、彼の力は冷たかった。

「この写本を公にすれば、人々は目覚めの法典を信じ直すかもしれない。だが、真実を出せば、王家も教会も軍も、同じ構図でつながっていることがわかる」マルは低く言った。「それが広がれば、抵抗の輪は大きくなります。でも、相手は直ちに手を打つ。誰かが代償を払うことになる」

代償――それはレオン自身の持つ能力を意味していた。彼は掌を開き、空気を集めるように指をすぼめる。細い光の糸がその掌に集まり、やがて人のかたちを採り始めた。彼が引き出したのは、近隣の村で眠りを奪われた者の記憶だった。風の匂い、黒い夜、目の裏に焼き付いた無数の時計の針。映像は薄膜のように部屋の中で震える。

「これを束ねれば、誰もが見える“当事者の真実”になる。嘘は通用しなくなる」レオンの声は確かだった。「だが……」

彼の言葉はそこで切れた。胸のあたりが冷たくなり、思い出が糸を引くようにほどけていく感覚が訪れた。最初は些細なもの――幼い頃に母が編んだ麻のマフラーの感触、雪の日に一緒に笑った匂い。次に、それを追うように幼馴染のイリスの顔の輪郭が薄れた。レオンは目を見開き、焦燥で掌の光を一度だけ強く握りしめた。

「代償は、記憶だ」彼は呟いた。「束ねるほど、僕は忘れる。誰かの痛みを武器にすればするほど、僕から大切なものがこぼれ落ちる」

マルは顔をしかめた。「それでも、あなたがやらなきゃ意味がない。王子の言葉には重みがある。証言が僕らだけじゃなく、当事者の声を束ねて王子の口から出る――それが法廷でも、広場でも、覆せない力になる」

「だが――」レオンは再び言葉を止めた。彼の手に映るのは、先ほど紡いだ一つの記憶の残骸。誰かが自ら眠りを捨てた夜、泣きながら枕を抱える女の背中。彼はその背中の刺繍の模様すら思い出せなくなっていた。代償は即効的で、皮膚の上を走っていく。使う量に応じて、彼の過去は白い雪のように消えていった。

部屋の外から、遠くで多くの鐘が鳴った。塔の鐘の音が街を突き抜け、人々の胸に強制的な起床を呼び起こす。目覚めの法典は既に広く行き渡り、眠らないことを誇る新しい秩序が形を取り始めていた。

「強制的な救済は、呪いを増幅する」イリスが暗い瞳で言った。彼女はレオンの幼なじみであり、今は彼らの側で医療を施す一員だった。彼女は倦んだ顔で続けた。「あの書物には、実験の段階で『回収』が予定されている被験者の列がある。救済とは、呪いの輪を別の場所へ移すことに他ならない。つまり、無理やり眠りを取り戻せば、その反動で呪いはより広く、深く撒かれる」

レオンは手の中の光を消し、掌に残る冷たさをぬぐった。記憶は帳消しにされるようにいくつかの輪郭を失っていた。彼は自分の名前の一部がいつものように響かないのを感じ、頭を振って思考を取り戻した。

「僕は誰かを強制で救いたくない」彼は低く言った。「その代わりに、選ぶ余地を作りたい。知るか知らないか、拒否するか受け入れるか。選択できる状態を取り戻すこと――それを、君たちに手渡すんだ」

イリスは瞳を伏せ、小さく息を吐いた。「でも、真実が出れば、抗う者は増える代わりに、犠牲者も増える。聖堂は直ちに反撃する。王都ではもう、法が盾であり剣になっている」

「それでも手を打たないわけにはいかない」マルは写本を机に叩きつけた。頁が震え、埃が舞った。「僕は証拠を掴んだ。名前も、署名も、試験の一覧も。僕らがこれを公開すれば、民の前で法典の基礎が崩れる。だが、もっと確かなものが必要だ。君の力だ、レオン。君の口がなければ、彼らはこれを単なる反逆の噂で片付ける」

レオンは彼女たちの顔を見た。イリスの顎には冷たい決意が付いていた。マルの目は燃えている。仲間たちの自律した選択が、彼を押した。彼はゆっくりと頷いた。

「ならば――束ねる」レオンは言った。彼の掌に再び光が集まり、今度は三つの糸が彼の胸へと差し込まれていった。村の老人、夜警の女性、実験の生存者。彼らの声が同時に降り注ぎ、部屋は一時的に別の世界になった。裸の事実だけが、冷たく鮮烈に目の前に現れた。軍の検閲の痕、聖堂の役人の名刺、王家の幾つかの会議に残る署名。真実は、これまでの噂を超え、形をはっきりと定めた。

その瞬間、レオンの胸に穴が開いたように、彼の幼い日の記憶が一つ消えた。母が寝室で読んでくれた絵本の色と、彼女の手の丸みが消え、代わりに虚無の冷たさが残った。彼は堪えきれずに床に膝をついた。

「忘れてしまうのか?」マルの声が震えた。

「忘れる」レオンは答えた。目に残るのは、今束ねた者たちの怒りと悲しみ、そして書物に書かれた「王血を媒とする」という言葉の意味だ。誰かがその技術をはじめ、誰かがそれを承認した。もし父の名前がそのページにあるなら、レオンは自分の家を告発することになる。彼は剣と王位の間で引き裂かれるような痛みを覚えた。

イリスはそっと彼の肩に手を置いた。「あな