夢葬高校のプロトコル

夢葬高校のプロトコル 第14話「終章 朝の校舎、眠りの向こう」

報道陣のライトが朝の廊下を白く引き裂き、インタビュー用のマイクが校門前に列をなしていた。綴環高校の校章はいつもより艶を失って見え、手続き書類だけがやけに整然と積まれている。校内の電光掲示板には「夢境実習 一時停止」の文字が点滅していた。夢を教科の一つとして掲げてきた学校にとって、それは喉に刺さった骨のような発表だった。

報道陣のライトが朝の廊下を白く引き裂き、インタビュー用のマイクが校門前に列をなしていた。綴環高校の校章はいつもより艶を失って見え、手続き書類だけがやけに整然と積まれている。校内の電光掲示板には「夢境実習 一時停止」の文字が点滅していた。夢を教科の一つとして掲げてきた学校にとって、それは喉に刺さった骨のような発表だった。

「入って」と呼ぶ声で、私は校舎の中へ入った。ナギが廊下の端で腕組みをして、いつものちょっと高い位置から見下ろしている。彼女の髪は風で少し乱れていたが、顔は安堵と疲労で緩んでいた。ミツルは、肩にかけた薄いブレーカーの中で小さな端末を抱え、目を細めて現実の波形を眺めている。ユラは――そのユラは保健室の窓際に座り、窓の外の桜をぼんやり眺めていた。今日は三つの声のうちの一つだけが彼女の唇から漏れている。別の声は、静けさの奥に引っ込んでいるようだった。

生徒たちは「記録会」と呼ばれる場を持ち始めた。欠落した記憶を完全に取り戻すことはできないが、欠落したその穴について言葉を交わすことで、穴を孤立させずに置くための試みだ。体育館に並べられた椅子の列の間を、被害者と支援者がゆっくり行き交う。誰かが「いろいろあったけど、ここにいる」と言えば、誰かがただ頷く。叫びや糾弾ではなく、声が記憶の代わりに置かれていく。

記録会の後、校長と数名の教職員がメディアの前に立ち、謝罪と説明を繰り返した。警察のバッジが胸に光り、教育委員会の役人が諭すような顔をしていた。鷺沼レイは拘束され、車両の中で冷静を装っていた。彼を取り囲む制服の前で、彼は淡々と理論を話した。「生徒の苦痛を減らすために計測と再構成は必要だ」と。しかし彼の言葉は、もう誰の救済にもならなかった。正義でもないし、悪でもない――ただ、手段と論理が人を押しつぶした痕跡が残った。

それでも、白い校庭のデータが消されたわけではなかった。拘束の直前、何らかの自動送信が複数の外部サーバへ行われていたことが、捜査のログに残った。鷺沼が作り上げたアルゴリズムの断片、接続プロトコル、そして――そこに潜む座標。警察はその先を追ったが、データは分散化され、コピーが海の向こうや企業のクラウドに散らばっていた。消去はされていない。封じられていない可能性があることを、誰もが密かに知っていた。

私はナギと並んで屋上に上がった。風がまだ冬の名残を運んでくる。彼女は私を見て、少しだけ笑った。「やっと、ちょっと普通の朝って感じがするね」。私の胸の中には、いくつかのことが同時に鳴っている。喪失の重さ、解放の軽さ、そして目の前にある空白の広がり。七分ごとに削られた時間、三度の断絶、そのたびに薄れていった幼い日の小さな手触り。断夢を三度使った後に残ったのは、写真の縁に焼けたような記憶だけだ。自分の名前の横にぽっかりと開いた穴があることは隠せない。

ナギは私の肩を軽く叩いた。「覚えてなくたっていいんだよ。覚えていることがあなたの全部じゃない」。その言葉が、私の中の不安を押し戻す。でも不安は消えない。夜中に聞こえる特定のチャイム音はまだ、頭の奥で痛みを作る。あの音が実験の合図だったことは、もう一つの人影が確かめていた。私はそれを忘れようとしない。忘れすぎることは、別の誰かを切り捨てることだからだ。

ミツルは、記録係としての新しい役割を申し出た。眠ることを強いることはしない。彼は自分の存在が夢側へ薄れていく感覚を嫌っていた。だから現実の側でこそ、彼ができることがある。端末を調整し、接続ログを可視化し、再発を防ぐための物理的なブロックを作る。彼はまた、夢と現実の境界線を示す「地図」のアーキビストになると決めた。ミツルは細い声で言った。「僕はもう、夢の中で地図を作る必要はない。リアルで起きている証拠を残すことにする」。その声に、私は名前で返した。端末の向こう側の人間ではなく、ミツルという存在に呼びかけたのだ。彼は少し驚いてから、ほんの少し微笑んだ。

ユラは保健室で、自分の名前を自分で決めることを学んでいた。三つの人格があるままでいることは、彼女にとって選択だった。誰かに統合されるのを拒み、しかし他人の手で「個性」が書き換えられるのも拒んだ。私たちは彼女に問いかけるたびに違う声を聞いた。ひとつは子どものままの声で「いやだ」と言い、もうひとつは低くて冷静に「いいわ」と言い、最後はむしろ歌うように囁いた。ユラ自身が言った。「私が変わるなら、私が決める。日によって違っても、私の声で呼べばいい」。その言葉が、彼女の一つの決意になった。

放課後、私たちは旧実習室の前に立った。そこにはかつての参加者名簿が残され、私とユラの名前もあった。鷺沼の署名も刻まれている。残された紙片が、私たちに問いかける。何のために記憶を差し出し、何のために取り戻すのか。ナギは黙って私の手を握った。彼女はもう、私の過去を埋めようとはしない。歩幅を合わせ、ただ隣にいてくれることを選んだ。

記録会の夜、被害を受けた生徒の一人がステージに立ち、低い声で話した。「僕は、名前を取り戻せなかった。でも、それで僕が存在しないわけじゃない。欠けた部分がある僕を、誰かが否定するのは違う」。聴衆から拍手が起こる。拍手は責めるためのものでも、救うためのものでもなく、ただ確かにここにいるという合図のようだった。私はそれを聞きながら、自分の胸にある空白を抱きしめる。記憶が私の価値を決めるわけではない。だが、忘れてしまったことが誰かの痛みを生むのだとしたら、その痛みを軽んじてはいけない。私はそう思った。

夜になり、校舎の灯りが一つずつ消える。長かった日が、短くまとまったように終わろうとしていた。私たちは三人で屋上に戻り、遠くの街灯を眺めた。ナギがちょっとふざけて「世界はまた眠るけど、私たちは見張り番ね」と言い、ミツルは端末を抱きしめる。ユラは今日の声で「おやすみ」と小さく言った。私は暫く黙っていたが、最後に一つだけ口にした。「もし、もう一人の自分がいるなら、会ってみたいと思うかい?」ナギは無言で空を見上げ、ミツルは薄く笑って「会っても、君は君だよ」と言った。ユラの答えは夜に消えたけれど、彼女の三つの声は揃って「うん」と言ったように聞こえた。

家路につき、部屋の電気をつける。疲労の波が肩に落ちると同時に、ポケットの端末が小さく振動した。通知だ。奇妙だと思いながら画面を見ると、そこには見覚えのないアイコンが一つ、静かにインストールされていた。存在しないはずの睡眠アプリ。名前は冷たい黒字で表示されている。

第二プロトコル:複製人格の起床準備完了

画面を見つめると、データの出所を示す小さなヘッダが一瞬だけ表示された。遠隔サーバ。外部に散らばったデータのひとつ。鷺沼が拘束される少し前に放たれたコピーの一つだと、直感が囁いた。胸の奥で、幼い日の写真の縁がまた少しだけ霞む。何かが、まだ眠りの向こうで目を覚まそうとしている。私は画面を消した。消えたはずのものが残っているという事実は、たとえ画面の向こう側でも、現実に向かって手を伸ばす理由になる。

翌朝、校舎はいつもより静かだった。生徒たちは前日と少し違う顔をしている。記録会の後だからなのか、誰もが何