王女騎士

王女騎士 第7話「第6章」

ミアは今、何をしたいのかをはっきり自覚していた。夜の見回りで培った直感がざわつき、身体の芯が冷たくなる。守る――それだけだ。民が安らげる拠点を作り、エリナを安全に育てる。だが目の前には、体力でも信念でも対立する仲間たちが立ちはだかっていた。

ミアは今、何をしたいのかをはっきり自覚していた。夜の見回りで培った直感がざわつき、身体の芯が冷たくなる。守る――それだけだ。民が安らげる拠点を作り、エリナを安全に育てる。だが目の前には、体力でも信念でも対立する仲間たちが立ちはだかっていた。

集会場の長机を囲んだ七人は、声の熱で息が白くなる。窓の外、奪取した城塞の石壁が灰色の空と溶け合っている。議題は単純だが答えは複雑だった。次の作戦の速度と規模――奇襲で一気に周辺諸侯の抑えを切り崩すべきか、じっくり同盟を固めてから大きく動くべきか。

「俺は一気に畳み掛ける方がいい」カエル・トルが低く言った。前線を知る者の語り口だ。重装甲の男の瞳は冷たい。「このまま勢いを殺すのはもったいない。城塞を拠点にしている敵の補給線を断てば、周縁は簡単に崩れる」

サイムは指先で古びた地図のしみをなぞりながら嘲るように笑った。「理想論はいい。だが情報戦は忘れるな。摂政は買収と脅しで味方を割りに来る。無理に突っ込めば情報網に反撃される。私なら偽の命令書を流して敵の移動を誘導する」

ミアは黙って聞いていた。二人の論は、どちらも正しい。だがどちらも、実際に民の命を張る者の声ではなかった。彼女が最も嫌ったのは、正義のために人を利用してしまうことだった。前世の夜間警備で見てきた「数合わせの犠牲」が蘇る。合理は簡単に人を消費する。

「速度を落とせば我々は勢いを失う。でも突っ込めば被害は増える」リサが唇を噛んで言った。薬師として傷と病を見てきた者の顔には、計算と不安が混在していた。「被害を最小にするための避難路と医療班を先に確保すべきよ」

議論は切羽詰まっていった。互いの主張は擦り合わず、言葉が刃のように飛ぶ。ミアは次第に喉が渇くのを感じた。ここで決裂すれば、力は割れ、城塞奪還の成功も彼らの絆も消える。意志のぶつかり合いは、戦場よりも厄介だった。

「黙れ」エリナの声が唐突に静寂を切り裂いた。王女は立ち上がると、眉間の皺を気にすることなく長机の中央に両手を置いた。「私が決めます。私が王女なら、どう振る舞うか——そういう話をしましょう」

彼女の顔は疲れている。政治家未満の王女が、ここでのみ育っている。だがその目は覚悟を宿していた。ミアはその決意に、胸をつかまれるような感覚を覚えた。

「私たちは、『この街の人々とここを守る』ことを最優先にします」エリナは静かに宣言した。「犠牲は出さないと言い切れないが、犠牲を出す前にできる限りの工夫を尽くす。それができないなら、攻めは延期する」

カエルが口を尖らせた。「お前は戦術を知らない。安全第一という言葉で何も動かせないぞ」

「でも、私たちの目的は城塞を取ることだけじゃない」サイムが割り込む。「支持を集め、民心を得ることだ。もしここで民が見捨てられるような行為をしたら、長期戦で致命的な打撃になる」

沈黙が落ちた。議論はまた別の輪郭を描こうとしている。ミアは指先で古い徽章—自分が転生と共に持っていた金属片—をこすった。徽章の縁に小さな歯車のような突起があり、昼の光でじゃらりと音を立てた。彼女はそれを凝視する。微細な機構が、彼女の中で何かを共鳴させるように震えた。

「私に任せてほしい」とミアは言った。言葉は簡潔で、無駄がなかった。仲間は彼女を見た。彼らはミアを「現場の人間」として信頼している。彼女の判断が現場を回すのだと、ここまでで学んでいた。

だが信頼は責任になる。「どんなリスクを負うつもりなんだ?」カエルの声は鈍い石のようだ。

ミアは手の平の徽章を握り直し、口を開いた。「私は人を守る。そのための方法は、私は持っている。だがそれには代償がある。使いすぎれば私も壊れる。私を盾にして突っ込むという選択は、私自身の消耗を意味する。だから、皆でやる方法を考えてほしい」

彼女の言葉が、会議室の空気を落ち着かせたように思えた。だがカエルは納得しない。サイムも、理詰めで攻めるべきだと主張する。対立は収まらない。

そのとき、エリナが両手を強く握り合わせ、低く息を吐いた。「ここで分裂するわけにはいきません。私が仲裁します。ミア、カエル、サイム。三人の案を統合する。リサは医療班を組織し、補給路の確保はカエルの指揮、情報系はサイムに任せます。私は民衆への呼びかけを行い、支持を固める。そのために、あなたたち全員が同じ誓いを立ててください」

「誓い?」サイムが眉をひそめる。「またあの——」

ミアは一瞬だけ心臓が跳ねた。あの誓い。盟誓の盾。発動条件は誰もが知るところだ。声に出して「守る」と言い、名を宣する。三十歩以内。触れることか、誓印で相互認証。禁則と代償も重い。だが今ここで、彼らは能力を使うかもしれない。この議論の重みが、一気に現実に引き戻された。

エリナは続けた。「私は王女として、あなたたちを信じる。だが私は一人で民を守れない。誓いは能力を発動するためのものだけでなく、私たちの意思を明確にする儀式にもなる。ミア、もしあなたが望むなら、今ここで私と、そして主要な指揮者たちとで誓いを交わしましょう。能力を使うかどうかは場合によるが、誓いは私たちの共同体の印になる」

ミアの手は徽章をぎゅっと握りしめた。誓いは能力の発動条件でもあり、精神的な結びつきでもある。彼女は自分がこの言葉を口にすることで何を失い、何を守るのかを知っていた。盟誓を使うたびに肉体年齢が一年進み、記憶が一つ消える。盟痕は生じ、そこは弱点となる。だが仲間たちが必要としているのは、ただの言葉だけではなく、覚悟の共有だった。

ミアは静かに立ち上がった。部屋の空気が張り詰める。皆が見守る中、彼女はエリナの手を取った。二人の手が触れた瞬間、ミアの指先に冷たい衝動が走る。誓いの条件は満たされた。距離は十分に近い。彼女は深く息を吸い、声を張った。

「守る、エリナ・ヴェル」

言葉は短く重かった。届いた。エリナの掌からは穏やかな震えが伝わる。ミアの中で見知った感覚が動いた――他者の痛みが、彼女の中に瞬間移送されるような錯覚。だが今回は戦闘ではない。盟誓の盾は発動したのだろうか。ミアは自分の耳元で小さな機械音を聞いた気がした。徽章の歯車が微かに回ったのだ。

直後、ミアは違和感を覚えた。首筋の筋がつっぱり、腰の辺りに小さな冷えが走る。年が、ほんの一瞬で進んだような重さだ。彼女は前世で抱えていた些細な記憶――夜勤で聞いた同僚の冗談の切れ端のようなもの――がふっと消えているのに気づいた。指先でこすった徽章の周囲に、暗い刻印が浮かんだ。盟痕だ。皮膚に線状の紋が走り、そこを触れると微かに痛む。

「ミア!」リサが叫んで手を差し伸べた。彼女の目に恐怖が走っている。カエルは唇を噛みしめ、サイムは冷静に状況を測るが、どこか動揺している。エリナはミアの顔を真っ直ぐに見つめ、握った手を離さなかった。

「大丈夫?」エリナの声音は震えていたが、迷いはなかった。ミアはかろうじてうなずいた。代償は現実になった。盟誓は彼女を守るための盾であると同時に、彼女自身を蝕む刃でもある。だが皆の顔を見ると、恐れだけではない温度があった。信頼だ。責任を共有する覚悟だ。

「もう一つ」ミアは小さく言った。言葉を探しているう