罪冠の和平王

罪冠の和平王 第16話「第14章」

夜風が冷たく、町外れの路地は紙片と干し草の匂いに満ちていた。共同統治になって以来、こうして密談に適した場所は増えた。目立たない灯り、覗き込めば見える裏口。だが、そこへ来たのはいつものように無言の獣人の少女だけだった。ノアは帽子を深く被り、耳を伏せ、拳のなかで指を数えていた。指先は四と三を往復する癖のまま、彼女の胸の鼓動と合わさって速くなる。

夜風が冷たく、町外れの路地は紙片と干し草の匂いに満ちていた。共同統治になって以来、こうして密談に適した場所は増えた。目立たない灯り、覗き込めば見える裏口。だが、そこへ来たのはいつものように無言の獣人の少女だけだった。ノアは帽子を深く被り、耳を伏せ、拳のなかで指を数えていた。指先は四と三を往復する癖のまま、彼女の胸の鼓動と合わさって速くなる。

「ノア」

呼びかけに、彼女はゆっくりと顔を上げた。相手は背の低い男で、頬に浅い傷を持っている。弟の顔だ。目の端に疲労があるが、立ち振る舞いはまだ子供のようにぎこちない。ノアは一歩も引かなかった。ただ、指の数え方を一瞬止めて、四つめの指に触れた。そこに、いつもより強い冷たさが走るのを感じた。

「――来てくれて、ありがとう」

弟は震える声で言った。ノアは口を開かず、ただ小さく頷く。彼は続けた。「外ではもう、言えない。僕が……僕がやったことを消してくれるって言われたんだ。代わりに、ある人を『終わらせて』ほしいって」

言葉は濁らず、しかし全てを語ってはいなかった。ノアの指はまた数をなぞる。夜の闇が、指先の影を長く伸ばす。弟の手に握られている紙切れが、白い月明かりを一瞬受けてきらりと光った。そこに押された印は、王都の印象とは違う冷たい輪郭をしていた。署名はない。ただ、受け渡しを示す記号だけが薄く浮かんでいる。

「誰だ?」ノアは静かに聞いた。声は枯れていた。

「代理だ。ユルゲン側の、表には出ない者。僕を見つけて、条件を出した。僕の『罪』を帳消しにする。だけど、そのために一人、共同統治の代表を消してくれって」

その瞬間、ノアの目の奥で何かが震えた。彼女は一度、四本の指をぎゅっと握りしめ、次にゆっくりと開いた。月光に浮かぶ彼女の手が、まるでコンパスの針のようにひとりでに震える。彼女のなかで数える動作が、いつもの儀式になぞらえて回り出す。四人目、という幻影。命令の形。空席――彼女は、昔の命を思い出していた。どれだけの夜を、彼女はその空席のために数えたのだろう。

「帳消しって、どういうふうに?」

弟の返事は短かった。「札を一本——守護機構の札じゃない、ユルゲンが関係者に持たせている記録を、焼くんだって。僕の名をそこから消して、誰も僕のことを探さないようにする。代わりに、あの議会にいる誰かを消せばいい。象徴にすればいい。みんなが、その死で安心する」

ノアは言葉を持たなかった。胸の内で、数え続ける指が止まる。彼女の記憶はざわつき、かつて彼女が運んだ密命の姿がひとつ、またひとつと浮かんでは消えた。暗い荷物袋。祝祭を装う人々の背中。四人で立つ集団のうち、座っていることがすなわち死を意味する空席。彼女は、そのとき何度も止められたのか。止められないまま、何度人の命を奪うかもしれない空席を作らされたのか。答えは出ない。ただ、彼女は弟を見る。その目は恐れと希望が同居していた。罪を洗い流したいという望みは、どんなに小さな光でも人を突き動かす。

「僕を消してくれれば、ノアは自由になる」

弟はそう言った。言葉の裏にあるのは、無数の和らげられた顔の予感だった。ノアの胸はぎゅうと締め上げられた。自由。彼女は何をもって自由を量るのか。弟の望みは、それを手に入れるために他人の死を許容しようとしている。ノアは一度、ゆっくりと息を吐いた。鼻の奥に、昔の匂いが戻る。血硝の匂い、油の匂い、口数の少ない指導者の靴の擦れる音。彼女は小さく、けれど確かに、指を四から一へと戻した。

「ノア、どうか…頼む」弟は言った。「君はいつも、僕たちを守ってくれた。守ってくれただろう? 一度だけでいいんだ。僕を消してくれれば、母さんには顔向けできる」

ノアの耳が微かに動いた。彼女は前に進み出る。手のひらで弟の肩を掴むと、指が震えているのを確かめた。彼女の目はいつもの無口な冷たさではなく、何か鋭いものを湛えていた。彼女は弟の手から紙切れを引き戻し、月光の下でそれを見た。裏面に、赤い染みが一つ浮かんでいた。血か、紅いインクか。どちらでもいい。そこには交換の印が明確に付いていた。

ノアは、そこに「四人目」という文字を見た気がした。

――その夜、ノアは帰らなかった。弟は通りに立ち尽くし、彼女が戻るのを見送るしかなかった。だがその代わりに、ノアは彼女自身の足で広場へ向かった。仲間の宿舎の前、薄明かりの下で五人が待っていた。マヒロは左腕を軽く抱えていた。黒い輪は淡く震え、夜の音に合わせて低い弦のような振動を放っていた。音は小さく、しかし彼ら全員の胸に届いた。

「ノア?」ガルドがまず口を開いた。声には緊張が混じる。ガルドはまだ、自分が過去に犯した火と人の顔を思い出している。彼自身が赦しを受けたいのか、赦しを望まれるのか、分からないままにいた。

ノアは一歩だけ前へ出た。彼女は言葉を発さなかったが、手を差し出した。その手には弟の紙切れがあった。五人の目がそれに吸い寄せられる。セレネは紙を引き取り、銀の光の下で読み上げた。短い文章。取引の内容。帳消し。標的。代理の印。読み上げられた文は、会話の伴わない真実として流れた。

「ユルゲンからの命令、あるいはその周辺からの発信か」イオが指を額に当て、声を低くした。「この種の取引は、記録を操作して消すことで機能する。だが、それを代価に殺人を前提にするのは、正確には償いの形ではない」

「それは脅しだ」マヒロが言った。彼の声は静かだが、輪の内側から響く低い音に押されているようだった。「誰かの命を代価に罪を『消す』というのは、責任を転嫁する意図の顕れだ。《罪冠》の条件に合致しない。本人が自分のしたことを語り、他人へ押しつけることをやめ、償いたいと望む――その四つの条件が揃わない限り、僕は罪を受け取れない」

セレネが眉を寄せる。「だが、ノアの弟は本当に、自らの罪を消したいのでは? 僕らが提供できるのは公の場での審理だ。もし彼が自分を曝け出すなら…」

「それでも、彼が『殺せ』と命じられた人間を殺すことを条件にしていたなら、それは恐ろしく不純な望みだ」ガルドが割って入った。「償いとは、誰かを犠牲にして帳消しにすることではない。被害者の痛みをどう扱うか、そこが問題だ」

ノアは口を開かないまま、手を握りしめる。指の動きは静かに、小さく震えた。彼女はあの夜、誰かの命を奪うために何度も準備させられた。弟を救うためなら、彼女はかつての自分に戻りたかったのだろうか。その問いに、ノア自身が答えを持っていない。彼女の中で数える癖が、何度も何度も過去の手順をなぞる。四人目の空席は、今や弟を救うための口実となっていた。だが彼女は、静かに手を下ろした。

「僕は受け取らない」マヒロが言葉を繋ぐ。「ノアの弟の罪を、ここで消すことはできない。だが、もし彼が自分のしたことを語るなら、僕らはそれを受け止める場を用意する。隠蔽と交換ではなく、公に向き合うことを選べ」

弟の顔がぱっと崩れる。紙切れを握る手が震えて離れる。ノアは一歩前に出て、弟の腕を握った。視線は兄弟の間を行き来する。弟は声を上げて泣き出しそうになったが、雨のような声になった。「僕は……僕はやった。命令に従った。数を合わせ、空席を作った。最