例外修復譚

例外修復譚 第9話「第8章」

夕暮れが早く落ちる季節だった。枯れかけた畑の匂いと、王都へ続く道の湿っぽい風が混ざり、旅の疲れをぬぐうように肌を冷やす。荷車を止めた家並みの端で、ユノは剣の鞘に手をかけたまま、細く開いた戸口を覗き込んでいた。扉の隙間からは、古い油の匂いと蝋燭のほのかな炎が漏れている。救済院の外観は外向けには穏やかだが、内部の空気は鎧のように冷たい。そこにあるのは慈善の顔をした厳格さだ。

夕暮れが早く落ちる季節だった。枯れかけた畑の匂いと、王都へ続く道の湿っぽい風が混ざり、旅の疲れをぬぐうように肌を冷やす。荷車を止めた家並みの端で、ユノは剣の鞘に手をかけたまま、細く開いた戸口を覗き込んでいた。扉の隙間からは、古い油の匂いと蝋燭のほのかな炎が漏れている。救済院の外観は外向けには穏やかだが、内部の空気は鎧のように冷たい。そこにあるのは慈善の顔をした厳格さだ。

「ここだ」ユノが小さく言った。声にはいつになく緊張が混じっていて、指先に力が入っていた。彼の剣は長く、柄は擦り切れている。だが、几帳面に研がれた細部の中で、刃に刻まれた紋章だけがどこか欠けていた。欠けた部分は規則的なくさび形で、光を透かすと不思議に闇を作るように見える。ユノはそれをいつも胸の奥に収めていた。父から受け継いだそれは、彼にとって誇りでもあり、問いでもあった。

門番の女が鉄の格子を閉めかけてこちらを見た。彼女は年配で、腕に青白い針金で結ばれた小さな鈴を幾つかつけている。鈴は静かに揺れて、冷たい風にかすかな音を立てた。鈴の音が彼らの存在を告げる。だがその音は、外にいる人の声へと続くものではなかった。かすかな、繰り返しの合図のように、決まった数だけ響く。

「来訪者は受け付けていません」女は目を伏せずに言った。声はしわがれ、しかし手堅い。「保護の対象に関わることは、外部に知らせるわけにはいかぬのです」

ユノの顎が少し動いた。普段は礼節を重んじる彼だが、そのときは礼節が自分の妹の存在を奪った道具になるのを拒む気配があった。すでに何日も、何通りもの夜を越えて彼は悩んでいた。父が残した言葉と、剣に刻まれた欠け。その意味が、今夜ここで一つの答えを求めている。

「中に入れるか?」ミラがいつもの調子で口をはさんだ。彼女は長いマントの裾を払って、少しだけ火花を指先で弄る。小さな火の粒が、彼女の気の強さを擬似的に表していた。サージュは巻物を抱えて、遠巻きに観察している。リゼは、いつでも手を汚せるようにとノートを胸に抱えていたが、そこには修正のための準備は書かれていない。彼女は影のように静かだった。

門番が迷いを含めた眼差しをユノに向ける。認めたくないものを見るような、あの目だ。やがて女は格子を少しだけ開け、中を示した。

「地下の間は使いません。年寄りと病人だけです。外の者は入る資格がない」

「妹だ」ユノが言う。声は低く、しかし簡潔だった。「セラを探している。――あの記録は、間違いなんだ」

格子の隙間から、女の目が針のように細まった。台帳のページをめくる手つきを真似て、彼女は答えた。

「記録は正しい。登録簿に『セラ・アルト 死亡』とある。その札もここに――」彼女は黒い三角札を見せた。札は三角に折られ、どこか焦げた匂いが混じる。だがその裏に刻まれた数字は、確かにセラのものだった。

ユノの手が剣に伸びた。鞘に触れると、普段は冷たい鉄の感触が指の腹に伝わるだけだが、その夜は違った。ユノは鞘を抜き、剣を空に向けて立てた。月光が鞘と刃の間に滑り込み、欠けている紋章の部分を通った瞬間、欠落が光の通路になった。光は鋭く、床に縦の一筋となって落ちる。光はただの光ではなく、細い道筋を描き、床板の継ぎ目をなぞっていく。板が光に反応すると、そこに蓋のように隠れていた一枚の石がわずかに浮かび上がった。

「父さんの……仕掛け」ユノの唇が震えた。剣に刻まれた欠けは、偶然ではなかった。欠けた紋章が欠落した部分に光を通して、正確にここ――地下へ続く扉の鍵穴を示すように作られていたのだ。

扉は古く、鉄の鎖で固く閉ざされていた。だが光が当たると、錆の間から細い隙間が現れ、指先ほどの空気が流れ込む。ユノは剣をゆっくりと戻し、再び鞘に納めた。鞘の内側にほんのわずかに光が残る。刃の欠けた部分が、まるで合図の役割を果たしていた。

「どうして……」ミラが息を飲む。

「父が」ユノは短く言った。目の奥に古い痛みが走る。「誰にも触らせてはいけない、って言ってたはずだ。だが、もしものときに、こっそり見つけられるように、とも」

女は俯き、小さな鞄から一枚の薄い紙を取り出した。紙には汚れたインクで幾つかの文字と、簡単な図が描いてある。図は剣の紋章の欠け部分を示していた。紙の角には父の筆跡に似た走り書きがあり、ユノはそれを一瞥しただけで胃が締めつけられるようだった。

「父さんはあの子を」ユノの声が途切れた。「死んだことにして、ここに置いたんだ。外の目から――王都の役人から――守るために」

「守るために?」リゼが反射的に言った。彼女にはすぐに三つの可能な原因が頭に浮かんだ。誤登録、偽造の保護、故意の覆い隠し。彼女はそのどれかを確かめるために、いつもの癖で手を伸ばしノートを取り出し、鉛筆を削ろうとした。だがユノの目が彼女を止めた。

「今は記録するな」ユノは静かに命じた。「俺は、父のやったことの意味を知りたい。ここで勝手に消してしまうような真似はされたくない」

リゼの掌がほんの一瞬だけ痺れた。修正の習慣は彼女の体に染みついていた。小さな矛盾を見ると、そこに書き出し、三因までに絞り、最小の修正を選ぼうとする。だが能力の代償も知っている。ひとつの修正で、記憶の一片が薄れるのだ。リゼは、かつて直した誰かの微笑みを忘れた夜を思い出していた。今は、それを避ける方がいい。ユノの痛みを奪ってまで、事実を閉じる権利は彼女にはない。

「分かった」リゼは答え、ノートをポケットに戻した。彼女の赤い括弧が心の端でひとつだけ震えるのを感じたが、それは閉じるためではなく、開けるためのきっかけだと直感した。

地下への蓋は重く、開けると冷気が渦を巻いた。階段は螺旋状に降り、湿った土と金属の匂い、そして人の息の気配が混じっていた。灯りをともすと、彼らは古い木の扉の前に出た。扉の前には、小さな器が几帳面に並べられている。器は空のままではなく、底に何かの粉が残っている。器の一つに、青白い針金で結ばれた小さな鈴が括られていた。鈴は粗末な布で包まれ、その布はどういうわけか、子どもの匂いをわずかに宿している。

階下からはかすかな寝息が聞こえた。人の寝息だが、子どものものに違いない。ユノの膝が一瞬だけ弱くなり、彼は自分でも驚くように手を震わせた。ミラが前に出て、扉の板を押した。きしむ音と共に扉が開き、暗闇の中から細い顔が現れた。

その少女は小柄で、薄い毛布にくるまっていた。目は大きく、濡れたように潤んでいる。顔には枯れた涙の痕があり、まるで長い間誰にも見られないように生きてきたことを語っていた。髪には青白い針金の鈴が結ばれており、それがわずかに震えるたびに、軋んだ木の中に温かな音が響いた。

「セラ……」ユノの声は喉の底から溢れた。彼はぎこちなく、その名を呼ぶ。それは見慣れた呼び方で、同時に忘れたくない約束のようでもあった。

少女は一瞬固まった。表情は複雑に変わる。喜び、恐れ、困惑、すべてが小さな顔の上で混ざり合う。やがてほろりと涙がこぼれ、彼女はゆっくりと足を伸ばした。ユノは躊躇なくひざまずき、両手で妹の手を取る。触れた瞬間、長年引き留めていたものが裂けるように音を立て、二人の間に沈黙が落ちた