祝卓の王子 第5話「第4章」
朝靄がまだ尾を引く道を、四人の影が進んでいた。背後には王都の石壁が薄く浮かび、前には広がる枯れ草と砂埃。リオネルは竹筒に入れた簡素な朝粥を抱え、片手で杓子を弄りながら歩く。彼の肩越しに、ユルグは鞍に深く寄りかかり、馬具をひとつずつ点検している。ミナは手帳を胸に抱え、細かな図を描くように村や中継点の名をなぞっていた。先導の兵士は遠くを警戒し、普段の警護の列よりも間合いを取っていた。
朝靄がまだ尾を引く道を、四人の影が進んでいた。背後には王都の石壁が薄く浮かび、前には広がる枯れ草と砂埃。リオネルは竹筒に入れた簡素な朝粥を抱え、片手で杓子を弄りながら歩く。彼の肩越しに、ユルグは鞍に深く寄りかかり、馬具をひとつずつ点検している。ミナは手帳を胸に抱え、細かな図を描くように村や中継点の名をなぞっていた。先導の兵士は遠くを警戒し、普段の警護の列よりも間合いを取っていた。
「本当に、王子である必要が?」ユルグの声が低い。馬の蹄の音が落ちるたび、言葉が微かに響いた。
「王子でなければ話が通じない相手がいる。だが、だからといって強制はしない」リオネルは穏やかに答えた。返事の端に、昨夜の倉で見つけた皿のことがちらつく。胸の内は平静を保たねばならないが、目は食材や道行く人の手つきに自然と留まる。
ユルグはそれを嘲るように短く吐き出した。「あなたが『話を聞く』と言って人を収めるなら、俺は監視のために付けられた。王家の末子が民心工作をするのを黙って見ているだけでは済まされない」
「監視は構わない。だが剣を引かれるのは望まない」リオネルは言葉を選んだ。「剣が必要なときはあなたが振ればよい」
ユルグの額に皺が寄る。彼は辺境出身の騎士だ。王家に家族を奪われた過去が、彼の刃先を鋭くしていた。徴発された保存食のせいで村が空になり、死んだ妻と幼子の面影は、夜ごとユルグを目覚めさせる。だからこそ任に就いたのだ。王子を監視し、その言動が辺境を再び踏みにじらないかを見張る。懐柔が王権の暴走なら、剣で止めねばならない——それが彼の信念だった。
道の突端で、空気が一変した。遠くから怒鳴り声と金属音が届き、草むらの向こうで小さな群れが蠢いている。先導の兵が身構え、リオネルは杓子を軽く脇に挟んだ。
「ただの追いはぎじゃない」兵士の一人が呟いた。「あれは…農具でもない、木製の棒だ」
群れは近づくにつれてその正体を晒した。痩せた人々、手は泥で黒く、衣服は継ぎ当てだらけ。数人は鉄製の刃物を持っていたが、それは本来の武器ではなく、鍋蓋や壊れた鍬を削って作ったような代用品だった。彼らの目は怯えと決意が混ざり合い、唇は割れて乾いている。数歩後ろには、崩れかけた荷車に干し豆の袋がいくつか積まれていた。袋はかさつき、乾いた豆の欠けた粒が零れている。
「略奪だ」ユルグの手が剣柄に触れた。彼の足は自然と前に出、隊列の規律を取ろうとする。
だがリオネルはそれを呑み込み、ゆっくりと前に進んだ。杓子を両手で持ち、膝を折って腰を低くした。彼は王子という身分を覆い隠すことはしなかったが、王の威光で彼らを押さえつけるつもりもない。彼の目は群れの一人一人を丁寧に辿り、顔の皺、爪先の爪、乾いた唇のひび割れを読む。
「立ち止まってください」リオネルの声は穏やかだが、群れの中の一人――女の顔に届くと、女は反射的に脅えた後で諦めのように答えた。「取るしか…生きるしか」
「取られてきたのはあなたたちだろう。では、ここで話をしてみよう」リオネルは肩越しにユルグを見た。「私は聞く。あなたたちが何を減らされ、どんなに腹を空かせているか。私が手伝えることは手伝う。だがそれは、強制ではない。自分で一口を選ぶかどうかは、あなたたちで決めてほしい」
男たちのうち何人かが腕を突き出し、石を握る。だが声は減衰していった。リオネルの言葉は刃を収めるのではなく、机の傍らに置くように働いた。彼の目が、荷車の干し豆に留まった。表面に虫食いの穴がある。袋の底には小さな白い粉が残り、塩か何かかと思わせる。
「これはどこで取った?」リオネルが指し示すと、若い男が答えた。「村の外れの倉だ。守りが薄かった」
「それは、誰の管理下にあった?」彼の問いに答える者はいなかった。空気が重い。
リオネルは立ち上がり、杓子を傘のように掲げて、群れに向かって言った。「ここで私が料理を作ります。安全にする。皆、食べるか断るか、自分で選びなさい。だが条件がある。私が使う材料の由来は偽らない。誰がどうやって手に入れたか、隠さないこと。嘘があるなら、私は調理を止める」
その一言に、ユルグの眉が跳ね上がる。彼は監視者としての本能で反応する。「王子、それは甘い。詐欺師や罠があれば——」
「私が嘘をつくつもりはない」リオネルは静かだが確かに言い切った。「そして、誰かを無理に食べさせることもしない。選ぶのはあなたたちだ」
群れの一角で、小さな声が漏れた。老女が震える手で荷車の端を押さえ、目に光を戻す。「安全に……?」
「安全にする。毒や虫を取り、煮込んで、骨の髄を出すほどに柔らかくする。もし受け取るなら、自分の匙で一口取る。私から強いて口に入れることはしない」リオネルは自分の杓子を見つめ、そして笑ったように見えた。笑いは小さく、疲れを帯びている。
鍋を組むのは簡単な作業ではなかった。水を汲み、倒れた樹の枝を割って火を起こす。兵士が割り当てられ、村人がそれを手伝う。ユルグはそばで武器を構えたまま、視線を柔らかくした。彼の手は震えていないが、目は何かを訝しむように細めている。ミナは静かに近づき、乾いた豆を手のひらに取り、香りを嗅いだ。幼い頃から香りを文字にする癖のある彼女は、袋の中に残った微かな脂と、燃え残りの灰の混ざった匂いを記録していく。
リオネルはまず豆を水に晒した。薄い茶色の水が濁り、虫の屍骸や皮膜が浮かぶ。彼はその水を捨て、何度も替えた。次に、鍋に新しい水を入れ、豆を沈めて中火にかける。白い泡が立ち、丁寧に掬われる。焦げないように木杓子で底をかき混ぜる。灰を一つまみ、煮汁に入れて豆のえぐみを中和し、柔らかくなるまで時間をかける。火は均等で、決して熱くし過ぎない。熱の温度で何かを殺すのではなく、時間の温度で変化させるのだ。リオネルの手は穏やかに動き、その所作は昔の食堂での習慣を映し出している。
「加熱だけでなく、記録を残す」ミナが言った。「この豆はどこから来たか、誰が持ち出したか、どれだけの時間処理したか。誰が口をつけたかの証拠も」
「分かっている」リオネルは短く頷いた。「私が作ったこと、材料の出自、工程を口に出して告げる。嘘はしない」
鍋の蒸気が上がり、そこに三重の金色の輪がほんの一瞬綺麗に浮かんだ。空気は静まり、全員の息が止まる。ミナは目を見開き、筆を止めた。ユルグは手を動かしながらも、その輪を見逃さなかった。誰もがそれが何であるかは説明できないが、胸の奥が震えるのを感じた。
だが、発動条件は揃っていなかった。リオネルは自分が先に匙を入れ、味を確かめるようなことはしない――それは彼が定めた掟だ。食べる者が、自分で選ぶ一口を取り、自らの意思で喉に通すときにのみ、祝福は働く。皆がそのことを理解しているわけではない。そこでリオネルはゆっくりと説明した。声は低く、確かな調子で。
「この鍋は安全になった。だが大事なのは——私が味を整えることではない。あなたが自分で選ぶことです。私が味をどう評価するかは、今は関係ない。自分の匙で、どうぞ」
女が一歩前に出た。皺だらけの指で匙を掴み、震える唇で呟く。「私…食べていいの?」
「いい。ただし、あなたが自分で選んだ。それだけだ」リ