赤道直下の氷配達 第15話「エピローグ:轍の先へ」
一年後。 赤道都市圏の風景は、劇的には変わっていない。相変わらず日中は死の世界であり、人々は地下とドームの中で暮らしている。 だが、夜の荒野には変化があった。 ハイウェイを走る無数のライトの中に、中央管理AIの制御を受けない、自由な車列が混じるようになったのだ。 彼らは「赤道直下の氷配達」と呼ばれている。 ナオは、新しく新調されたトラックの運転席に座っていた。助手席には、かつての父と同じように、古いアナログ無線機が置かれている。 現在の気温は四十二度。日没から一時間が経過した。 「こちらスノウ・ホワイト号。ナオだ。……本日の配送ルートを確認する」 ナオがコンソールのスイッチを入れると、画面には
一年後。
赤道都市圏の風景は、劇的には変わっていない。相変わらず日中は死の世界であり、人々は地下とドームの中で暮らしている。
だが、夜の荒野には変化があった。
ハイウェイを走る無数のライトの中に、中央管理AIの制御を受けない、自由な車列が混じるようになったのだ。
彼らは「赤道直下の氷配達」と呼ばれている。
ナオは、新しく新調されたトラックの運転席に座っていた。助手席には、かつての父と同じように、古いアナログ無線機が置かれている。
現在の気温は四十二度。日没から一時間が経過した。
「こちらスノウ・ホワイト号。ナオだ。……本日の配送ルートを確認する」
ナオがコンソールのスイッチを入れると、画面には新しい地図が表示された。それは、かつての「生存優先度」によって色分けされた冷酷な地図ではない。人々の「営み」と「繋がり」が網の目のように描かれた、温かい地図だ。
『ナオ、準備はいい?』
無線からアイラの声が届く。彼女は今、大病院と砂漠の診療所を結ぶ、新しい広域医療ネットワークの責任者を務めている。
「準備万端です、アイラ先生。今日の荷物は?」
『特別な氷よ。……新しいワクチンと、それから、診療所の子供たちへのささやかなプレゼント』
「了解。……必ず届けます。誰一人、数え漏らさずに」
ナオはアクセルを踏んだ。
トラックが夜の闇へと滑り出す。
背後には、彼を信じて続く仲間たちのライトが連なっている。
かつて父が走り、自分が切り拓いた道。その轍は今、砂漠を越え、都市を越え、未来へと続いている。
氷の冷気とともに、ナオのトラックは疾走する。
熱砂の夜を切り裂き、誰も見捨てない、新しい夜明けに向かって。
(完)