明日を冷凍するスーパーマーケット 第14話「エピローグ:午前四時の光」
数週間後。 花村さんは無事に退院し、再び「蔵屋」に姿を見せるようになった。 「心臓の持病が悪化したんですって。でも、早めに自分で電話したのが良かったみたい」 彼女は以前よりも少しだけ小さくなった気がしたが、その笑顔の輝きは増していた。 冬馬は相変わらず、夜勤のアルバイトを続けている。 午前三時。 彼はいつものように冷凍庫の扉を開ける。 棚の最奥を確認する。 そこには時折、予言のラベルが貼られた商品が現れる。 だが、今の冬馬はもう、それに怯えることはない。 彼はラベルを読み、それが誰の未来なのかを考える。そして、必要であれば、そっとヒントを置く。 床を少しだけ滑りやすくして注意を促したり、賞味期
数週間後。
花村さんは無事に退院し、再び「蔵屋」に姿を見せるようになった。
「心臓の持病が悪化したんですって。でも、早めに自分で電話したのが良かったみたい」
彼女は以前よりも少しだけ小さくなった気がしたが、その笑顔の輝きは増していた。
冬馬は相変わらず、夜勤のアルバイトを続けている。
午前三時。
彼はいつものように冷凍庫の扉を開ける。
棚の最奥を確認する。
そこには時折、予言のラベルが貼られた商品が現れる。
だが、今の冬馬はもう、それに怯えることはない。
彼はラベルを読み、それが誰の未来なのかを考える。そして、必要であれば、そっとヒントを置く。
床を少しだけ滑りやすくして注意を促したり、賞味期限の近い商品を勧めて体調を気遣ったり。
それは予言者としての介入ではなく、一人のスーパーの店員としての、ささやかな「お節介」だった。
冬馬が未来を支配するのをやめたことで、店も、そして冬馬自身の人生も、再び動き始めていた。
大学への復学届を出したことを紗季に伝えると、彼女は「お祝いに焼肉ね!」と以前のような元気な声で笑った。
自動ドアが開き、新しい客が入ってくる。
冬馬は背筋を伸ばし、明るい声で挨拶をした。
「いらっしゃいませ。こんばんは」
スーパーマーケット「蔵屋」。
ここは、街の不幸を冷凍する場所ではない。
人々の「明日」という名の在庫を大切に守り、一人ひとりが自分の人生を選び取っていくための、ささやかな出発点なのだ。
窓の外では、夜の闇が少しずつ薄れ始めていた。
新しい朝が、すぐそこまで来ている。
冬馬は、自分の確かな足取りで、新しい一日へと踏み出した。