透明な島の給食当番

透明な島の給食当番 第15話「第12章:潮が満ちる時」

港には、島と本土を結ぶ連絡船が停泊していた。

港には、島と本土を結ぶ連絡船が停泊していた。

ハルと彼の家族を乗せる船だ。岸壁には、クラス全員が集まっていた。美央が代表して、昨日みんなで集めた募金箱を差し出した。だが、今度は「可哀想だから」という言葉は添えなかった。

「ハル君、これ。引っ越しのお祝い。新しい学校で、美味しいものでも食べて」

ハルは少し戸惑ったようだが、美央の真っ直ぐな瞳を見て、両手でしっかりと受け取った。

「ありがとう。……大切に使うよ」

船の汽笛が鳴り響いた。別れの時間が来たのだ。

ハルがタラップを上がり、デッキに立った。船がゆっくりと岸壁を離れていく。

「ハルー! 元気でねー!」
「また絶対会おうなー!」

クラスメイトたちの叫び声が、夕暮れの海に響く。ハルは身を乗り出すようにして、何度も何度も手を振っていた。

僕はその光景を、少し離れた場所から見ていた。胸の中に、ぽっかりと穴が開いたような寂しさが広がる。だが、それは決して冷たい穴ではなかった。

「凪!」

ハルが僕の名前を呼んだ。彼は両手を口に当てて、精一杯の声を張り上げた。

「凪! 僕、忘れないよ! 透明な島の、あの味を!」

僕は大きく手を振り返した。声は出なかったが、僕の思いはきっと届いているはずだ。

船は次第に小さくなり、水平線の彼方へと消えていった。島を包む空気は、もう完全に不透明な、いつもの潮成島に戻っていた。

「……行っちゃったね」

美央が僕の隣に来て、寂しそうに言った。

「うん。でも、ハルなら大丈夫だよ。あいつ、最後は自分の言葉で話せたから」

「そうだね。……ねぇ、凪。私、給食当番になって良かったって思う。文字は見えなかったけど、ハル君の本当の気持ち、ちゃんと聞こえた気がするもん」

美央はそう言って、少し照れくさそうに笑った。

僕たちは二人で、夕闇に包まれ始めた坂道を登っていった。足元の地面はもう透けていない。自分がどこを歩いているのか、その下に何があるのか、目には見えない。

でも、それでいいのだと思った。

目に見えるものだけが全てではない。むしろ、目に見えない部分にこそ、大切なものが隠されている。それを信じることが、誰かを信頼するということなのだから。